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20話 貴族

家に帰ってきてから一週間が過ぎた。


初日は宴会だけで終わったがそれ以降は当初の予定通りそれぞれ仕事をしてすごした。


俺は近くの森や山などで薬草や木の実の採取に励み、その間にアプリとユリは魔女の秘薬の作り方を習いながら、ひたすら作る。

アプリは店番もこなし、ユリは人見知りが激しいため在庫整理など裏方に徹した。


暇をみては父さんに修行をつけてもらい、アプリ達は母さんに魔術を教わった。




今日は早めに背嚢が一杯になったため、まだ昼だが家に帰ることにした。



「暇ができたから、今日はマーチと遊ぶかな・・・」


のんびりとこの後の予定を考えながら街へ向けて歩いていく。





街の門が見えてきた頃、街道を馬車がすごいスピードで通りすぎていった。


「危ないな。なんだ?・・・あの紋章は貴族の馬車か。いやな予感がするな・・・」


屋根付きの高級馬車には貴族を表す装飾過多な紋章が刻まれていた。


嫌な予感を信じて街に向けて走った。






店の前にあの馬車が止まっている・・・


「ただいま・・・」


店の裏の住居スペースから中に入る。荷物を下ろし店の様子をうかがう。



「・・・だから、僕と結婚すればこんな汚いお店で働かなくてもいいのです。あなたの幸せのためにも将来の伯爵夫人になるべきです」


「いえ、ですから、私に貴族様となど釣り合いません・・・」


「そんなことはありません。あなたの美貌は凡百の貴族令嬢など比べものになりません。ただ美しいだけでなく、その謙遜、我が強くなく夫を立てられる貴女こそ私の妻にふさわしい。

さあ、私の屋敷に共に来て下さい。あなたのための部屋と使用人がすでに待っています」



「だから、何度も申しましたように私は行きません」


「・・・ちっ!少し優しくしたらつけあがりやがって。最初からお前に拒否権はねぇんだよ。俺様が何度も頼んでるんだからお前は大人しくついてくればいいんだ・・・おい、お前たち邪魔な奴が帰ってこないうちに連れ出せ。屋敷に連れて行けばこっちのものだ」


「了解しました。坊ちゃま」


「えっ・・・」


貴族野郎の仲間らしき男達が後ろからあらわれた。


「・・・嫌な予感が的中したか。お前ら、そこまでにしておけ・・・」


「なんだ?貴様・・・邪魔をするな。これは僕たち2人の問題だぞ!!」


「ジャン!!」


アプリは俺の後ろに急いで隠れた。


「本当に2人の話し合いであり、その上で決まったことならとやかく言わんよ。

しかし無理矢理連れて行こうと言うなら黙ってられんな」


思いっきり殺気をだしながら睨む。


「ひっ!なんだその目は!!僕は貴族だぞ!!」


「それがどうした?ここは自由都市だぞ?どこの国にも属さず、誰にも侵されない。

お前が自分の国でどれだけ権威があろうが関係ない!!」


「ひぃぃぃ!!くそぅ、お前ら!力ずくでやってしまえ!!」



「うぉぉ!!」


大柄な男が3人、こちらに突っ込んでくる。


「ジャン・・・」


「大丈夫。下がっていろ」


とりあえず一番前の1人に前蹴りを叩き込みながらアプリを下がらせる。

鳩尾につま先が入り、吹っ飛んで棚にぶつかった後、悶絶している。


左右から2人同時に向かってくる。それぞれ手にはナイフを抜いて持っている。


「こんなことで光り物だすなよ・・・」


右手の男のナイフを握っている左手を掴み手前に引く。もう1人の男は仲間が壁になり近づけない。

手を引かれてバランスを崩した男に連打を叩き込み最後に顎を叩き膝から崩れ落ちる。

ナイフを奪うと蹴り飛ばしてもう1人の男にぶつけ、戸惑っているうちに顎に拳を叩き込み倒した。



「で・・・まだやるのか?」



貴族に向かって問いかけながら近づく。



「く、くそぅ~覚えてろよ~」


貴族野郎が踵を返して去ろうとする。


「まあ、待て待て・・・割れた薬と壊れた棚の修理代を置いていけ。あとこの3人は持って帰れ」



馬車に3人を放り込むと貴族から金貨5枚をせしめる。


「あと、アプリは俺のものだ。手を出すというならそれなりに覚悟してから来るんだな」


最大級の威嚇を放ちながら告げると貴族は半分泣きながら帰って行った。



「ふぅ~、儲かった、儲かった」


「あ、あの・・・俺のものって・・・」


いつの間にかアプリが後ろにいたらしい。


「ん?ああ、あんだけ脅かしとけばもう来ないだろ?怖かったろ、すまんかったな、もう少し早く帰れば良かった」


「いえ!!いつもならまだ帰ってこられない時間なのに・・・ありがとうございました。あの人すごくしつこくて・・・本当に助かりました」


「そういえば、父さん達はどうした?」


「だいぶ薬の在庫がたまっていたので、デイリーさんとカレンさんはマーチちゃんと一緒に他の街に行商に行かれました。

ユリはフェブのところへ行っています」


「そっか、タイミング悪かったな。とりあえず店を閉めて片付けしようか」


「あ、はい!!看板仕舞ってきます」


とりあえず棚を片付けることにした。

この割れているのは・・・ヤバい!!この棚惚れ薬だ!!


「看板しまいましたよ~」


くそっクラクラしてくる。


「すまん、掃除道具奥から持ってきてくれ・・・」


「はい・・・どうしたんですか?なんだか様子がおかしいですよ?」


「あ、近づくな」


「え?・・・なんだか甘い匂いが・・・」


「あぁ、手遅れか・・・」


「ふぁぁ~、ジャン・・・今日は本当にありがとうございました。ふふふ、格好良かったですよ。

私が困っているといつもどこからともなく助けに来てくれる。まるでジャンは王子様のようですね。

前からお礼をしたいと思ってたんです」


潤んだ目でこちらを見上げてくる。

流石に棚一杯の惚れ薬、効果が高いな・・・


「アプリ、落ち着け・・・ここには惚れ薬が蔓延している。

急いで換気して中和剤を飲むんだ」


「そんな、この気持ちは薬のせいなんかじゃありません!

私はずっと、ずっと前から・・・」



ぎぃ~


「あれ?なんでお店閉めてるんですか?」


「ユリ!!助かった!惚れ薬割ってしまったんだ。そのまま換気してくれ。

アプリ、こっちにおいで」


ユリに換気を頼み、店の奥にアプリを抱き上げて運ぶ。


「きゃあ、ジャンったらユリが見てるのに大胆・・・」


そのまま中和剤をしまってある調合部屋に向かう。


「ほら、アプリこれを飲むんだ」


棚から瓶を取り出すとアプリに含ませる。


「ううん、にが~い。口直し・・・」


中和剤を飲み込んだと思ったらそのまま首に手を回し口付けてきた。


「っ!!」


ガバッと身を放し、距離をとるとすすすっと距離を詰めてくる。


「落ち着けアプリ・・・」


「ふふふ、落ち着いてますよ~・・・・・・・・え?あれ?なんで私・・・」


「落ち着いたか?惚れ薬が割れて揮発してな。薬の効果で混乱しただけだ。すまんな、止めるのが遅れた」


「いえ!!そんな!!すみません」



「俺は別に構わない。役得と言ったところか。さてユリが1人で片付けてるから手伝いに行くぞ」



「えっ・・・あっ・・・はい。え、役得って・・・」



照れを隠しつつ、店に戻った。




「すまんかったな。片付け1人でさせて」


「いえいえ、何があったんですか?」



ユリに貴族野郎とのことを説明しつつ、3人で飯を食べ、今日とってきた薬草を仕分けしてその日も暮れていった。





惚れ薬は在庫切れしました。



貴族のイメージはスネ夫です



いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

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