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EP2 契約解除しようとしたら、違約金三千万だった

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。


 この時の俺は、まだ「何とかなる」と思っていた。

 正確に言えば、何とかなると思い込もうとしていた。


 朝の混乱から数時間後。

 俺はテーブルの前に座り、契約書を睨みつけていた。


「……解除」


 小さく呟く。

 当然、何も起きない。


 スマホを取り出し、検索する。


 《奴隷契約 解除》

 《奴隷契約 キャンセル》

 《奴隷契約 返金》


 途中から、検索ワードが雑になっていく。

 現実を直視できていない証拠だ。


 ようやく公式サイトに辿り着き、俺は「よくある質問」を開いた。


 ――Q:契約後のキャンセルは可能ですか?

 ――A:原則として不可です。


「……原則?」


 その二文字に、俺は全力で希望を託した。


 すぐ下。


 ――例外として、両者の合意、または違約金の支払いにより解除可能です。

 ――違約金:三千万円。


「……は?」


 声が裏返った。


 三千万。

 ゼロが三つ多いとか、そういう話じゃない。

 昨日までの俺の全財産は、もう存在しない。


 追撃は続く。


 ――最低契約期間:一年。


 一年。

 大学生活の中でも、かなり重たい単位だ。


「……いや、待て」


 俺は立ち上がった。

 ネットの情報が全部正しいとは限らない。

 こういう時は、ちゃんとしたところに相談するべきだ。


 そう思って向かったのが、市役所だった。


 市民相談窓口。

 平日の昼間。

 周囲は年配の人ばかりで、俺だけが明らかに場違いだ。


 順番が来て、俺はできるだけ言葉を選びながら説明した。


「個人間の……長期契約で……」


「解除条件は記載されていますか?」


「はい」


「違約金は?」


「……三千万です」


 一瞬だけ、職員の女性が瞬きをした。

 だがすぐに、にこやかな表情に戻る。


「正規の契約でしたら、記載内容が優先されますね」


「返金とか……」


「難しいかと」


「キャンセルは……」


「難しいかと」


 笑顔は最後まで崩れなかった。


 俺は深く頭を下げて、その場を後にした。

 ダメ元だった。

 本当に、ダメだった。


 夕方。

 重い足取りでアパートに戻り、ドアを開ける。


 窓辺に、ノアがいた。


 俺のシャツを一枚だけ羽織り、夕焼けを背に立っている。

 細い指にタバコ。

 女にしか見えない。


 一瞬、言葉を失った。


「……タバコ吸うな!」


 ノアは落ち着いた様子でこちらを見る。

「問題がありますか?」


「あるに決まってるだろ! ここ俺の部屋だぞ!」


「契約書には、喫煙禁止の記載はありません」


 嫌な音が、胸の奥で鳴った。


 俺は契約書を掴み、必死に目を走らせる。

 どこにも「禁煙」の文字はない。


 膝から力が抜けた。


「……市役所まで行ったのに」


 ノアは煙を吐き、静かに言う。

「ご主人様」

「生活に支障がある場合、別の方法で補填することは可能です」


 嫌な予感しかしない。


「……例えば?」


「肉体的奉仕による――」


「それは禁止!!」


 夕焼けは綺麗だった。

 契約は最悪だった。


 こうして俺は、

 解除不可、返金不可、ヤニ可の契約を抱えたまま、

 一年という現実と向き合うことになった。


 この時はまだ知らなかった。

 この契約が、じわじわと俺の生活を侵食していくことを。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

気に入っていただけましたら、評価やブックマークなどしていただけると励みになります。


作者:しけもく

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