EP5.5 奴隷は頼まれていない仕事を完璧にこなす
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
コンカフェで働き始めてから、生活のリズムは完全にズレた。
俺は大学の講義と課題と家事に追われている。
一方でノアは、相変わらず家事はせず、昼過ぎになるとコンカフェへ出勤する。
喫煙タイムも欠かさない。
同じ部屋に住んでいるのに、別の時間を生きているみたいだった。
ある日、俺は家で課題のレポートをPCで作成していた。
締め切りが迫っていて、指先が少し震える。
コーヒーを飲んでも、集中力は戻らない。
「ご主人様、お手伝いしましょうか?」
背後から声がした。
振り返ると、ジャージ姿の奴隷が、いつものドヤ顔で立っている。
「いや、いい」
「俺の課題だし、自分でやる」
即答だった。
他人任せにしたら、負けた気がする。
相手が奴隷なら、なおさらだ。
ノアは肩をすくめ、それ以上何も言わなかった。
その日は夜遅くまで作業を続けた。
ノアはコンカフェから帰ってきて、さっさと寝た。
俺は机にかじりつき、コーヒーと眠気と戦いながら、なんとかデータを仕上げた。
そして、締め切り当日。
提出しようとして、手が止まる。
「……開かない?」
さっきまで書いていたファイルが、真っ白だった。
どうやら別のファイルで上書きしてしまったらしい。
頭の中が、一瞬で空になる。
終わった。
単位も、時間も、全部。
その時だった。
コンカフェ出勤前のノアが、俺のPCの横で指をトントンと叩いた。
視線を落とすと、見覚えのないUSBメモリが刺さっている。
「ご主人様、バックアップを取っておきました」
あまりにも平然と言うものだから、反応が遅れた。
データを開く。
――そこには、さっきまで必死に書いていたレポートが、そのまま残っていた。
膝から、力が抜ける。
「……なんで」
「頼まれていませんでしたが」
「消える可能性は高いと判断しました」
理由が合理的すぎて、何も言えなかった。
助かった。
間違いなく助かった。
それでも、素直に喜ぶのは癪だった。
俺は思う。
奴隷契約なんて、人生最大のミスだ。
でも――
こういう瞬間だけは、
少しだけ、判断を保留にしたくなるのも事実だった。
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作者:しけもく




