19.レウス、入学決定
結局、それ以外の情報が得られないままレウス一行はギルベルトの部屋を後にして、マウデル騎士学院に戻って来た。
「あんまり大した情報は無かったな」
「ええ。でもあの二人組の目的が予想出来ただけでも良かったじゃない」
「キュヒラー団長は私達に協力は惜しまないって言っていたから、あの人の事を信用すればそれで良いだろう」
学院に戻る途中でセバクター、アレット、エルザの三人が会話をする斜め後ろでは、レウスがあのドラゴンの事を思い出していた。
(五百年前の因縁が、まさかまだ続いていると言うのか……?)
かつて自分が仲間と共に討伐したあのドラゴンの話を、こうして転生した後になってダイレクトに聞いてしまう事になるとは完全に予想していなかったレウス。
その余りにも思いつめている様子を見て、隣を歩く父のゴーシュが思わず声を掛ける。
「どうしたんだお前、そんな怖い顔をして?」
「え……そ、そうかな?」
「ああ。蛇も殺せそうな目付きだったぞ。何か気が付いたのか?」
「いや……ただ疲れてるだけだよ。それよりも今日、もう家に帰るんだろ?」
「ああ。嬉しいか?」
「そうだな。こっちに来てから色々とトラブルに巻き込まれて、もう散々なんだよ。だから後の追跡はエドガーさんとか騎士団の人達に任せて、俺は以前の生活に戻りたいね」
「確かに騎士学院に関わるとお前にはロクな事が無かったな。分かった、それじゃ学院でこれまでの事をエドガーに報告して、食堂で昼飯を食ったらさっさと帰るとしよう。お前が何時までも帰って来ないとなると、ファラリアも心配するだろうからな」
しかし、周りの人々はレウスが一般人として静かに暮らしたいと言う、その願望を見事にブチ壊してくれた様である。
◇
「レウス・アーヴィン。お前は晴れて学院への入学決定だ」
「……へ?」
「お前もこれで、このマウデル騎士学院の学生になるんだよ」
「ちょっと待ってくれ。そんな入学するなんて俺は一言も言ってないぞ」
思わずタメ口になる程のショックで、そんなセリフが真っ先に口をついて出たレウスだったが、目の前で着々と入学手続きに必要な書類を準備するエドガーは全く聞く耳を持ってくれそうに無い。
それでも、自分の意思に反する事が既に決定している状況をまずは説明して貰わなければ自分だって納得出来ないレウスは、父のゴーシュと共に強めの口調でエドガーにその説明を求めた。
「俺は入学する気なんてありません。決定してるって……そんなの納得出来ませんよ、エドガーさん!!」
「そうだよエドガー。俺も今初めて知ったからビックリしてるんだ。何でこんな事になったのかを説明して欲しいし、入学したく無いって言うこいつの意見を尊重してやってくれないか?」
しかし、アーヴィン親子の要求に対するエドガーの回答で、逆に親子が黙り込むしか無くなってしまった。
「悪いが、俺にも拒否する事は出来ないんだ。これは騎士団長からの命令なんでな」
「えっ……」
「お、おいおい……どうしてそこで騎士団長が出て来るんだよ?」
何故入学云々の話にギルベルトが絡んで来るのか?
その理由が、学院長越しにアーヴィン親子に伝えられる。
「王国騎士団としては、なかなか他の業務に手を付けられないのが現状らしい。それにその赤毛の奴等となかなか良い勝負を繰り広げたって言うレウスを騎士学院でもっと育てる事によって、そいつ等がまたここにやって来た時に迎え撃てる可能性が高くなるだろうって話だ」
「いや、追える位の人員はあると思いますけど……それって結局、俺任せでこの事件を処理してくれって言ってる様なものじゃないですか?」
「そう言う事になる。それにあの二人組がこのマウデル騎士学院の中にあるドラゴンの遺物を奪うのに失敗したとなれば、いずれまた奪いにやって来るだろうと見越した上での決定なんだ」
「それは勝手過ぎる気がするぞ……」
アーヴィン親子だけでは無く、エドガーも納得出来ていない様子だが、これ以上はどうしようも無いと言う空気が学院長の執務室の中に流れていた。
「ともかく、俺の立場ではもう覆す事は出来ねえ。入学は決定だ。ただし幾つか条件があって、入学は入学でも二年からの編入って形になる。これはギローヴァスを討伐した実績を評価した上での話だ」
あれよあれよと話は進み、こうしてマウデル騎士学院への入学が決まってしまったレウスは、平穏な生活を送って静かに暮らすと言う願望が叶わなくなってしまった。
しかも普通の入学では無く、まさかの編入と言う形での入学だから余計に肩身が狭い気がしてならないのだ。
「とりあえず、母さんとお前の勤めている店には俺が事情を説明しておく。俺も月に一度は定期的にここに物を届けに来るから、お前はお前で卒業までしっかりやるんだぞ」
「気が進まないなあ……」
地元の町の学校での勉強は懐かしくて楽しかったのだが、騎士学院での勉強はそれとまた環境が違うので気が乗らない。
それに何より、前世で戦いに明け暮れていた自分がまた戦場へ赴く事になる未来しか見えないレウスの口からは、ため息ばかりがこぼれるのであった。




