【第一部 最終話】味方が一番信用できない奴だったんだが
ヒロとサクラは施設へ向かっていた。
ノアが生きていた。
その事実だけで頭がいっぱいだった。
死んだと思った。
レオンもそう言った。
それなのに。
モニターの向こうのノアはいつも通り笑っていた。
「意味分かんねえ……」
ヒロは頭を掻く。
「死んでねえなら帰ってこいよ」
「そうですね」
サクラも小さく頷いた。
「動けないそうですので」
「だからってだよ」
ヒロはため息を吐いた。
聞きたいことは山ほどあった。
だが。
本人は施設へ来いの一点張りだった。
納得できる訳がない。
二人は人気の少ない道を歩く。
その時だった。
サクラが足を止める。
「ヒロ様」
声の調子が変わっていた。
ヒロも振り返る。
後ろ。
男が三人。
ゆっくりと近付いてくる。
嫌な空気だった。
「なんだ?」
ヒロが眉をひそめる。
男の一人がナイフを抜いた。
「うおっ!?」
ヒロが一歩下がる。
サクラが前へ出る。
だが。
その瞬間だった。
ゴッ。
鈍い音。
男の一人が横へ吹き飛んだ。
「は?」
ヒロは固まる。
視線の先。
鉄パイプを持った少女が立っていた。
黒いゴスロリ。
無表情。
見間違えるはずがなかった。
「ミラ?」
男が怒鳴る。
「なんだテメェ!」
飛び掛かる。
ゴッ。
鉄パイプが振り下ろされる。
男は地面へ倒れた。
残った二人の顔色が変わる。
「逃げるぞ!」
三人は這うように立ち上がり、一斉に走り出した。
ヒロは少しだけ安心する。
終わった。
そう思った。
だが。
ミラは首を傾げた。
「なんで逃がすの?」
嫌な予感がした。
次の瞬間。
ミラが地面を蹴る。
速い。
一瞬だった。
先頭の男へ追い付く。
ゴッ。
鈍い音。
男が前のめりに倒れる。
二人目。
振り返る暇もなかった。
ゴッ。
倒れる。
最後の一人。
悲鳴を上げる。
ゴッ。
静かになった。
ヒロは固まる。
サクラも目を瞬かせた。
ミラは転がる三人を見下ろした。
そして。
「下手」
ぽつりと呟く。
「は?」
ヒロが聞き返す。
ミラは男たちを眺める。
「囲むのが遅い」
一人。
「間合いが近い」
二人目。
「連携もない」
三人目。
「判断も遅い」
少し考える。
そして。
「素人」
採点だった。
完全に採点だった。
ヒロは頭を抱えた。
男たちは既に気絶している。
「誰に言ってんだよ」
ミラは即答した。
「感想」
ヒロは何も言えなかった。
ミラは満足したのか頷く。
そして鉄パイプを放り捨てた。
ガラン。
乾いた音が響く。
「どこから持ってきたんだそれ」
ヒロが聞く。
「落ちてた」
「落ちてねえだろ」
「落ちてた」
言い切った。
ヒロは諦めた。
サクラは小さく頭を下げる。
「ありがとうございました」
ミラは反応しない。
そのまま歩き出す。
「行く」
「え?」
ヒロが間抜けな声を出す。
ミラは振り返らない。
「施設」
それだけだった。
「待て待て待て!」
ヒロは慌てて後を追う。
サクラも続いた。
やがて。
見慣れた施設が見えてくる。
ノア達が育った場所だった。
ミラは迷うことなく奥へ進む。
カードキーをかざす。
電子音。
重い扉がゆっくりと開く。
ヒロは息を呑んだ。
信頼できる味方。
ノアはそう言った。
その先に立っていたのは。
「やあ」
黒いスーツ。
整えられた黒髪。
穏やかな笑み。
アルヴァルトだった。
ヒロは数秒固まる。
そして。
「味方ってお前かよ!」
─貧乏大学生が酔った勢いで奴隷契約したら、美少女だと思った相手が男でヤニカスだった件─
終わり
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ひとまず第一部はここまでで一旦完結となります。
次回からはノア視点で物語が進みます。
皆さまとまたお会いできることを願っております。




