続き10
「いや、本当に困るんですが……」
ヤタガラスさんがそう話す。
「いやいや、安心してください。恐らくはアプローチの仕方がおかしかったんです。今度はそれを考えてやります」
俺がそう微笑んだ。
「と言うと、練習していたあれですね? 」
<おやっさん>の野崎君がにっこり笑った。
「やはり、呪いの市松人形には市松人形なりの挨拶が必要だったのだと思います」
俺がそうにっこり笑った。
ヤタガラスさんは露骨にドン引きした顔をしていたが。
俺達は高木さんのアパートの入り口に来ると<おやっさん>の野崎君がスマホの音楽を流し出した。
「ひゅーどろどろどろどろ……」
「高木……先輩……俺です……貴方の……後輩の……加茂です」
かすれたようなオカマっぽい声で朗々と高木先輩の玄関で俺が話し出した。
「加茂……です……話が……あるんです……よぅ」
<おやっさん>の野崎君がスマホの音量を上げるとともに俺が心を込めて話す。
「トーン、トーン」
俺がわざと甲高い音が出るように準備していた木槌で高木先輩の部屋のドアを叩く。
その音がスマホのお化けの登場音とともに、アパートに響き渡る。
「開けて……くだ……さい……。ドアを……開けて……ください……高木……せんぱーい……」
途切れ途切れで囁くようにしかし声音は重くしゃべり続けた。
だが、高木先輩は息を殺したまま出てこない。
「また、無視……ですか……。 呪って……やる……。開けて……くれない……なら……このアパートの住人もぉぉぉぉ……」
俺が呪いを込めた感じで声高く囁くように金切り声で叫んだらドアが開いて、俺達を奪うように真っ赤になった高木先輩が部屋に入れてくれた。
うちの会社は転勤以外の自己都合の引っ越しは自費でしないといけないので慌てたのだろう。
これが社会人の現実だ。
全部の番外編も投稿しました。
読んでくださいませ。
宜しくお願い致します。




