10部(刺客) 始まり
「は? 」
さらに肩身が狭くなった職場で追儺の実働部隊の人に声を掛けられた。
横で三鈴さんが心配そうにいる。
「いえ、どうも、まつろわぬものの間で貴方が邪魔すぎると言う意見が凄いらしくて、刺客が差し向けられるかもしれないとの連絡がありました」
「ええ? 」
俺が困惑した。
石川さんの件で残りの女性職員は全部退職する方向になった。
退職する奴は揉める可能性があるから、このブラック企業でも有給消化の後に退職と決まっていた。
昔、有給消化も買取もさせなくて辞めさせたら、それがそう言う専門のとこに駆け込んで弁護士を入れて随分と揉めたらしい。
だから、すでに退職する女性社員の全員が有給に入っていた。
そんな訳で今は鬼のように忙しい。
「どうします? かなり堅い話なんだそうですが」
<おやっさん>の野崎君が聞いてきた。
だが、この状況でだ。
社長に石川さんを異動させるように土御門家から要請が来たのに、移すに移せないのだ。
支店からこちらに誰かを転勤させると辞めちゃうし、石川さんは仕事人と言われてただけあって仕事が出来る。
それで近いうちに必ずと言う事でそのまま働いている。
人は減るのに仕事は増える最悪の状態になっていた。
「で、どうしろと? 」
「ここでは戦った時に守りにくいので、しばらくお休みをしてくださったらいかがかと」
そう追儺の実働部隊の人が話した途端、一斉に社員がこっちを向いた。
瞳には、え? 休むのって言う喜びとそれによって増える仕事の不安への恐怖が浮かんでいた。
そのアンビバレンツな気持ちのこもった皆の目が辛い。
「いや、嫌われてんだな、俺……」
「何を今更」
そうすぐに返してきた<おやっさん>の野崎君にイラッとした。




