仲直り条約
私は私を許せなかった。幼馴染でも所詮ただの他人。血もつながっていない、偶然小さい頃から一緒にいた他人。なのに、なんでも分かっていると思ってた。理解してる気になっていた。その癖に、いざあの光景を見たら信じもせずにすぐに逃げ出す。暁斗を疑って、確かめる勇気も持てずに怖くなって、一方的に避けた。そんな自分を絶対に許せなかった。たとえ、暁斗に打ち明け、許しをもらえても、私はあんな醜い私が気持ち悪くて消えてしまえばいいとも思った。
だから、あの時なんで暁斗が平気に話しかけてきたのだろうと思った。暁斗だってきっと気づいていたと思う。
もしかして、許してもらえたのかな。
なんて、すぐに出てくるこんな私が嫌い。こんな私、死ねば…
「ま、待て…!!ちょっと、落ち着けよ」
今まで溜めていた暁斗への懺悔が一気に放出された。
「とりあえず、拭けよ。ティッシュしかないけどさ」
気が付かなかった。涙が出ていたなんて。泣きたいのは暁斗の方なのに。泣いてはいけない私が何故涙を流しているのだろう。そう考えても止まってはくれない。
「い、いらない。慰めもいらない。」
「いいから。そんなに言うなら俺が拭いてやるぞ!」
そう言って、目元にティッシュを当ててくる。流石に拭かせるのは悪いと思い、渋々ティッシュを受けとる。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。もう、幼馴染としてなんていられない。だから…」
「だから、落ち着けって!」
暁斗は肩を力強くつかみ、目をしっかりと見つめる。
「俺、気にしてねぇから。……。いや、それは嘘かも。」
肩から手を離し、少し笑いながら頭をかく。
「最初、避けられてるんだって分かった時はちょっとショックだったんだ。こんなに長い間一緒に居たのに、信じてくれなかったんだって。夏夜もあいつらと一緒なんだなって。」
暁斗は少し言葉に詰まる。
「でもさ、俺、鏡見て気づいたんだ。確かにこんな見た目じゃ勘違いされるよなって。態度もちょっと悪かったかもなって気づいたんだ。だから、別に夏夜が悪いわけじゃないんだよ。俺に原因があったんだ。そう思う方が自然なんだよ。」
涙目になっていることに気づくと、後ろに振り返る。
「で、でも…!」
「あと、簡単に『死ねば』なんていうなよ!『幼馴染やめる』とかもさ!俺が悲しくなるだろ!それに、夏夜が醜いなんて言うなら俺だって同じだよ。同じこと…いや、それより酷いこと考えてたんだ。」
鼻を赤くして、こちらに向き直す。
「だから、俺の方こそごめん。…。もう、忘れようぜ!今ので相殺!…って俺が言えることじゃないけどな。」
ニコッと笑いかける暁斗につられ、思わず笑みがこぼれる。
(確かに、いくら引きずったところで状況は悪いままだよね…)
「…わかった!」
「じゃあ、指切りしようぜ!不満とかあったらお互いに言い合う!な?」
「うん!」
「よーし!仲直り条約締結!!」
「なにそれ?」
笑いながら指切りをする。絶対にこの約束は破らない。心にそう決めた。
「なぁ、久しぶりに一緒に帰ろうぜ。ついでに寄り道も。」
「いいね、それ!」
「店は…」
チャイムがなる。
「あー…。あとで決めよ!」
「そうだな。じゃあ、午後頑張れよ!」
「うん。暁斗も頑張ってね!」
お互いにエールを送り、各教室へと向かった。