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「…ですね」
カレンが目を開けると誰かの話し声が聞こえてきた。
カレンの体を覆うのは柔らかな布。
なんだか、最近よく倒れる気がする。
前と違うのはベッドではなく、布団であるということと、頭に冷たい布が掛けてあるということだ。
見知らぬ場所であるということは同じだ。
わずかな衣擦れの音に、起きたことに気がついたらしい。
心配そうなルオルがカレンを見下ろしていた。
「カレン、起きたのか」
「私、倒れたのね。ここは?」
「ここはラディカ村の病院だ。」
答えたのは部屋に入ってきたヴァリエだ。
一緒に入ってきた女性が座りながら言う。
「疲れからきた風邪だな。三日、四日で治るから心配しなくていい」
そう告げた女性はこの村の医者で、アンナ・シウスだと名乗った。
褐色の肌をしていて黒い髪を高く結っていた。
「だからしばらくここで安静にして…」
その声の続きはどたどたとした足音にかき消された。
「アンナ、アンナ、魔法屋が来たって本当!?」
「うるさい、病人のいるまえで騒ぐな」
荒い息をつく少年は黒髪ということはアンナと同じだったが、褐色の肌ではなかった。
「依頼をしたいのなら、まずは自己紹介からだろう。それに今、依頼をできる状態だと思うか?」
少年は横になったカレンと白衣を着たアンナを見て、少年は縮こまる。
「私はいいですよ。依頼はなんですか?」
カレンは少年に言った。
ひとつでも依頼が多いほうがいい。
「ぼ、僕はヘレン・シウスです。兄を見つけて欲しいんです」
シウス、という苗字で、二人が兄弟なんだと分かった。
いや、それよりも、どういうことなのだろう?
ヘレンは語り始めた。
「僕がこの村に来たのは赤ん坊の頃。アンナに兄が僕を預けていったらしいんです。兄はこの先を進んだ都市にいるんです」
「それが分かってるなら、なぜ行かないんだよ」
ルオルがしっぽをぱたぱたさせながら言った。
「都市との境界線は厳重な警備で守られていて、特別な許可がないと入れないんです」
「それで、僕達魔法屋って訳か。ギルドの要請があれば、中に入れるから」
ヘレンは頷いた。
「他の人は取り合ってくれないし、こういう風に頼めるのはあなた達魔法屋だけで。だから、お願いします!もし、兄と会えなくても、見つからなくても、ちゃんとお金は払いますから!」
頭を下げたヘレンを見て、アンナはため息をついた。
「はいはい、それは風邪が治ってからだ。とりあえず、お前は水汲んで持って来い。頭にかけた布がぬるくなってる」
いつのまに気づいていたのか、アンナは言った。
その言葉に顔を上げ、ヘレンは来たときと同様に音を立てて、水を汲みに行った。
「騒がしい奴だ。うるさいのは許してやってほしい。小さい頃からお金を貯めて、兄を探してくれる人を待ってたんだ」
アンナはヘレンの走っていった方向を見てから言った。
「別にかまいませんよ。でも…とすると、二人は血は繋がってないんですか?」
「ああ、義理の兄弟だ。あいつの話した通り、赤ん坊の頃に私に預けられた」
アンナは言った。
ヴァリエは困ったような顔で言った。
「依頼を受けたいのは山々なんですが、その方の特徴が分からないと」
「そりゃそうだな。私があいつを預けられたのは十年前。ちょうど、君ぐらいの年だった」
そう言ってアンナはカレンを見た。
「ほとんど鎖国してて、あの場所の人間が出てくるのはほとんど無かったのに、珍しいな、と思ったのを覚えてる。長い銀髪をしていて、同性と見紛うくらい美しい人だった。同い年くらいなのに、都市の人はこんなに美しいのかって驚いた。その人の手には赤ん坊のあいつが抱えられていて、その人は言った。『私の弟を預かってくれませんか』って。もっと驚いた。でも、私は放心してて、なんの考えもなくあいつを受け取った。『ありがとう』と言う美しい声を残してその人は都市へ戻っていった。去り際に、手の甲に薔薇みたいな痣があるのが見えた」
話し終えると、アンナは気がついた。
「あ、私ただの思い出話になってたな。その人の特徴は銀髪の長い髪と手の甲の薔薇みたいな痣だ。あと、私と同い年くらいで…たぶん二十五かそこいらだ」
「分かりました。依頼お受けします」
ヴァリエは答えた。




