21話 誘拐
片付けは済んだが棚は壊れてるうえに、店全体にガタがきているので臨時収入をつかって店を直すことにした。
リフォームが終わるまで店は開けられないので1週間ほど休みにする事となった。
時間が空いたのでマーチと一緒に買い物に行くことにした。
「臨時収入があったからな、今日はマーチの欲しいもの一つだけ買ってやるぞ」
「え~とね、マーチね・・・兄様とお揃いのアクセサリーが欲しい!」
「ん~マーチにはまだアクセサリーは早くないか?」
「そんなことないもん、マーチはもう立派なレディだもん」
「ははは、わかったわかった。じゃあ雑貨屋に行きますか、お姫様」
「む~~子どもあつかいして~」
マーチと手をつなぎながら近くの雑貨屋に向かった。
店内には所狭しと様々なものが置いてある。
マーチと2人で店内を物色していると、珍しいものを見つけた。
「お、リュートか・・・」
「兄様、これなに?」
「これはリュートっていう楽器だよ。見たこと無かったか。この弦を弾いて音をだすんだ」
この街のような田舎には旅芸人もあまり来ないうえに、リュートは本来もっと北の方で盛んな楽器だ。
俺も隠れ里に住んでいた時に弾ける爺様に習ったことがあるおかげで知っていたが、この街に来てからはお目にかかる機会が無かった。
「弾いてみようか?」
「兄様、弾けるの!?」
「昔、少しだけ習ったことがあるんだ。すみませ~ん、これ弾いてみても良いですか?」
店の奥にいる店員を呼ぶと小柄なおばちゃんが出てきた。
「いらっしゃい。お兄さんリュート弾けるのかい?」
「ちょっとだけですけどね」
「いいよ、弾いてごらん」
久しぶりに持つリュートはあの頃は持て余していたサイズも今では小さいくらいになっていた。
軽く音をだしてみると優しい、独特の音色が響く。
小さいころに身につけた技術は年をとってもある程度覚えているらしく、指の動きはぎこちないながらもバラード調の曲ならつっかかりながらも弾けた。
「兄様、すご~い」
「へ~、そんな大きな手で器用に弾くじゃないか。
どうだい?今なら安くしとくよ?買わないかい?」
「ん~・・・いくら?」
「銀貨1枚でいいよ」
「ずい分安いな」
「珍しいからと仕入れたのはいいけど弾ける人がいないもんでね。このまま置いておいても手入れもできないんじゃ痛む一方だからさ。なら弾ける人が持った方がいいさ」
(練習すればアプリの歌ともあわせられるし、マーチも喜ぶしな・・・)
「では、これはいただきます。あとアクセサリーが欲しいのですが・・・」
「私と兄様の愛の証が欲しいの!!」
「あはは、こっちにアクセサリー売り場はあるよ」
アクセサリー売り場には様々な指輪、ブローチ、ネックレスなどが置いてある。
「指輪は俺の指じゃ入らないぞ?ペアは無理じゃないか?」
「う~んとね・・・このペンダントはどうかな?」
「うん、似合うよ。かわいいかわいい」
「兄様も持つのよ。これなら剣のストラップに良いと思うの」
ペンダントトップはシルバーのシンプルな翼の形をしており、男が持っても違和感は無さそうだ。
「うん、ステキなデザインだね。じゃあそれでいいのか?」
「うん。すみません、これ2つください」
ペンダントとリュートを買うと店を出た。
「兄様、ペンダントつけて?」
「いいよ、後ろを向いて」
後ろを向いたマーチの首にペンダントをつけてあげる。
「えへへ!兄様のペンダントには私の特別な加護をあげる!」
そう言うとマーチはペンダントトップに口付けし魔力を込める。
「できた!!うふふ、はい兄様!」
マーチはニコニコしながら剣の持ち手に魔術でペンダントを溶接した。
「ありがとう。ところで何を込めたんだい?」
「・・・兄様はどんなに危ない所へも仲間のためなら進んで行くから。
せめて兄様に怪我が無いように、防御魔法を込めてみたの。炎と風はペンダントを向ければ避けていくの。でも回数には限度があるから。
あまり無理はしないでほしいの」
「ありがとう、マーチ。大丈夫、お前の兄様は家族を悲しませることはしない」
マーチの頭を撫でてあげると気持ち良さそうに目を細めている。
今日はこの後どうしようかなと考えていると・・・
「ジャンさん!!こんな所にいたんですね!!見つかって良かった。
アプリさんが・・・アプリさんが・・・」
ユリが息を切らしつつ血相を変えて駆けてくる。
「どうした!!ユリ、アプリに何かあったのか!?」
「2人で買い物していたら、変な男達がアプリを無理矢理馬車に載せていってしまって・・・私、何もできませんでした」
「・・・ユリ、落ち着け。今すぐどうにかするなら馬車に載せない。すぐに追うぞ!!」
「でも、馬車が走り去ってから結構かかってますよ・・・」
「大丈夫だ。アプリの場所はわかる。マーチ、先に帰って父さんにこのことを伝えてくれるか?」
「わかった。兄様、気をつけてね!!」
マーチはリュートを担ぐと家に向かって走っていった。
俺は首にかかっている指輪をだすと握りしめ、意識を集中する。
「位置は把握した。街からだいぶ離れているな・・・国境をこえられると面倒だ。急いで追うぞ!!」
「え、そんなに離れてるのにどうやってですか?」
「フェブの馬車を使う。あれの最高速なら追いつける。すまんな急ぐぞ」
ユリを抱き上げるとフェブのいるダーハム武具店まで屋根の上を最短距離で進んでいく。
「キャー!!落ちるー!!」
「フェブ、アプリがさらわれた!!馬車を出してくれ!!」
「何!!わかった裏に止めてある。ちょうど最高速実験しようとしていたから馬も繋いである」
裏に回り込んで馬車にユリを載せ、馬を繋いであるロープを解くと、フェブが御者席に乗り込む。
「どっちだ!!」
「東側の門から街道沿い真っ直ぐだ!!」
街を出た所でフェブは馬に鞭をいれた。
「スピード上がってないか?」
「さらに魔改造を施したからな!!この鞭には加速の魔術を施したからな打った途端しばらく能力の限界を超えて走る!!」
「キャーキャーキャー死ぬー!!」
しばらく走ると前の方を見覚えがある馬車が走っている。
「あれか?」
「ちょっと待て・・・あれだ!!」
「よし、追い抜くぞ。あれを止める」
隣を一気に追い抜くと道の先で止める。
「いくぞ、完成版大地のハンマーの力を見せてやる。
くらえ!『ノームの怒り』」
フェブが大地のハンマーに魔力を充填し地面に振り下ろす。
途端に地面が隆起したと思ったら馬車を囲むように土の壁ができた。
「すごいな、フェブ」
「難点はこの規模で体力まで根こそぎ持ってかれることだな。まだまだ改良点はあるはずだ」
フェブは隣で倒れてる。
「後は俺がやる。ユリはフェブを見ててくれ・・・俺の家族に手を出したやつがどうなるか思い知らせてやる!!」
前方の馬車を睨みつけると中から武装した男が3人と雰囲気の違う男が1人、それに例の貴族野郎が出てきた。
「なんだ!これは!!貴様等、僕を誰だと思っている、僕は未来の伯爵様だぞ!!」
「よう、また貴様か・・・懲りない奴だな。次は容赦しないと言っただろうが」
剣を抜きつつ近づいていく。
「お、お前は!!ううぅ、お前らやってしまえ!!」
男達3人がそれぞれ剣を振り上げながら突撃してくる。
「「「うおぉぉぉ!!」」」
昨日のダメージが抜けきっていないらしく、まだふらついている。
「邪魔をするな。大人しく寝ていろ!!」
気合いと同時に飛びかかり、それぞれの手足の腱を斬る。
「お前らも命令されただけだからな、命までは取らん。だが二度と剣を握れない体にはなってもらうぞ」
残すは2人・・・
「うわぁぁ・・・くそぅ、頼むぞ後はお前だけだ!高い金払ったんだ。やってしまえ!!」
「ふむ・・・中々やるようだが、本職の冒険者にかなうはずがないだろう?
我は今代の剣聖デイリー・アークなり。
さあ、死にたくなければ引くがよい」
「・・・用心棒か。さて、お前こそ死にたくなかったらどけ!!」
「ふむ・・・仕方ないな」
自称デイリーは剣を抜くと互いに間合いを詰めていく。
「うおぉぉぉ!!」
気合いとともに剣を一閃する。横なぎの一撃を用心棒は受け止めるが体が浮き上がり、距離が開く。
「くっ、馬鹿力が・・・」
体制を立て直したところに袈裟に斬りかかる。すんででかわした用心棒は入れ替わりに斬りかかってくる。
相手の横なぎの一撃を体を伏せてかわし、足払いをしかける。
きれいに決まり、用心棒は横から地面に落ちる。
「ぐはっ!・・・き、貴様卑怯だぞ!!蹴りなど、剣士の誇りは無いのか!!」
「そんなもの、死んだら意味はない」
倒れている相手の顔を思いっきり蹴り飛ばし気絶させる。
「さて、残すはお前だけだ・・・覚悟しろ」
「うわ~!!」
馬車の中に逃げ込もうとする貴族野郎に短剣を投げつける。
開けようとした扉に短剣が突き刺さり、貴族野郎の動きを止めた。
「動くなよ?次は当てるぞ」
「う、う、う・・・」
ゆっきりと近づいていき、刺さった短剣を引き抜く。
とりあえず顎に一撃入れて気絶させる。
「アプリ、無事か?」
馬車の扉を開けると中には気絶したアプリが縛られていた。
「アプリ、アプリ、起きて」
ロープを短剣で切り、抱き上げながら呼びかける。
「・・・ん、うん、ジャン?・・・あ、あれ私、変な男達に馬車に無理矢理乗せられて・・・変な薬をかがされて」
恐怖が蘇ったのか自分の肩を抱きながら震えだす。
「もう、大丈夫だ・・・家に帰ろう、アプリ」
アプリを抱き上げるとそのまま自分達の馬車へ歩く。
途中で貴族野郎と用心棒にはとどめとばかりに足首を踏み砕いておいた。
「フェブ、終わったぞ、帰ろうか」
「おう、一件落着かな」
まだ力の入らないフェブを片手で掴んで立たせると、馬車の後ろに乗せた。
「ユリは後ろでアプリとフェブについててやってくれ」
「私、ジャンの隣でいいです」
「御者席は狭いぞ?」
「ごめんなさい、もう少しジャンのそばにいさせて下さい。
まだ震えが止まらないんです」
「・・・わかった。ユリジャンのこと頼むぞ」
「はい、こちらはまかせて下さい」
御者席にアプリを乗せると隣に腰掛け、手綱を引き、馬を歩かせ始めた。ここまで飛ばしたため馬は汗をかいており、街までゆっくり走ることにした。
アプリが落ちないように腰を抱く形で支えながら片手で手綱をさばく。
アプリはじっと目を瞑りながら俺のシャツを握りしめ、震えていた。
「遅くなってすまなかった、もう少しで手遅れになるところだった」
「いえ、ジャンはきっと助けに来てくれると信じていました」
「ああ、アプリは俺の大事な家族だからな、絶対に守る」
「・・・ジャンは私のヒーローです。いつだって私の危機に駆けつけてくれる。身を挺して守ってくれる。
私はジャンに何か返しているのでしょうか?」
「俺が好きでやっていることだ、気にしないでくれ。パーティの仲間は家族の一員だろ?
家族に遠慮するな」
「家族だからこそです!私は守ってもらうばかりじゃなく、ジャンの力になりたい!! ジャンと対等になりたいんです。でないと私は、私は自分の気持ちすら伝えることができない・・・」
アプリは泣きながら訴えてくる。その姿はただただ美しかった。
「・・・アプリがもっと力が欲しいというなら、母さんに相談するといい。
あの人は稀代の魔女と呼ばれ冒険者の中でも上位に入る実力と様々な知識を持っている。
マーチが生まれて魔力は落ちたが魔術理論の研究は欠かしていないから良い師匠になるだろう。
・・・アプリが1人前になったらアプリの気持ちも聞かせてもらうよ」
前を見ながらポツポツと話すとアプリは決意を込めたように力強く頷き、前を見据えた。
街が見えて来る頃には街は夕日に染まっていた。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます




