続き13
「うるさいですね。こちらの方と交渉する前だというのに失礼じゃないですか? 」
俺がそう呆れて振り返って呟いた。
これから相手と交渉するというのに困ったもんだ。
「ほう、貴様。欠けているのか。いや違うな。何かを助けようとして捧げたのか? 」
そういつの間にか巨大な目が俺の耳のそばに来て話しかけてきた。
「欠けている? 」
「そちらの黒子の人形に入っているものは死んでいるからだが、本来はわれらに会えば、言わば根源の恐怖でもあるものに会うのだ。お前の背後にいる連中と同じく半狂乱になっておかしくない。だが、お前はその恐怖を受け取る部分が欠けているのだ。それも記憶とともにな……」
そう、その目玉は告げた。
「はて、そんなはずは? 」
俺が不思議そうに聞いた。
「いや、記憶も奪われて欠けている。だからだ。それこそがお前の三鈴との縁なのだろう」
「へぇ、そんなことがあるんですか? 」
「お前もいささか演技づいているようだがな」
そう目玉は横から突っ込んできた<おやっさん>の野崎君に苦笑した。
「ねぇ、悪魔さん。あまり騒がせてはいけないわ」
そう西洋人形が俺の背後で騒ぐ大家のおばあさん達を見てつぶやいた。
「やれやれ、相変わらず、優しいな、お嬢は」
「だって、私は父の願いで現れた魔王。あなたと魂を同じくするものだもの。おかしいのは私の方でしょ。死んだ人間を生き返らせて、あまつさえこの屋敷で永遠になどと無茶な願い事を父にさせてしまったのは私だし」
そう西洋人形はうつむいて答えた。
「ということは、真行寺男爵が魔道に落ちたのは……」
「ええ、私を生き返らせようとしたから」
「なるほど」
「あっさり、受け入れるんですね」
「いや、俺も人形だし、横に実際に死んでる人もいますし」
「いやいや、それだけでも普通じゃないとは思うのだがな。まあ、お嬢の言葉だ。お前達は騒ぐのをやめろ」
そう目玉が言うと、大家のおばあさん達の異常な発狂はかくりと止まった。




