第11話 え、あたしの口だけオフライン!?先生それ反則!? (んぐ……)
「ねえ先生、それ……」
草木もまばらになって、岩肌がむき出しになった道を歩いていたとき――
先生のローブの袖口から、ちらりと銀の光がのぞいた。
あたしは、それを見逃さなかった。
思わず、指を差していた。先生の手元に光った、あの銀環に。
その指に巻かれていたのは、重厚な魔術具だった。
星図みたいな魔法刻印が浮かび、中心には淡い光がまたたいている――。
「もしかして、それ!《双刃の輪》、ですか?
えっ、ちがう!?でも似てる!!
――――前に見た時からずっと考えてたんです!!
星の記録を蓄積する系の指輪型魔術具ですよね!?」
先生は立ち止まったが、振り返らない。
(うん、無視されてる。でも……!)
「ねえ、出自とか、どこの術式とか、教えてもらえません?
せ、先生が使ってる魔術具だなんて、見れるだけで貴重なんですけど!!
あっ、先生は、自分の魔術具に名前とかつけないんですか?!
銘じゃなくて愛称みたいなの!」
背中はまだ無言だった。
でも結構慣れっこだ。というか、先生に会う前からよくあった反応。
だから――
「じゃあ……代わりに、うちの子たちの話、してもいいですかっ!?」
返事はない。けど、それは続けていいって合図!
「まずいま使ってるのが、この子!
先生が前に調律してくれて覚醒したすっごい子!
《紅蓮の牙》っていう攻撃用魔術具なんですけどね!
昔、火の神様祀ってた地下聖堂跡で見つけて!
見た目はただの鋼鉄なんだけど、召喚すると炎槍がドーン!って出るんですけど、ただの攻撃ツールじゃなくて!
わたしがピンチになると反応速度が上がるし、昔ダンジョンで魔炎トカゲに囲まれたときなんて、思考より先に飛び出して敵を焼き払ってくれたんですから!
あっ、名前もつけてて、『グレゴリー様』って――」
先生がぴたりと足を止める。
顔はエリセを見ていない。だが、ほんのわずかに、肩が沈んだ。
――まるで、溜息を内に飲み込むように。
……お?
「他にもね!前に使ってたのが《サモンバニーMK-2》!
これはもうめちゃくちゃ懐いてて、うさぎ型召喚獣が耳から火球飛ばすんですよ!
一緒にお風呂入ったり寝るときも……」
そのときだった。
先生が振り返った。
その瞳には光がない。
まるで仮面のように、感情の色が消えている。
ゆっくりと、指先を持ち上げる。
人差し指と中指をそろえ、エリセの額の高さにすっと掲げる。
低く、乾いた声で、命令のように詠じた。
「語を断つ。封ぜ、封ぜ、封ぜよ。」
空気が凍ったように感じた瞬間、
エリセの唇が、透明な魔力の糸に縫われるようにして閉ざされた。
「ふがっ!?」
ぱちん。
何かが弾けたような音がした。
次の瞬間――あたしの口が、ぴたりと閉じた。
開かない。動かない。舌が沈黙を強いられる。