EP4 株は何となく怖いので、奴隷がメイド服で働くことになった
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
冷蔵庫を開ける。
何もない。
正確に言うと、
期限の切れたマヨネーズと、
一本だけ残ったチューブわさびがあった。
「……終わってんな」
俺は静かに冷蔵庫を閉めた。
現実を直視しすぎると、心が折れる。
財布を確認する。
軽い。
中身も、希望も。
スマホで口座残高を確認しかけて、やめた。
現実は、見ない方がいい時もある。
背後で、煙の気配がした。
「生活費が不足していますね」
窓辺を見ると、ノアがいつものようにタバコを吸っている。
金髪に青い目、俺のボロいジャージ姿。
どう見ても女にしか見えないのが、余計に腹立つ。
「分かってるよ」
「だからバイト探してんだろ」
「でしたら、収入を増やす方法はいくつかあります」
嫌な予感がした。
「例えば――」
「株は却下な」
即答した。
「まだ何も言っていませんが」
「どうせ株かFXだろ」
「怖いんだよ、そういうの」
ノアは少し首を傾げる。
「リスク管理をすれば――」
「怖い」
「分からん」
「失敗したら終わり」
三点セットで封殺した。
「ではFXは」
「もっと怖い」
「仮想通貨は」
「名前からして怖い」
「短期トレード」
「言葉が怖い」
ノアはしばらく考え込み、
煙を吐いてから言った。
「労働による対価、ということでしょうか」
「そうそう、それ」
「時給が決まってて、働いた分だけ金が出るやつ」
人類が長年信頼してきた仕組みだ。
「では、どこで働きますか?」
俺はスマホを操作し、求人アプリを開いた。
コンビニ。
居酒屋。
引っ越し。
どれも時間が合わない。
大学の講義、課題、生活。
現実は、平等に厳しい。
スクロールしていると、ふと目に入った。
――男性向けコンセプトカフェ。
制服は可愛くて、
時給は、明らかに高い。
「……女だったらな」
思わず、ため息が漏れた。
「僕がやりますか?」
背後から声がした。
振り返ると、ノアが薄くドヤ顔を浮かべている。
「は?」
「合理的だと思います」
「集客効率も、視覚的価値も高いです」
「……いや」
「お前、その格好で言うな」
「制服は貸与されるはずです」
「問題ありません」
淡々としているが、
内容が一切淡々じゃない。
「お前、男だぞ」
「はい」
「奴隷だぞ」
「はい」
「ヤニカスだぞ」
「事実です」
否定しろよ。
俺はスマホを閉じ、深く息をついた。
冷蔵庫は空。
財布も空。
選択肢も、だいぶ少ない。
目の前には、
俺のジャージを着た金髪の奴隷が、
自信満々に立っている。
嫌な予感しかしなかった。
たぶんこれが、
後戻りできない選択だということも、
薄々分かっていた。
――こうして、
俺の生活費は、
奴隷の女装バイトに託されることになった。
この時はまだ、
それがどれだけ俺の財布と精神を削るか、
本気では想像できていなかった。
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作者:しけもく




