第3話「お嬢様爆誕」
目が覚めた時、銀髪の女が私を覗き込んでいた。
光を反射するその輝く艶やかな美少女。
うん。美少女だ。
童顔だし、目なんてまん丸としている。
次に、視線を動かすと金髪の男がなにやら不安そうにこちらを眺めている。
その瞳に嫌悪感がなかったのは、彼が本当に心配しているのが分かったからだろう。
確か、私が食べちゃいけないキノコを口にして、死にかけた時もこんな顔で見てくる人がいた。
もう朧気な記憶だから、顔なんて忘れたけど。
「――――――」
「――――」
そんな私の眼前で、何やら二人で話している。
ただ、言っている事は1ミリも理解できない。というか、分からない。
まぁ、でも喜んでいるから悪い話をしているわけじゃなさそうだ。
「――――」
「――」
ただ、私にも分かるよう言ってくれませんかね。そんな笑顔で泣かれても、私なんて反応すればいいのよ。
手でも振ればいいの? そうすれば意思の疎通くらいできる?
そう思って、手を差し出した瞬間。私の手が異常に小さい事を目撃した。
え、なにこのぷにぷにのお手手。この間まで汚くて、カピカピになってたはずの手じゃない。
大きさも違うし、傷だらけでもない。
それがきっかけで、私は自分自身が赤ん坊になっていることに気付いた。
「あぅ」
呆れたように吐き出した声はとても間抜けであった。
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産まれて数年くらい経った頃。おしめを替えてもらいながら、私は天井を眺める。
いや、もう慣れたものよ。羞恥心なんて捨てたし、最初から無かったし。
そんな中、あっという間に替えられた私は母親に抱きかかえられる。意図もたやすく持ち上がるこの独特の浮遊感に恐怖を覚えるが、その直後、柔らかい体の安心感に包まれた。
うっわ、やわらか〜。
程よく筋肉ついているし、脂肪も適度。
富によって肥えた肉体でないのは確かだった。
「カルミナちゃん。おしめも替えましたし、お散歩しましょう」
そう呼び掛けられる。
誰を相手に、と問われれば私にだろう。というか私しかいないのだから、当たり前か。
この数年間で分かったことは様々ある。
まず、私の名前は『カルミナ・レイ』だということ。
あのツインテールの女が言っていた二度目の人生は、カルミナ・レイとして過ごす事となったのだ。
なに、この可愛らしい名前。鳥肌たつし、母親には「ちゃん付け」されるしで、今までの壮絶な人生からは想像できないくらいの衝撃ではあった。
それでも、産まれたからだろうか。
嫌悪感とか、拒絶反応なんてのは無かった。
あるとしたら前世の名前のカタルシスくらい。
それ以外では、私はどこかの国の貴族に産まれたということ。
何人かの付き人が母親と私に付いてくる事が多く、どこかに出掛ける時は護衛が職務を遂行する。
家の中なら家事や掃除などを全うするなど。
メイドも何人かいるようだ。
私の憎んでいた裕福な家庭そのもの。
だから、自分の――前の人生では恨んでいた立場に自分自身がいる。
そんな境遇を思えば、多少諦めも滲む。
そう簡単に、第二の人生を優雅に送るという思考回路は持ち合わせていなかったし、切り替えも出来なかった。
だから。えぇ、どこへでも行きましょうよ。どうせこの体じゃ動けないし、自由もきかないし。
そう思いながら、煌めく銀髪を眺めて過ぎ去る景色を退屈しのぎで見ていく。
豪華絢爛な廊下。そこに飾られたカーペットも装飾品も絵画のどれをとっても、金の掛かった大層な代物だとスラム街出身の私でも理解できた。
まぁ、それがどのくらいの値段で売れるとか。価値があるのかなんて大雑把な判断しかつかないが、少なくとも安くはない。
そう見えた。
何人かのメイドとすれ違う。全員顔が違うのは当たり前だけど、違いがあるとしたら。アレ、犬耳よね。
角が生えた子もいるし、コスプレて言うの? そういうご趣味の家かもしれない。
ただ、私の母親もそれに似た何かを感じる。
勘違いかもしれないけど。なんとなく。えぇ、なんとなくの気のまぎれ。
そんな私が母親のたわわな胸の中で揺られ、数名のメイドを引き連れながら、裏庭に連れ出される。
まっぶしい。
お母様、私にとって太陽の下へ出るのは毒でしてよ。日陰で暮らしていた立場だし、お世辞にもお天道様へ挨拶できる真っ当な人生は送ってこなかったし。
だから、私が目を顰めているとスっと日傘が私の顔に影を作る。
一人の真っ黒な角の生えたメイドが差したのだ。
へぇ、有能じゃん。
「ありがとうね、アリオン。いつも助かるわ」
「いえ、当然の事ですから」
謙遜する姿も格好良い。少し男装に近い格好も相まって、クールに見える。しかも紫紺の瞳も優しい印象があるし、私コイツ好きかも。
都合よく利用できそうだし。
「そういえば、デメテル様。カルミナお嬢様の継承儀式はいつ頃に致しますか?」
ん? 継承儀式?
何それ、私がしなくちゃいけないの。儀式という文字列からして、面倒くさそうなものだと連想できるけど。
何か、そういう家柄の為にしている事でもあるのでしょうね。嫌だな〜。
そんな風に渋い顔をした私の頭を優しく撫でる母親。
くしゃくしゃにならないように。けれどもフワフワと。まるで花を愛でるように。
「サギタリウス様が帰ってきた時、相談しますわ。大事な儀式ですもの、しっかりとゆっくりと時間を掛けて決めていきたいですし」
「そうですね。今後のレイ家の運命を左右すると言っても過言ではありません。是非ともカルミナお嬢様には、優秀な能力が継承される事を願っております」
え〜……。
私に家の一存決めさすの。それもよく分からない儀式で。
この産まれて数年で背負うもの大きすぎないかしら。
何か、上手いこと回避できたりとかしないか。
そう、小さな脳みそをこねくり回していると母親のぷっくりとした唇からは想像もつかない言葉が飛び出した。
「ありがとう。この子も殺し屋として、立派に生きてもらわないといけませんから」
殺し屋?
え……。
私、殺し屋にならなきゃなの?
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