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36話 打ち上げ

午後のステージも滞りなく終わり、祭の余韻にひたる街並みをアプリと2人で歩いていた。

「今日はすごく良い思い出になりました。

誘ってくれて嬉しかったです。ありがとうございました」


(マイトの嘘をまだ信じてたのか・・・

喜んでくれたなら、まあいいか)



「いや、こちらこそ楽しかった。アプリの歌があればこそのステージだったしな」


「そんな事無いですよ?ジャンのリュートはとても心地よい響きで私も楽しく歌えます。

・・・それにジャンがそばにいると思ったから私も安心して歌えるんです」


アプリはそう言うと花が咲いたように笑った。


(この笑顔が見れただけでもやったかいがあったかな?)




「あ!兄貴~、こんな所にいたのか。打ち上げやるから来てくれよ。

屋台村の店長達が好きなだけ飲み食いしてくれってさ」


「お兄ちゃん!!空気読もうよ!!

せっかくいい雰囲気だったのに~」


マイトがジュネに怒られつつ走り寄ってくる。


「良い雰囲気だなんて、そんな」


アプリが頬を抑えつつ照れている。


「わかった、どこでやるんだ?屋台村の所でいいのか?」


「うん!!ついてきてくれ」


そう言うとマイトはまた走り去っていった。


「そのペースについていける人はそんなにいないだろ・・・」


「も~お兄ちゃんたら~。ごめんね、ジャン兄。お邪魔虫なだけじゃなく慌ただしくて」


「別にいいよ、さて行こうか」


3人で屋台村に向けて歩き出した。





屋台村があった所はテーブルや椅子が並べられ、簡易の宴会場に様変わりしていた。知ってる顔を探しながら歩いていると・・・


「おう、今日の主役達の到着だ!!こっち来いよ」


酒瓶を抱えて既に酔ったフェブがこっちに気付き手を振っている。


「アプリさんの歌も、ジャンさんの演奏も素晴らしかったです。私感動しました!!」


ユリもグラス片手に力強く主張している。


ユリはフェブと一緒にいて酒量が増えた気がするな・・・


「ありがとうございます。あれ?マイトはいないんですか?先に走って行ったんですけど」


「あ~マイトなら食いもんと飲みもん取りに行ってる」


「あ、じゃあ私も行ってこよ~っと」


ジュネが食い物が並んでいるテーブルに走っていった。


「お疲れ、お前のとこの売り上げどうだったんだ?」


「おう、ボロ儲けだ。もともと原価は殆どタダだからな。売った分黒字だ。しばらく遊んで暮らせるぜ。

それもこれも客をこんだけ呼び寄せたお前らのおかげだ。まあ飲め!!」


確かにフェブの屋台は工房に眠っていた余り物の材料で自作し、鳥も自分たちで穫ってきたものだからタダだ。金がかかったのはせいぜい炭くらいか。


フェブの酌を一杯だけだと前置きしてから受ける。


「こいつはなギルドマスターから盛り上げてくれたお前たちにってくれたもんだ。かなり上等な酒だからな味わって飲めよ」


そう言いながら自分とユリのグラスにもついでいる。


「ったく、殆どお前が飲んでんじゃねえか」


悪態をつくとフェブは心底可笑しそうに笑い、


「旨いものはみんなで分け合うべきだろ?」


フェブはグラスを差し出しながら言う。


「ジャンさん、アプリさんいただきます」


ユリもグラスを掲げた。


「じゃあ我等が歌姫に・・・乾杯!!」


「え?え、えっと乾杯」


グラスを合わせると一気に飲み干した。


「じゃあ、俺も食い物とってくるかな」


「あ、私も行きます」


俺が席を立つとアプリもついてきた。

その後ろではフェブがさり気なく樽酒を開けていた。


・・・あれ全部飲む気じゃないよな。




それからマイトとジュネも加え、朝まで飲み食い騒いだ。


途中アプリのファンという奴にサインを求められたり、スカウトしたいという楽団の奴を追っ払ったりしていた。



空が明るくなっていくのを見ながらグラスのジュースをちびちびと飲む。


膝の上では酔いつぶれたアプリが寝息をたて、他にも酔いつぶれたり、疲れて眠っている人々があちこちにいた。


「しかし、あれだなぁ。盛り上がったのはいいがこの先面倒くさいことにならないといいなぁ」


テーブルの向かいにはフェブが樽酒を抱えてまだ飲んでいる。


「お前一番飲んでるはずなのに何で元気なんだ?

面倒くさいことって何だ?」


「エールなんざ水みたいなもんだ。

お前らは目立ちすぎたんだ。その辺の奴らがいくら騒ごうが関係ないが、お前気付いてないだろうが祭に呼ばれた楽団の奴ら嫉妬にまみれた視線を向けてたぞ」


「別に嫉妬なんて慣れてるぞ?」


「お前じゃねえよ、あいつらが見てたのはアプリだ。

自分たちの観客までとられてたからな。そりゃ嫉妬にかられてもしょうがねえ」


「おいおい、まずくないか?」


「まずいよなぁ、アプリを排除したいなら簡単だもんな」


「ああ、魔女狩りの奴らにチクれば一発だ・・・やっちまったか」


「ギルドのお膝元にいるかぎりなかなか手は出せないと思うが、連中に街から連れ去られちまえばギルドも手を出せなくなるしな」


「それ以前にいつまでもこの街に隠れているわけにもいかないだろう」


「まあ、最悪の想定だけはしておくべきだよな。

とりあえず工房には隠れ場所と逃げ道を用意しておくとするか」


「俺はギルドマスターと話しあっておくかな。

後はなるべくアプリと一緒にいるようにするか・・・

幸いなことにこれからはパーティごとのコンビネーション訓練がメインになるし、3年目からは見習い冒険者として実際に依頼を受けることで単位がでるからな、殆ど一緒に行動できるだろう」


「そうだな、後は俺達がしっかりすればいいか・・・ちゃんと守ってやれよ。大事なんだろ?」


「ああ・・・もちろんだ」


「とりあえず、そろそろ部屋に帰るか。

ちゃんと送ってやれよ」


フェブはユリを背負い、俺はアプリを背負って歩き出す。


これから訪れる苦難に思いを馳せつつ、背中の温もりを絶対に守ろうと誓いをたてた。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます

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