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「お願いがあるんだけど…」
言いにくそうに下を向くヘレン。
どうしたのだろう。
「僕も連れてって欲しいんだ」
「都市の許可を受けていない者は、入れない」
ヴァリエが厳しい顔で言う。
見つかった場合、厳しい処罰が下される。
「だけど、貴方たちの仲間ということにしてくれれば」
「君は魔法屋のNo.をもっていないだろう?…ルオルはペットということにするからいいけど」
「おいらペットなのか!!」
しょぼん、と落ち込むルオルを同情をこめて撫でてあげる。
ちょっと可哀想だが、妥当な線だから仕方ないだろう。
「それに、アンナさんは止めるだろう? どう誤魔化す?」
「少しの間なら何とか誤魔化せるから…何でもやるから、お願い!」
ヘレンは中々折れない。
やっと得られた機会だ、逃せないのだろう。
「…言ったね?」
ヴァリエが怪しく笑う。
元々端麗な顔に、そんな表情が浮かぶと妙に寒気を感じる。
ヘレンもそう感じたのだろう、少し青ざめている。
「料金割増で、引き受けよう」
それを聞いて、ヴァリエはわざとヘレンに言わせたのだと分かった。
この男、自分より年下の少年に容赦ない。
魔法屋歴が長いと、こんなに強かになるのだろうか。
それでもヘレンは頷く。
「足りなかったら、働いてお金を送るよ」
「了解した。君はいい依頼主だ」
にこやかにヘレンと握手をするヴァリエ。
カレンと同じように思っていたのか、ルオルはしっぽを振って呟いた。
「この悪魔」
カレンはこれからあんな風に強かにならないといけないのかと、ため息をついた。
「じゃあ、行ってこいよ」
アンナは最後の荷物を渡すと微笑んだ。
「行ってきます」
カレンの風邪は完治した。
都市へ行く準備はバッチリだ。
「ヘレン君、絶対お兄さん見つけてくるからね」
「うん」
明るい笑顔でヘレンは笑った。
ヘレンは、後から合流することになっている。
手を振る二人に手を振り返しながら、ラディカ村を出た。
都市の名はラディカル。
元は同じ地域のせいなのか似た名前だ。
鞄にはパフォーマーをする為の衣装が入っている。
移動するパフォーマーを鎖国中でも魔法関係の商売として受け入れるのは、極端に娯楽が少ない為である。
「だいじょうぶかな、私・・・」
カレンの不安そうな声にヴァリエは返した。
「大丈夫、何かあったら僕がフォローするよ」
カレンは頷いた。
不安は、きらびやかで可愛い衣装を着れる楽しみと置き換えた。
「カレン! ヴァリエ!」
後ろから、リュックを背負ったヘレンが追いつく。
「ヘレン、待ってたよ! アンナさんは大丈夫だった?」
「隣村の友達の所でしばらく泊まらせてもらうって言ってきたから大丈夫。ちょっとヒヤっとしたけど」
家を出る時に、ヘレンに告げたらしい。
「ちゃんと戻ってきて、ここは貴方の家だからって。 友達の所に行くだけなのに、何言ってるのって誤魔化したけど。…もしかしてバレてたのかな」
もしかしてではなく、間違いなくアンナは気づいていただろう。
兄の所へ会いに行こうとするヘレンを。
だけど、止めなかったのは何がなんでもヘレンは行こうとするだろうから。
ヘレンは必ず帰ってくると信じているから。
「ヘレン…お兄さんに会えても、アンナさんの所へ帰るでしょ?」
ヘレンはポカンとした。
「何言ってるの、当たり前じゃん。カレンもアンナも心配症なんだから」
ほっ、と胸を撫で下ろすとヴァリエが言う。
「ヘレン、君には今回従者として着いてきてもらう」
「分かった、ヴァリエ…じゃなくて、ヴァリエ様! カレン様にルオル様、誠心誠意お仕えします」
「いい返事だ!では、おいらを抱っこするのだ」
「はい!ルオル様」
「なんでルオルが偉そうなの…」
まったく、ルオル様と言われて調子にのってしまったらしい。




