続き1
「あ、あの。加茂さんは帰らないんですか? 」
1年後輩の村上君がそう恐る恐る聞いてきた。
「いや、土御門家のおかげだけど、まだ受けた仕事が片付いて無いし」
「いやいや、奥さんが待ってるんだから、帰ってあげなよ」
そう高木先輩がそう俺に諭す。
「とんでもない。妻は寝ないでも大丈夫だし。私もこの身体だと寝ないで大丈夫なんですよ。だから、他の人が必要な睡眠時間はありませんから遅くに帰宅しても十二分に話せますから大丈夫です」
俺がそう口をかくっとさせて市松人形で笑った。
まあ、口を開けるだけの表情しか出せないんだけど。
そうしたら、ひって悲鳴があちこちからする。
「まあまあ、慣れてくださいよ」
そう俺が苦笑した。
勿論、カクッと口が開くだけだが。
「慣れるかなぁ」
村上君の呟きを遠くを見る様な目で社長が見ていた。
「ああ、柚原さん。これのコピーをお願いできますか? 」
俺がそう言って昔俺を騙した井沢先輩が同じように虐めて自殺したとか言う柚原さんの名前を出したので、皆がぎょっとした。
実は俺が井沢先輩を首にしたので、すっとしたと言うので昨日話しかけられて仲良くなったのだ。
あてつけに、ここのビルから飛び降りて亡くなったせいか、歩くと社内の床に血がポタポタと落ちるのが難だが、仕方あるまい。
どうも、他の人には見えないようだが、コピーしてもらう書類はふわふわ浮いてるし、床の血だけは見えるらしく、皆が悲壮な顔をしていた。
「柚原君って? 」
社長が瞳孔が開ききった顔で聞いてきた。
「いえ、このビルから飛び降りて亡くなった先輩ですよね。昨日にお会いして意気投合しちゃって」
てへって感じで笑ったが、口しか開かないのでカコッてしたら、一部の女性の社員が泣き叫びながら事務所から出ていった。
「いるのか? 」
「ええ」
俺がそう答えると社長は泡を吹いて倒れた。
ここのとこの地震とか三鈴さんのトラブルで随分会社には迷惑をかけてしまった。
「大丈夫です。私が数字を戻すだけでなく一気に業績を上げて見せますから」
そう優しく倒れたままの社長に語り掛けた。




