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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第三章 時に歪んだ町】
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「…ですね」



カレンが目を開けると誰かの話し声が聞こえてきた。


カレンの体を覆うのは柔らかな布。


なんだか、最近よく倒れる気がする。


前と違うのはベッドではなく、布団であるということと、頭に冷たい布が掛けてあるということだ。


見知らぬ場所であるということは同じだ。


わずかな衣擦れの音に、起きたことに気がついたらしい。


心配そうなルオルがカレンを見下ろしていた。



「カレン、起きたのか」



「私、倒れたのね。ここは?」



「ここはラディカ村の病院だ。」



答えたのは部屋に入ってきたヴァリエだ。


一緒に入ってきた女性が座りながら言う。



「疲れからきた風邪だな。三日、四日で治るから心配しなくていい」



そう告げた女性はこの村の医者で、アンナ・シウスだと名乗った。


褐色の肌をしていて黒い髪を高く結っていた。



「だからしばらくここで安静にして…」



その声の続きはどたどたとした足音にかき消された。



「アンナ、アンナ、魔法屋が来たって本当!?」



「うるさい、病人のいるまえで騒ぐな」



荒い息をつく少年は黒髪ということはアンナと同じだったが、褐色の肌ではなかった。



「依頼をしたいのなら、まずは自己紹介からだろう。それに今、依頼をできる状態だと思うか?」



少年は横になったカレンと白衣を着たアンナを見て、少年は縮こまる。



「私はいいですよ。依頼はなんですか?」



カレンは少年に言った。


ひとつでも依頼が多いほうがいい。



「ぼ、僕はヘレン・シウスです。兄を見つけて欲しいんです」



シウス、という苗字で、二人が兄弟なんだと分かった。


いや、それよりも、どういうことなのだろう?



ヘレンは語り始めた。



「僕がこの村に来たのは赤ん坊の頃。アンナに兄が僕を預けていったらしいんです。兄はこの先を進んだ都市にいるんです」



「それが分かってるなら、なぜ行かないんだよ」



ルオルがしっぽをぱたぱたさせながら言った。



「都市との境界線は厳重な警備で守られていて、特別な許可がないと入れないんです」



「それで、僕達魔法屋って訳か。ギルドの要請があれば、中に入れるから」



ヘレンは頷いた。



「他の人は取り合ってくれないし、こういう風に頼めるのはあなた達魔法屋だけで。だから、お願いします!もし、兄と会えなくても、見つからなくても、ちゃんとお金は払いますから!」



頭を下げたヘレンを見て、アンナはため息をついた。



「はいはい、それは風邪が治ってからだ。とりあえず、お前は水汲んで持って来い。頭にかけた布がぬるくなってる」



いつのまに気づいていたのか、アンナは言った。


その言葉に顔を上げ、ヘレンは来たときと同様に音を立てて、水を汲みに行った。



「騒がしい奴だ。うるさいのは許してやってほしい。小さい頃からお金を貯めて、兄を探してくれる人を待ってたんだ」



アンナはヘレンの走っていった方向を見てから言った。



「別にかまいませんよ。でも…とすると、二人は血は繋がってないんですか?」



「ああ、義理の兄弟だ。あいつの話した通り、赤ん坊の頃に私に預けられた」



アンナは言った。


ヴァリエは困ったような顔で言った。



「依頼を受けたいのは山々なんですが、その方の特徴が分からないと」



「そりゃそうだな。私があいつを預けられたのは十年前。ちょうど、君ぐらいの年だった」



そう言ってアンナはカレンを見た。



「ほとんど鎖国してて、あの場所の人間が出てくるのはほとんど無かったのに、珍しいな、と思ったのを覚えてる。長い銀髪をしていて、同性と見紛うくらい美しい人だった。同い年くらいなのに、都市の人はこんなに美しいのかって驚いた。その人の手には赤ん坊のあいつが抱えられていて、その人は言った。『私の弟を預かってくれませんか』って。もっと驚いた。でも、私は放心してて、なんの考えもなくあいつを受け取った。『ありがとう』と言う美しい声を残してその人は都市へ戻っていった。去り際に、手の甲に薔薇みたいな痣があるのが見えた」



話し終えると、アンナは気がついた。



「あ、私ただの思い出話になってたな。その人の特徴は銀髪の長い髪と手の甲の薔薇みたいな痣だ。あと、私と同い年くらいで…たぶん二十五かそこいらだ」



「分かりました。依頼お受けします」



ヴァリエは答えた。


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