0 プロローグ
大煌都という街は、嘘が上手い。
西洋から渡ってきた石造りの建物と、何百年も前から根を張る社寺が、何事もなかったように肩を並べている。ガス灯の橙色の光が夜の石畳を濡らし、その隣では提灯の赤が揺れている。路面電車が走り、人力車が追い越され、洋装の紳士と着物の娘が同じ歩道を歩く。
矛盾だらけのはずなのに、この街はそれをすべて「風情」と呼んで飲み込んでしまう。
だから人々は気づかない——あるいは、気づかないふりをしている。
路面電車の運転手の耳が、帽子の下でかすかに尖っていることを。
老舗の呉服商の女将の瞳が、怒らせると縦に割れることを。
陸軍参謀本部の最奥に座る男の額に、前髪で隠された一本の角が生えていることを。
この国には、古い約束事がある。
「隠世協定」
人間とあやかしが、互いの正体を明かさず社会を共に営むという、表の法律には載らない盟約だ。
旧華族の名家の多くはあやかしの血を引いており、軍・政府の枢要なポストの相当数を、あやかしの血族が占めている。それは何代にもわたって積み重ねられた、静かな侵食だった。
人間の側も知らぬわけではない。薄々感じながら、問わないことを選んでいる。なぜなら問えば、答えを受け入れなければならないから。
大煌都とは、そういう街だ。
嘘と沈黙でできた、美しい街。
ただし、すべてを知ろうとする者にとっては、この街はひどく息苦しい場所だった。




