奴隷の完璧メイドぶりに財布が泣いた
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
今日は、コンカフェの面接日だ。
正直に言うと、俺はまったく落ち着いていなかった。
理由は一つ。
――奴隷が、何をしでかすか分からない。
いや、それ以前に、俺自身が平常心を保てるかどうかも怪しい。
というわけで、俺は客として店に入ることにした。
見守る。
監視する。
最悪の場合、逃げる。
完璧な計画だ。
成功するかどうかは別として。
店内に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
メイド服の女の子がずらりと並び、甘ったるい香りと、作られた笑顔が満ちている。
可愛い。
とにかく可愛い。
目の保養にはなるが、同時に俺の場違い感も限界を突破していた。
席に案内され、落ち着いたふりをして周囲を見渡す。
奥の控室で、ノアがオーナーらしき人物と話しているのが見えた。
ジャージ姿しか知らない俺からすると、すでに異世界の住人だ。
そして――
出てきた。
メイド服に身を包み、ヘアメイクまで完璧に仕上げたノアが。
金髪は柔らかく光を反射し、青い瞳は照明を映して透き通っている。
整った顔立ち。細い手足。無駄のない動き。
――女の子にしか見えない。
いや、誰がどう見ても女の子だった。
「可愛い!」
「新人さん?」
あちこちから声が飛ぶ。
ノアは少し照れたように笑い、自然にその輪へ溶け込んでいった。
……楽しそうだ。
胸の奥が、じわりと重くなる。
俺は椅子の背もたれを、無意識に掴んでいた。
(こいつ……普通にやれてる)
(いや、むしろ楽しんでないか?)
(お前、奴隷だろ……?)
耳を澄ませる。
いつ失敗してもフォローできるように。
だが――失敗しない。
注文取り。
ドリンク提供。
距離感。
笑顔。
全部、完璧だった。
やがてノアが、俺のテーブルへやって来る。
ドヤ顔だ。
「ご主人様、ご注文のえだまめです」
やめろ。
そう叫びたかったが、声は喉の奥で凍りついた。
小皿の上には、丁寧に盛りつけられたえだまめ。
(えだまめ一皿で、この破壊力……?)
その時だった。
ノアがトレイを置く瞬間、
俺の方をちらりと見て――
一瞬だけ、
ドヤ顔でウインクした。
(おい)
(完全に楽しんでるだろ)
俺は視線を逸らした。
気づけばドリンクを頼み、
気づけばチェキを撮り、
気づけば追加注文をしていた。
全部、奴隷の完璧な接客に乗せられた結果だ。
レシートを見つめながら、財布の軽さと未来への不安に震える。
「……これ」
小さく呟く。
「俺の生活費、稼げてるのか?」
この時の俺は、まだ知らなかった。
この店が、
俺の財布を救う場所なのか。
それとも――
完全に破壊する場所なのかを。




