28話 親友との密談
深夜まで続いた宴会もいい加減お開きとなり、みんなを寮に送ってから少しフェブに付き合うことにした。
「とりあえず、乾杯ってことで」
「ああ、乾杯。俺はジュースだけどな」
オレンジジュースとエールで乾杯し、とりとめないことを話す。
「しかし、アプリ嬢の巻き込まれ癖はなんとかならんかね~」
つまみを食べながらぼやくようにフェブは言った。
「魔女である以上どうしたって面倒事は舞い込んでくるさ。
それにお前楽しんでたと思ったが?」
「そりゃ~楽しんでたがよ~。俺が言いたいのは何時までも守られてるわけにはいかないだろって話だよ。
一生、俺達の後ろにいるわけにはいかんだろ?」
「・・・本人は守られなくてもいいくらい強くなりたいそうだが、それまでくらいは俺が守るさ」
「過保護だねぇ。
・・・ところでお前らつき合ってんのか?」
「・・・いや?」
「あんだけいちゃいちゃしといてつき合ってねえのか?
どう見ても両思いだろうが」
「ふ~む、そうなのか?
正直、色恋はよくわからん。この気持ちは恋なのかな?アプリのことを大事には思ってるが・・・」
「わからんなら、なおさらとりあえずつき合ってみりゃいいじゃねえか。
とりあえずやってみねえとわからんこともあるだろ?」
「そういうこともあるだろうが・・・俺はまだ色恋には手を出さんよ」
「なんでだ?いっそ恋人ですって宣言しちまえばアプリ嬢に手を出す奴も減るんじゃねえか?」
「確かに守り易くはなりそうだが・・・
俺の中に鬼がいるのは知ってるだろ?」
「ああ」
「色恋には色欲、独占欲がつきものだ。これらは狂気を増長させるからな。
もっと自分の中の鬼をコントロールできるようにならんと俺がアプリを襲う可能性がある。
現時点でもアプリがからむと自分が抑えられないことが多いからな」
「あ~なるほど・・・難儀だな。
そうかつき合っても指一本ふれねぇのもキツいしな。
じゃあしゃあねえか・・・封印の腕輪はもう効いてねえのか?」
「効いてないわけではないな。たぶん外すともっと簡単に暴走してしまうだろう。
精神力で抑えているのを少し後押ししてくれている感じだ」
「ふ~む、もっと強力な腕輪を作るってのはどうだ?」
「これ以上封印を施すとアプリを守りきれなくなるぞ」
「それじゃ本末転倒だな。まあ頑張れよ」
「そういうお前はどうなんだ?」
「どうなんだって?」
「ユリのことだよ。いつも一緒にいるだろ?」
「あれは刻印魔術を習ってるんだよ。逆に魔導具について教えているしな」
「それだけか?そのわりに仲がいい気がするが・・・
それにユリ、最近工房で食事作ってくれているだろ?」
「そんなんじゃねえよ。確かに懐かれているがエルフのあいつがドワーフを好きになるはずがねえだろ」
「ふ~ん、まあお前がそういうならそうなのかな」
2人ともグイッとグラスを開ける。
「いい加減帰るか、寝みぃし。しかし鍛錬馬鹿と魔導具馬鹿の2人じゃ色っぽい話もイマイチ盛り上がんねえな」
「そういうな。久々にお前とさしで話せて良かったと思うぞ」
2人とも店をでてから、フェブは工房へ行くというので1人寮へ向けて歩いた。
寮の自分の部屋にたどり着くと扉の前にアプリが立っていた。
「あ、お帰りなさい」
「ただいま、どうしたんだ?いつから待ってた?」
「そんなに待ってないですよ。どうしても眠れないのでジャンとお話しできないかな、と思って・・・」
「まあいいよ、部屋あがるか?」
「はい」
2人で部屋に入り椅子をすすめ、お茶をだす。
「ジャンのお部屋って片づいているんですね」
「物がないだけだよ。はいお茶、心を落ち着ける薬草を煎じた物だから、ちょっとクセがあるぞ。苦手なら残してくれ」
薄緑色のお茶を渡す。
アプリは息を吹きかけ冷ましながら一口飲んだ。
「あ、美味しいです。なんだかホッとしますね」
「口にあって良かった。・・・でどうしたんだ?」
「いえ、今日は本当にありがとうございました。改めてお礼が言いたくて・・・」
「それはもういいよ。俺だけが頑張った訳じゃないしな」
「それと・・・今回、ジャンが相手の魔術に飲まれた瞬間、目の前が真っ暗になって、私なんかのためにジャンが危険な目にあっているのに私は泣いて見ていることしかできないなんて・・・」
思いだしたのかアプリは目に涙を浮かべて訴えてくる。
「俺があんなのにやられるわけないだろ?」
「ジャンの強さを疑っているわけじゃないんです!!でも、それでも私のために誰かが危険な目にあうのが耐えられないんです!!」
「・・・過去に何かあったのか?」
「・・・私を1人で育ててくれたお父さんが、私を守るために戦って、帰ってこなくて。私、もう誰も失いたくないから強くなりたくて・・・でもいつまでたってもまわりを危険に巻き込むだけで・・・
私、私・・・」
「・・・泣かないでくれ。泣かせたかったわけじゃないんだ。
俺がお前のことを守るのはただそうしたいからしているだけだ。
言ってしまえば、これは俺の我が儘ってところかな」
今日のフェブとの会話を思いだした『何時までも守れるわけじゃない』。
「何で、私にそんなに良くしてくれるんですか?」
「それは・・・それは俺がアプリのことを好きだからだ」
「えっ!?」
「うん、そうだな。他の誰でもなく、俺がアプリを守りたいんだ」
言ってしまえば簡単な事だった。口にしてしまえばその言葉は自分の心にストンと落ちた。
「わ、私の勘違いじゃなければ・・・私のことをす、好きと?」
「ああ、気づけば君に恋をしていた。今までわからなかったこの気持ち・・・ようやく納得した」
「私、私ジャンのこと好きでいていいんですか?
あなたの隣にいてもいいんですか?」
「ああ・・・一緒にいてくれ、アプリ」
「ありがとう、ジャン」
抱きついてくるアプリを受け止める。
「あ~・・・ただ喜ばせておいて悪いが、もうしばらく恋人らしいことはできない。すまんな」
「・・・どうしたんですか?」
腕の中でアプリがキョトンとこちらを見上げてくる。
「以前、俺の中には鬼がいると話したことがあるだろう・・・」
それからフェブにした説明と同じことを若干柔らかくして伝えた。
「わかりました。私待ちますね。いつかちゃんとジャンと恋人になれる日を・・・
私、それまでに自分自身強くなります。
ジャンが危険な目にあった時、ただ泣いている自分は卒業するんです」
2人で約束をかわし、アプリは部屋に戻っていった。
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