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それから数日経ち、カレンの容態が安定してくるとヴァリエは告げた。
「今回は、都市内から、パフォーマーの依頼を受けたんだ。娯楽が少ないらしいね」
「パ、パフォーマー?」
リシェールのお祭りで見たパフォーマーを思い出す。
虹を咲かせたり、夜空に下へ上へのぼる花火を操ったり。
「む、無理だよ…あんなの、魔法もろくに使えないのにできないよ」
「大丈夫、簡単なものを教えるよ。魔法の循環に慣れてきた、今の君ならできるよ」
「できるかな?」
「風邪が治ったら、練習しよう。コントロールの練習にもなる。あとさ、見てよ」
ヴァリエが取り出したのはきらびやかな衣装。
「パフォーマーをする時の衣装。猫用もあるよ」
そう言って小さな衣装を取り出す。
それも手の込んだ、きらびやかなものだったが、ヴァリエは堪え切れなくなって吹きだした。
それに見たルオルの毛並みが逆立つ。
「何が可笑しい!おいらだってオシャレするんだぞ!」
「ヴァリエ、笑わないであげて」
「だって…こいつ、なにするのさ?」
その言葉にルオルを見る。
「オッド・アイが珍しいし、玉乗りできればみんな夢中になるよ!」
ルオルは肩を落とす。
「お、おいらは見世物か…。おいらの人権はどこにぃー!」
「ルオルは、猫だから、猫権だね」
「おいらは、人間だけどな」
カレンはしばし沈黙した。
「…えー! まさか、呪いって、猫になる呪い!?」
「まぁね、初めはかけたやつを恨んだけど、もう、この姿に慣れたし。今は当然の報いだと思ってるよ。」
それきり、ルオルは俯いてしまう。
ああ、そっか…そうだよね。
ルオルにも内緒にしたいものはあるよね。
ビルの影で小さくうずくまっていたルオルを思い出す。
ユマニであんなに弱ってしまうまでルオルは何をして生きてきたのか、知りたいけど聞いちゃいけない。
ルオルが自分で話すまで。
そういえばヴァリエも謎だよね…。
ルオルといつものように言い合いを始めたヴァリエの横顔を見つめる。
ヴァリエだってカレンと出会う前まで何をしていたか、カレンは知らない。
知っていることといえば、クラリベから『銀龍の牙』を奪われそうになったことと。
魔女の元弟子で、その魔女に呪いをかけられたこと。
それからヴァリエの父が刀鍛冶というくらい。
わたし、ヴァリエのこと、全然知らないんだ。
ユマニの銀の柱の前で、微笑んだヴァリエを思い出す。
風が積もった雪を舞いあげて、銀の髪が光を弾いた。
色素の薄い唇がわずかにつくった微笑みは儚く消えてしまいそうで、なんだか胸が痛くなって、名前を呼んだけど。
ヴァリエのことをもっと知りたい、と思った。
「どうした、カレン?」
ヴァリエを見つめたまま、固まってしまったカレンにヴァリエは手を振る。
何故か、ヴァリエの色素の薄い唇を見つめてしまっていたことに気がつき、顔がうっすら赤くなっていく。
指で、自分の唇を隠した。
「カレン?」
ルオルに言われ、布団をはぐり立ち上がる。
気まずさが半端ない。
「ち、違うけど…私、水飲みたいから貰ってくるね!」
「カレン! 急に動いて大丈夫なのか?」
心配した、ルオルがカレンの足に肉球で触れる。
その柔らかさに、思わず触れたい誘惑にかられるも、ぐっと我慢した。
「大丈夫、ちょっと寝たし、さっきよりいいから!」
慌てて走り出したカレンに二人は首を傾げた。
「もー、私…何か変だよ」
気がつくとヴァリエを見ながらボケーっとしている時があるのは気づいてた。
ヴァリエが変に思わないのだけが救いだ。
熱で少しぼんやりしているせいかもしれないけど。
「私、しっかりしなきゃ」
そう言って両頬をピシりと叩いた。
水を貰いに、台所へ行くと、アンナがいた。
「アンナさん?」
声をかけると、アンナはまったく気がつかなかったらしく、驚いて振り向いた。
「ああ、カレン。起きてて大丈夫なのか?」
「少し、歩きたくなりまして…水をもらえますか?」
「ああ」
グラスを渡すと、アンナはため息をつく。
「どうかしたんですか?」
聞くと、アンナは俯いた。
「自分でも何を馬鹿なとは思うんだが、ヘレンが兄と会ったら、兄の元から戻ってこない気がして」
アンナはため息をついた。
「そんなことないですよ、きっとヘレン君はアンナさんになぜヘレン君を預けたのかとか、お兄さんについて知りたいんですよ。自分の出生について知れるってこともありますし。自分の血縁関係を知りたいって思うのは当たり前じゃないですか?」
カレンがそう言うと、アンナは笑って言った。
「そうだよな、カレンに言われてなんかすっきりしたよ。ありがとな、カレン」
アンナは白衣を翻して、台所を出て行った。
その姿がなんだかさわやかで、カレンはすっきりした。
伸びをしながら言う。
「戻ろうかな」
アンナにこっそり感謝しながら、カレンは二人の所へ向かった。




