その名は『女子会』
(なんなの?!これ!!)
アリアンレーゼは驚きで声が出なかった。
こんな甘味は見た事が無い…
ここまでの甘いお菓子など食べた事もなかった。
見ればあのリアですらうっとりとしている…
こんな品を用意出来るなんて……
ハルト…貴方は何者なの?!
「アリア様ただいま戻りました」
「あら、リア…おかえり……」
「会談お疲れ様でした…どうでしたか?」
「そうね、町長の話に怪しい所は無いわ…こんなに急に発展する事自体が既に怪しいのだけれどね…」
エクスワイヤ侯爵家の長女、アリアンレーゼ・エクスワイヤは聡明な人物である。
我儘令嬢と呼ばれる事もあるがそれはまだ十代の年相応な態度と彼女の能力に嫉妬した周囲の大人が流したくだらない噂である。
領民からの信頼も厚く、本人も貴族、平民を差別しない性格で有能であれば平民ですら登用を勧める性格である…
それは領地を発展させてきた両親の影響が強いと思われる……そんな彼女を好ましいと、リアは思っている。
「そうですね……私も周辺を見て回りましたが、本当に祭りの様ですね…至る所に騎士や衛兵の姿があり、何かを企んでいる様な風ではありませんでした」
「!!リアずるいわ!私もお祭りに行きたいのに!」
「…明日はその時間も取ってありますよ?まずは領主代理としての責務を果たされませんと」
「うぅ〜わかってるわよ!……それで……外の様子はどうだった?」
目を輝かせて話をせがむ姿は侯爵令嬢とは思えない部分があるが……年頃の子供である事を考えれば、それも仕方がないかと感じてしまう。
「そうですね…来る時に見た中央の公園を起点として、周囲にいろいろな店が出ておりました……」
街道を埋めるように出店されており、その背後にある通常の店舗はまだ営業していなかった…見たところ、まだ建設中であり、改装中のものも見受けられた…今現在も工事が進んでおり、その前面に屋台が展開することでうまく隠しながら作業を進めており、非常に効率が良いと感じた…今後もまだ、この街は発展する。
「それぞれの街道にもステージが用意されており、楽団が演奏したり、芸人がいたりと多くの人が集まっていました」
ハルトの提案でそれぞれの区画にテーマを持たせていた。
商業ギルド通りには『食』…屋台や飲食中心の店を多く出店させていた。
冒険者ギルド通りには『武』…飲食の店は少なく、武器屋、防具屋の仮設店舗が出店して武器のメンテナンスや模造刀を使った腕試し、素材別の耐久度の違いの解説や鍛治の体験会や奥のステージでは、力自慢による腕相撲大会や腕自慢的な催しが用意されていた。
平民のギルドの通りは『生活』一般市民の日常生活で使う小物や衣服、日常生活品などの販売やフリーマーケット的な催しが開かれていた。
錬金ギルドの通りは『体験』がテーマであり、薬品の販売、調合や素材への付与を体験できる店やイベントが多く用意されていた。
騎士団本部には騎士達の訓練の様子や騎士団の仕事などを体験できたり紹介するイベントが開かれており子供達を中心に人気を集めていた…明日はこの通りで『ファイアドレイク』のパレードが開かれる話題で持ち切りだった。
「こんな祭り、他の領でも聞いた事が無いわ」
「…そうですね…前例がありません……」
「まぁ…エクスワイヤ領の発展に繋がるなら良い事だわ」
「………」
アリアンレーゼは深くは考えていない様だが……これらの一部の技術、技巧は武力への転換も可能だ。
一歩間違えば王家が疑心を向けかねない。
思考の海から戻ってきたリアは、先ほどまで目の前にいたはずのアリアンレーゼがいない事に気が付いた。
「……?あら?アリア様は?」
「先程…お花を摘みに……」
「ひゃああああ〜」
トイレの使い方を報告し忘れていた。
シャクテンより少し離れた岩場に数人の男たちが身を潜めていた。
全身が黒づくめで今戻って来た男だけは旅人風の格好だった。
「街の様子はどうだった?」
「祭りでみんな浮かれてやがる…情報通りエクスワイヤ侯爵家の娘が到着した様だ……護衛の数が異常に多い……」
彼らは、南部から流れてきた盗賊団であった。
偶然、手に入れたアリアンレーゼ来訪の知らせを聞いて同じくシャクテンにやってきたのだった。
「情報通り祭りで近隣から人が多く流れ込んでいる…潜り込むのは簡単だ」
「侯爵家の娘を人質に身代金をたっぷりと請求して……」
「……またしばらく遊んで暮らせるな」
「そうと決まれば、親方に報告だ」
男達は、支度を済ませると本体と合流するために移動を始めた。
「ふふ…作戦成功ね」
翌日、アリアンレーゼは町娘の格好で通りを歩いていた。
公爵家の令嬢ともなると、自由は無く、好き勝手に振る舞う事もできない。
そんな愚痴をこぼしたところ、新しく入った侍女が町娘の着る服を用意してくれた。
午前中の予定が終わり、少しばかりの休憩時間の利用してアリアンレーゼは服を着替えると、侍女の手によって街へと抜け出した。
「街に一人で出かけてみたかったのよね…お祭りだし人も沢山いるし……何より警備の者がこれだけいれば安全よね?」
アリアンレーゼは知らなかったのだ。
その侍女が盗賊団と繋がっている事を……既に街に潜入した盗賊団が、彼女を尾行していることに……
「ここも特に問題は無いかな?……なんだろう何か騒ぎかな」
巡回をしていたハルトは屋台の方から聞こえて来る声に気が付き声をかけた。
「すいません〜何かありましたか?」
「ハルトさん!ちょうどよかった…こちらのお嬢さんが代金が支払えないと……」
「な、なによ…今は連れが居ないから……支払えないだけだからね!」
「…ふむ……わかりました。ここは僕が払っておきます」
何かを察したハルトは、素早くシャクテンペイで支払いを済ませると彼女の手を引いて座れる場所を探した。
「ここで食べましょう」
「……あ、ありがとう……」
ハルトは公園のベンチを確保すると女性を座らせて商品を手渡した。
燃えるような赤毛のポニーテール……服装こそ町娘風だが……自分では支払いをしない高貴な身分……つまり………
とりあえず彼女が食事を終えるまでは静観していよう。
「あの…」
「?はい…あぁ……コレを食べるのは初めてですか?」
「はい……初めて見る食べ物です」
「これは『じゃがバター』と言いまして……』
「…この棒で割って食べるのね?」
当然この世界の人間は箸の使い方など知っている筈も無い……大きな串の様な使い方をするのだ。
「本来はこの様にして……はいどうぞ、熱いので気をつけてね」
「え?あ…あの……えい!!」
口元に差し出された食べ物をどうしたら良いか分からずにいたアリアンレーゼだが……意を決してパクりと食い付いた。
「!!んんっ!!」
「わっ!そんな勢いで!えーと水!」
ハルトは慌て収納から水に入ったコップを取り出す。
それを受け取ったアリアンレーゼは勢いよく水を飲んだ……そして……
「何これ?!ジャガがこんなに美味しいなんて!!」
「気に入って良かった…塩の流通が始まったからね……バターの生産も盛んなんだ……ところで…君の事はなんと呼べば?」
「……あ!私はアリア……アリアよ……貴方は?」
「僕はハルト………シャクテンヘようこそ……」
「…ハルトって見た目若いのにすごく落ち着いてるわね……」
「そうかな?あははは…」
中身は既に三十を超えてるからね……
十代の女子との会話は業務的なやりとりなら、アルバイトの子達で慣れているからね…
少々振り回されても、特に何も思わないのだよ。
その後も夢中で食べる彼女と会話をしながら色々と親睦を深めた.
「ふふ…貴方は物知りみたいだから…この街を案内してくれると助かるわ」
「え……うーん…大丈夫かな?わかった……」
一応巡回の役目があるのだが……リカに連絡しておこう。
ストアマネージャーの機能『業務連絡』を起動する。
『はーい、ハルトさんどうしました?』
「実は……迷子の『クイーン』を保護してね…一緒に巡回するよ」
『了解!……なんで『クイーン』がそんな所に?』
「うーん?取り敢えずアカメ達にも知らせておいてね」
『わかりました……所でハルトさん?どこでフラグを立てたのかしら?』
「!?じゃ、じゃあよろしくね!!」
『あ、ハルトさんまだお話は……』
リカが闇の感情を見せ始めたので連絡を終了させる……
大丈夫、これは親切心から来る道案内だ……大丈夫…大丈夫……
何かを自分に言い聞かせながらアリアンレーゼを案内する。
「あれは何?」
「あれは魔石の廃材を使ったアクセサリーですね」
「これは?」
「羊型の魔物から取れる羊毛を加工した装飾品です」
アリアは見る物全てが珍しいようで、気になる事は全てハルトを質問攻めにした。
(つい最近似たようなことがあった様な…)
今日の一番の目玉であるファイアドレイクのパレードを見た後は中央の公園まで戻ってきた。
果物を加工したジュースを手に二人は休憩する事にした。
「すごく楽しかった!…ファイアドレイクもあんなに大きさだなんて…」
「そうだね……」
ハルトの収納にはアカメ達と実戦の練習として狩りまくったファイアドレイクが後.数体保存されているのだが……しばらく日の目を見る事はなさそうだ。
「ここはいい街ね……皆んなが笑顔だわ…」
「それはよかった…では、そろそろ……」
「侯爵令嬢アリアンレーゼだな!」
気がつけば、周囲を黒ずくめの男たちが取り囲んでいた。
「何よっ!貴方達は?!」
今にも食ってかかりそうなほどの彼女をなだめながら、背中にかばう……後から「あっハルト…♡」とか聞こえてきたが、聞こえなかった事にしよう……別にリカさんが怖いわけではない。
「俺達か?知りたいのなら教えてやろう!」
「俺達はこのホロウウィン王国で知らぬも者は無い!」
「残虐非道!泣く子も、黙る悪名高き盗賊団!」
「その名も」
「「「パイレーツ盗賊団だ!!!」」」
男たちは、一糸乱れぬ動きで名乗りを上げるとポーズを取った……すごく練習したんだろうな。
しかし、周囲からは「パイレーツ?盗賊?どっちだよ?」「お前聞いたことあるか?」「何かしら?何かのイベント?」「何か面白そうなことやってるぜ!」
知名度は愚か逆にイベントと勘違いされ、逆に人が集まってきてしまった…彼らの伝説は、ここから始まるのかもしれない。
「あの悪名高きパイレーツ盗賊団ですって?!なんて事!!」
どうやらアリアは知っていたらしい……君達良かったね。
「あまりの恐ろしさに声も出せないか…今からお前を誘拐し、侯爵家に身代金をたっぷりと要求してやる…それまで俺達がたっぷりと可愛がってやるぜ!ハハハハハハ」
「くぅ!!…ハルト…貴方だけでも…」
何か当事者たちが盛り上がっているけど……見れば、周囲を制服を着た警備員の人達がカラーコーンを設置しながら
『ここから中には入らないでね〜』と会場を設営している…なんだコレ?何が起きてるの?
「やはりトラブル発生ね」
リカは司令センター内からモニター越しにハルトの様子を見ていた。
ここはストアマネージャーの機能『防犯』により発動した『ナイソック警備』の司令センターだ。
晴人によりストアマネージャーの機能の共有を許可されてから色々検証している時に発見した項目だった。
警備の項目にある『施設警備』と『要人警護』によりこの街と要人…ハルトとアリアンレーゼには警備が付いていたのだ。
「アカメ…準備はいい?」
『いつでもいいぞ!』
『リカさん…本当にするのですか?』
「ふふふ!オペレーション『P』開始よ!」
『そこまでよ!』
そんな会場に女性の声が響き渡った。
「誰だっ?!」
盗賊団は慌てて周囲を見回した。
やがて盗賊団の一人が、建物の屋根を指差した。
「あそこだ!」
「あそこにも!!」
人々が公園を囲むギルドの屋根の上にそれぞれ人影を見つけた…その数は三人……
「(ハルト君の住む)この街の平和を脅かすものは私が成敗する!!とうっ!」
屋根の一人が跳躍し、広場に着地した。
「(ハルト君の)平和を乱す悪を切り裂く剣!!『剣侍女騎士』!!」
アカメだった。
「(ハルト殿の)平和を守る盾!!『盾侍女騎士』!!」
同様にアオリも登場した……
「(ハルト様の)平和を乱す者は許さない!!『魔侍女騎士』!!」
キーラも登場した…周囲の観客は大盛況だ……特に子供たちの喜びようは予想以上である。
「ハルト…これは?一体……」
「えーと…邪魔になるから移動しようか…」
「格好いい!この人達凄く格好いい!!」
「はいはい…少し離れて見ようね」
今の間にアリアンレーゼを連れて人だかりの中に潜り込んだ。
これ、確か真希ちゃんに昔聞いたことがある様な気がする……日曜の朝にやってるアニメではなかろうか?
「な、なんだお前達は!」
「「「我々は!!!」」」
三人が揃ってポーズを取る…練習したのだろうか?それとも姉妹だから息が合うのだろうか?
「「「(ハルト(君)(殿)(様)の)街を守る!『美少女侍女騎士隊!!」」」
彼女たちの背後に、彼女たちの色に合わせた煙幕が爆発した。
アニメの方じゃなくて戦隊の方だったのかな?
しかし周囲の人達からは拍手喝采である。
彼女達は、顔に仮面をつけており、正体がばれることはないと思うが、よく見れば耳まで真っ赤だ……
後で何かおいしいものでも差し入れしよう。
「野郎ども、やっちまえ!」
盗賊団が剣を抜くのと、同時にキーラによって周囲に結界がドーム状に張り巡らされた……これで観客に怪我人が出る事は無いだろう。
「ハルトさん」
「あ、リカ…これは何かのイベント?」
現場にやってきたリカによってストアマネージャーの機能であることを知らされた。
武力行使で人々危険にさらすよりも、彼女達の力を使ってイベントとして対処しようとしたようだ…盗賊達は剣や魔法を使って襲って来るが『侍女騎士』となった三姉妹の力には及ばない……一方的な蹂躙がされていた。
「さすがだね!リカ…」
「せっかくの祭りだもの…最後まで成功させたいですからね……ところで、隣の彼女が「クイーン」ですか?」
「え、あ、はい……」
アルトの隣では必死に声援を送るアリアンレーゼの姿があった。
リカの声のトーンが下がったのを感じとり、ハルトは姿勢を正した。
そんなやり取りをしていたのでその背後から近づく二人の男の姿に気がつくのが遅れた。
「大人しくしろ!」
「んんっ!!」
背後から羽交締めにされたアリアンレーゼは人質に取られてしまう……流石のハルトとリカも人質を取られては手が出せない……
「早くこの結界を解け!!」
「貴方達!私を誰だと思って……!!」
「うるせぇ!痛い目に遭いたくなければ大人しくしろ!!」
勝気なアリアンレーゼだが、ナイフを突きつけられては大人しくするしか無い……かと思いきや、それしきの事では大人しくなるアリアンレーゼではなかった。
「離しなさいよ!」
「ちょっ!大人しくしろっ!!」
「あうっ!」
暴れるアリアンレーゼを男が殴りつけた。
それを見た瞬間…ハルトの中の何かが溢れ出した。
「?!」
「彼女を離せ…」
ハルトの異変に気がついたのはリカだった…上手く言い表せない複雑な感情が胸の奥に湧き上がった……
(何?この感覚…怒り…悲しみ?…あぁ…ハルトさんの中から流れ込んでくる!!)
「ハルト…さん…この力は……」
ふらつきながらも必死にハルトに手を伸ばす……そんなリカの目に映り込んだのはハルトの体から溢れる黒いオーラ……まるで触手の様に蠢いていた。
周囲の人達にはそれが見えていないのか、勇気ある青年が、暴漢に対して説得を試みている様に見えているのだった。
「なんだテメェは?!」
「…ハ、ハルト……」
「…もう一度言う…アリアを離せ」
「何を馬鹿な……?!」
ハルトが手を伸ばし、手の平を握りしめると触手が男の首に巻き付いてゆっくりと締め上げ始めた。
「?!おいっ!どうした!お前何をし……?」
もう1人の男にも、同様に触手が巻き付き締め上げ始めた……このままでは殺しかねない…
「ハルトさん!!…ダメっ!」
リカは後ろからハルトに力一杯抱き付いた。
「?!リカ?」
リカに気が付いたハルトは我に帰った様に声を上げた……次の瞬間、黒い触手は煙のように消え去った。
男達が怯んだ隙にアリアンレーゼは身を屈め男達に膝蹴りと掌底を喰らわせた。
「この私が黙って捕まるなんてありえないわね!!」
「凄っ!…やるわね…」
その立ち回りにリカが賞賛の声を上げた。
周囲からも「ねえちゃんやるな!」と拍手が起きていた。
中央の結界の中もほぼ鎮圧されており、男達は無力化されていた。
「くそっ!なんだよコイツら!」
「聞いてないぞ!!」
「大人しくしろ…犯罪者どもめ!」
「うるせぇ!この馬鹿力のゴリラ女!」
盗賊達は次々にアカメ達に暴言を投げかける。
『警告!『カスタマーハラスメント』を確認しました!従業員への心無い暴言は許容出来かねます!該当するお客様は当施設からの強制退去処置を取らせて頂きます。尚、今後一切の当施設への『出入り禁止措置』を取らせて頂きます』
「「んんっ?!」」
ハルトとリカの脳内に『ストアマネージャー』からの通達が流れた。
広場の中央で倒れ込んでいた男達はその姿が消え、街の入り口の騎士団詰所前に転移した……
「…消えた!?…凄いわ!『美少女侍女騎士隊』!!」
「かっこいいー!!」
「こっち向いてくれー!!」
周囲からは割れんばかりの歓声が上がった。
「ま、街の平和は守られた!ではさらばだ!!」
アカメ達は慌ててその場から飛び去った。
周囲を警護していた『ナイソック』の警備員さんもいつも何か居なくなっていた……どういった仕組みなのだろうか?
「アリア様!大丈夫ですか?!」
気がつけば既にアリアンレーゼは彼女の護衛達に見つかって取り囲まれて治療されていた。
「アリア様?説明して貰えますかね?」
「リア…あの…」
「説明して貰えますかね?」
「ひいっ!!」
侍女のリアに詰め寄られてアリアンレーゼは悲鳴をあげた……彼女は笑顔だったが目が全く笑っていなかった…
「ハルト様、リカ様…アリアンレーゼ様がご迷惑を……」
「いえ、…こちらこそ何かご迷惑を…」
「貴方方には感謝しかありませんよ…良くぞ保護してくださいました……さぁ…アリア様…ゆーっくりとお話を伺いますからね?貴女を騙した侍女の身柄は既に押さえてありますから……今からじっくりとお話を聞きかせていただきますわ」
「ひいっ!ハルト!助けて!」
アリアンレーゼがハルトにしがみつく……そこでようやくリカの存在に気がついた様だ。
「と、ところで…ハルト…その女性は誰だ?」
「私ですか?私の名はリカ、ハルトさんの仕事のパートナーであり、あっちの方のパートナーでもあります」
「!!あっちの方ですって!!………リア…あっちとはなんの事かしら?」
「…アリア様……ハルトさんの恋人さんですよ」
「!!恋人……恋人?!」
「あらあら〜私達はザ・平民ですので〜高貴なる存在のアリアンレーゼ様には相応しくない存在ですのよ?オホホ…ごめんあそばせ」
「ぐぎぎぎ!」
何故が全く下手に出る事なくアリアンレーゼを煽るリカ…その姿に歯を食いしばるアリアンレーゼ……大丈夫かな?後で怒られたりしないかな……そこで視線を感じたハルトは一人の眼鏡の女性がこちらを見ている事に気がついた。
「?……えーと…何か?」
「…いいえ…」
リアと呼ばれた侍女さんだった……何か機嫌が悪そうだけど………あれ?さっき名前を呼ばれたよね?初対面の筈だけど……
「…全く…アリア様行きましょう…」
「え?どこへ…」
「本日は街を見て回るとお伝えしたでしょう?…アリア様も楽しみに……聞いてました?」
「えっ?あぁ…そうね……こんな本格的にしてくれるとは思って無かったから……」
見れば侍女達やリアは全員町娘の様な格好だった。
護衛の騎士達も普段着だ……
「しかし先ほどの騒ぎで正体がバレバレなので意味がなくなりましたけどね?」
「あ、何か申し訳ないです」
「…ハルト様が謝罪することなどありませんよ…むしろお嬢様を守っていただきありがとうございます」
「いえ、…しかし怪我をさせてしまって申し訳ないです……」
「ハルトさん…こんな時はアレだよ…」
「アレ?…」
リカの言うアレがなんなのかわからず困惑する…
「女の子への謝罪は昔からスイーツに決まってるんだよ」
「はきゅう!!」
「みきゅっ!!!」
侍女の皆さんが不思議な声を上げた。
彼女達の目の前にはハルトが『召喚』したケーキやお菓子が並べられていた。
飲み物はリカが好きな『夕方の紅茶』シリーズを用意した。
あの後、メリッサの宿に移動してきた一行は、食堂の奥の貴賓席を貸切ハルトのおもてなしを受けた。
「……リア達も座りなさいよ」
「いえ、お嬢様…私達は……」
「どこから見ても町娘の集団じゃ無い?…おもてなしを受けるのは私だけじゃなくて貴女達全員なんだから……それとも命令した方が良いのかしら?」
「…ご配慮感謝します」
リアが座ると他の侍女達もおずおずと座り始めた。
「はー…貴族っていろいろ面倒なのね…」
「…リカ…貴女はもう少し遠慮した方がいいわ」
「遠慮するなと言ったのはアリアだけど?」
「うっ…」
「うふふ…冗談よ…私だって時と場合に合わせるわ…さらに今ここでは友達の『女子会』でしょ?」
「そうだな…しかし…『女子会』とは上手く言ったものだ」
ちなみに護衛の騎士の皆さんは向こうの席で色々と召し上がっている……『男子会』と言うよりは『飲み会』だ。
そして彼女達の目の前に出されたのは真っ白い生クリームの上に真っ赤なイチゴが乗せられたショートケーキやシュークリーム、チョコレートなどの『ダイコク』でも売り上げ上位の人気のスイーツ達だった。
(なんなの?!これ!!)
アリアンレーゼは驚きで声が出なかった。
こんな甘味は見たことが無い…
ここまでの甘いお菓子など食べた事もなかった。
見ればあのリアですらうっとりとしている…
こんな品を用意できるなんて……
ハルト…貴方は何者なの?!
「ハルト…こんな凄い物…貴方が作ったの?」
「作るとしたら、それは僕じゃなくてリカかな?」
女性たちの視線が一斉にリカに向けられた。
リカはフォークを咥えたままVサインをした。
「あの…「あ、先に言っておくけど、私は誰かに雇われる気はないから…私を好きに使って良いのはハルトさんだけだから」……そうなんだ……」
アリアンレーゼが何かを言い出す前にリカが先制した。
出鼻を挫かれたアリアンレーゼは目の前のチョコを口へと放り込む…
ダイコク北新町店では店長からの無茶振りが日常茶飯でパートさんの多くはこれを事前に察知して、適当な言い訳をつけて、回避する能力長けていた…リカはその代名詞とも言える存在だった。
「…ハルトさんがお人好し過ぎて仕事を押し付けられていただけじゃないですか」
「…リカは僕の心が読めるのかい?」
その間も女子の皆さんがワイワイガヤガヤとスイーツで盛り上がっていた。
「ハルトさん…私と結婚しませんか?」
「「「?!!!」」」
突然そんな爆弾発言をしたのは侍女のリアさんだった。
「ちょっとリア!貴女…!ずる……!!」
「ほー私の目の前でいい度胸ね…いいわ!戦争よ!」
「あぁ…リカさん…勿論貴女は本妻ですよ…私は妾とか…愛人とか…そんな立場で構いませんので」
「…流石はファンタジーね…私と交際し始めてすぐに愛人との結婚の話が出るなんて……」
リカがゆらりと幽鬼の様に立ち上がった。
「待って!リカ!落ち着いて?!リアさんもそんな冗談…」
「冗談ではありませんよ?私は本気です」
「ほう…ならば戦争だ…」
割とガチ目にリカが殺気を放った…しかしそれでもリアさんは真剣な目でこちらを見ていた。
「リカ…落ち着こう…何か理由があるみたいだ…」
「……本当に?ちょっとあの子の方が胸が大きいなーとか思ってない?」
「………思ってないよ…」
「今少し間がありましたね?少なからずそちらの方では興味を持っていただけている様ですね?」
「わーん!ハルトさんの裏切り者ー!」
「ハルト!それなら私にもチャンスはあるな!ほら見ろ!私もリアと大差ないぞ?」
「にゃにー!もげろっ!もげろっ!」
「ちょっ!リカ!どこ触って…!!」
「ちょっと皆んなどうしたの?!」
「リア……?リア?」
「アリアンレーゼ様?」
侍女達が疑問に思い始めた…
「…このケーキ、お酒が使われてますね?」
「?!しまった。ブランデーケーキだ!」
「こちらのお菓子の中にはお酒ですね」
「ウイスキーボンボン!」
いや、でも、こんなに酔っ払ったりしないでしょう?
「リアは…あまり強くありません」
「アリアンレーゼ様はまだお酒を飲まれた事は一度も…」
「よく考えたらリカは飲み会の時はいつもウーロン茶だったな…」
「なんじゃ!ハルト!みんなでおいしいものを食べるなら、なぜワシに声をかけんのじゃ!」
そこに、アンジェリカとリリシーがやってきた。
ハルトに縋り付く三人の娘をどうしようかと慌てる侍女達……
「…この状況は一体なんじゃ?」
「あらぁ?アンジェ〜」
アンジェリカを見つけたリアがハルトから離れてアンジェリカを抱きしめた。
「な、なんじゃこの娘は?!……はて?お前さん何処かで.…」
「私の事を忘れるなんて…酷いわ!」
リアが眼鏡を外すと、不思議な事にその髪の毛の色が一瞬でピンク色へと変わった。
「?!アーシェさん?!」
「なっ!!アストリアーシェ王女!!」
「「「「「えっ?!」」」」