起きたら奴隷がいた。しかも美少女だった(と思った)
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
目が覚めた瞬間、俺は三つの異常事態を同時に認識した。
一つ。天井がやけにぐるぐるしている。
二つ。喉が砂漠みたいに渇いている。
三つ。
――金髪の女の子が、俺のシャツ一枚で、俺のベッドを完全占拠している。
「……は?」
声が裏返った。
夢だ。
これは夢だ。
そう思えば、現実逃避としては十分成立する。
だが神様は、やけに丁寧だった。
視線をずらすと、テーブルの上に紙が一枚ある。
契約書。
『奴隷契約書』と書かれている。
見覚えのあるフォーマット。
見覚えのある署名。
そして、見覚えのありすぎる自分の名前。
「……俺、昨日、何やった?」
思い出そうとした瞬間、脳が拒否した。
代わりに「酒」「安売り」「一生に一度のノリ」という単語だけが反響する。
俺は一旦、現実から逃げることにした。
シャワーを浴びれば、だいたいの問題は一度リセットされる。
少なくとも、そう信じて生きてきた。
──十分後。
バスルームから出た俺は、今度こそ完全に固まった。
金髪の少女――いや、金髪の“契約対象”が、畳の上で正座していた。
三つ指をついて。
「おはようございます、ご主人様」
「やめろ! その呼び方今すぐやめろ!」
反射で叫んでしまった。
近所迷惑とか、そんな余裕はなかった。
「では、マスター?」
「もっとダメだ!」
彼女は首をかしげる。
仕草はどう見ても美少女。
なのに立ち居振る舞いが妙に堂々としている。
「本日より、あなた様のお手伝いをさせていただきます。
掃除、洗濯、炊事、その他――」
一瞬、間を置く。
「……炊事は無理ですね」
「即答かよ」
「掃除もできません」
「威張るな」
「洗濯は理論的に理解していますが、実践経験はありません」
「つまり?」
「やりません」
なんでそんなに自信満々なんだ。
頭を抱えていると、彼女が一歩距離を詰めてきた。
「ですが、ご安心ください」
やけにいい笑顔だった。
「肉体的奉仕での問題解決は、非常に得意ですので」
「待て待て待て待て」
一歩下がる。
一歩進まれる。
完全にホラーだ。
「家事ができないなら、体で返せばいい。合理的でしょう?」
「合理性の使い方を間違えてる!」
止めようとして、勢い余って――押し倒した。
「あ」
世界が止まった。
理解してしまった。
見慣れた“それ”を、俺は確かに見てしまった。
思考が、綺麗に停止する。
「……」
沈黙の中、彼は不思議そうに俺を見上げた。
やけに青い目だった。
人間の目というより、ガラスみたいに冷たい色。
「何か問題でも?」
問題しかない。
その直後、彼はポケットから煙草を取り出した。
「吸うなァ!!」
こうして俺の最悪な契約生活は、ヤニ臭く幕を開けたのだった。
――最悪だ。
だが、このまま終わる気もなかった。




