10.王女との約束
「では、やっぱりアリッサがシャルルの思い出の『リンゴの君』なのね」
我が麗しの王女様に再度確認される。・・・なんだろう『リンゴの君』って。
「はい。お恥ずかしながら、その少女は私です」
「そうなのね。素敵だわ。シャルルはずっとリンゴの君に会いたがっていたのよ」
「はあ・・・」
リンゴを渡した思い出からずっとリンゴの君と呼ばれていたようだ。恥ずかしい。
「何故、先ほど名乗らなかったの?」
「それは・・・」
名乗れるはずがない。王子様から初恋の人だと言われて、私ですと名乗りをあげられる程、お気楽な頭はしていない。
「私ごときが王子様の思い出の君であるなど、到底、申し上げることができませんでした」
「まあ、アリッサ。そんなに自分を卑下しないで。私が悲しくなるわ」
「申し訳ございません」
「でも、運命的ね。私の侍女がシャルルの初恋の人だなんて・・・」
そう、私は侍女。貴族と言っても子爵令嬢なのだ。
「早速、シャルルに伝えたいわ。ねえ、メリッサ」
「はい。ピオニア様」
「お、お待ちください」
「何?アリッサ」
「その、私がリンゴの君であることを王子殿下に・・その・・・お伝えしたら、がっかりされるのではないでしょうか」
直接、「伝えないで欲しい」と言えないもどかしさ・・・辛い。
「あら?何故?がっかりなんてしないわよ。ずっと会いたがっていたのだから」
「ですが・・・」
もと他に何か言い方が無いものだろうか・・・。
「光栄な事とは存じますが、何分、私も今日初めて知ったもので、なんというか・・・」
ああ、言葉がまとまらない。
混乱のあまり「ああ」や「うう」と唸っている私を見て、ピオニア様が微笑んだ。
「分かったわ。今すぐには伝えないことにするわ」
「ピオニア様・・・」
「そうよね。いきなり初恋の人だと言われても恥ずかしいわよね」
「・・・はい」
「いつか伝えてあげて。本当にずっと会いたがっていたの。あの子の中で大切な思い出なのよ」
「・・・はい」
「ああ、アリッサが私の義妹になるかと思ったのよ」
その言葉を聞いて凍り付かずにはいられなかった。
ピオニア様の最後のお言葉は冗談だったと思う。そもそも、第一王子のシャルル様には公爵令嬢の婚約者様がいらっしゃるのだ。私ごときが、結婚できるわけがない。
(ちゃんと、身の丈に合った相手を早く見つけよう)
婚活にもう少し力を入れようと改めて決心するアリッサであった。
「ピオニア様」
「何?メリッサ」
「アリッサをあまり揶揄わないでやってくださいな」
「あら?私は本気よ。大丈夫。シャルルの為なら何でもするわ」




