続き9
三鈴さんの言葉で俺だけでなく、社員の皆もはっとしたような顔になった。
土御門の巫女と産まれた事での普通の人生を歩めなかった無念さ。
そして、若く亡くなってしまった自分を思って俯いている姿。
フィギュアとは言え、それは心を打つ姿であった。
「何だ。それなら、私も土御門家の力でここに就職させてもらいました。貴方はさらに土御門家の姫なのですから、ここで働かせてもらえばいいじゃないですか」
そう薫子さんが微笑んだ。
「ええ? 良いんですか? 」
「当たり前じゃないですか。貴方は土御門の姫様なんですよ」
そう薫子さんが常務を見た。
常務が凄い顔になっている。
河村先輩も他の社員も一斉に救いを求める様な顔の常務から目を反らした。
「いや、それは……その加茂君……えーと」
常務が激しく動揺した。
「私からもお願いします」
俺もそこで頭を下げた。
常務がさらに瞳孔を開いた顔で俺を見る。
とりあえずと場の誤魔化しで茶を飲んでいた河村先輩とか社員が一斉に茶を吹いた。
「えええ? 」
「旦那様……」
「三鈴さん。俺は君の気持ちに気が付かなかった。だから、俺からもお願いします」
「旦那様っ……」
そうフィギュアのままで三鈴さんが抱き着いてきた。
水着のフィギュアなんで恥ずかしかったが、俺も軽く抱きしめた。
「ええ、話や……」
そう<おやっさん>の野崎君が呟いた。
常務がその場で崩れ落ちた。
いつもの動かざること山の如しだろう。
「あ、それは分かったんで、お願いしますね」
そう念を押したら常務がそのまま黄昏ていた。
それにしても、このフィギュアは可動式じゃないし、どうやって動いてるんだろうかとか。
三鈴さんも人形に入れたんだとか、いろいろと思う事はあったが、まあ、これで良かったと思う事にしよう。
風に吹かれたパラパラと流れる常務の白髪を見ながら、そう思った。




