休憩、そして奇襲
めっさ遅れました
「――さて、と」
戦場は移り変わり、ここは緩衝地帯最前線の一角。
大暴れを繰り広げていたプレイヤー…テオは一息つくと、
先程まで振り回していた両刃幅広の大剣を地面に突き刺した。
「歩兵連中は大体目ぼしいのは片づけた、って感じか?」
『上空レッドラインは大分白熱してますけどね……』
「噂の魔女大隊ってやつか。よくもまああんなもん出してくるもんだよ」
ボイスチャットで聞こえてくるのはとある少女。
彼が団長を務める騎士団の副団長だ。
年は一回りほど違うものの、事務作業だのなんだの色々とこなしているせいか、
騎士団内での影響力はとっくに団長を超えている。
『でもテオさん。そろそろ戻ってきてくださいよ……』
「あん?予定じゃあまだ自由時間だろ?」
「――団長」
チャット中のテオの横から別のプレイヤーが割り込む。
テオはその顔に見覚えがある。自身の騎士団の斥候役。つい一か月前加入した新人だ。
「ん?どしたー?」
「副団長から言われてきました。そろそろ撤収だそうです」
「……ありゃりゃ」
『新人君にお迎えお願いしましたから、大人しく帰ってきてくださいね』
「ちぇーっ。まだ消化不良なんだがな」
流石に直接来た新人にゴネるわけにもいかず、
名残惜しそうに最前線を後にするテオと新人。
「……すげえな」
迎え役の新人が背後を警戒する為に振り向くと、最前線の異常な光景を目の当たりにする。
平原は荒れ果て、まるでハリケーンが過ぎ去った後のような静けさが漂っている。
今日一番騒がしい最前線で、間違いなく異常。
そしてテオ以外のプレイヤーが見当たらない。
OMNISの死亡後の扱いとしてプレイヤーの死体はポリゴン化して霧散し、
その後直下の地面に死亡タグというアイコンが数分の間残り続ける。
新人の目の前には膨大な数の、地面を覆うほどの死亡タグが広がっていた。
「なんか言ったか?」
目の前には化け物染みた実力の上司。
それが涼しい顔をして此方を見ている。タグは見えているだろうに、何の気なしに。
その事実に無意識のうちに身震いした新人は、思わず目を逸らす。
……そのおかげだろうか。彼はおそらく最前線における彼女達の最初の目撃者となる。
「いやなんでm……あれ?」
「ん?」
新人の目線の先。先程まで自分達がいた最前線の真っただ中に1人のメイドが佇んでいた。
ヴィクトリアン形式と言えばいいのか、かなり古めかしい露出の少ないメイド服を纏った女性。
エルフをイメージしたキャラ作成をしているのだろうか。尖った耳が映えている。
荒野に棒立ちするのみの女性に、疑問符が浮かび続ける新人。
敵対を示す赤いアイコンが無いことから同郷のプレイヤーかNPCだと分かる。
まあこんな戦地でNPCなどめったに見たことが無いので、おそらくプレイヤーだろう。
「団長、あの子」
「ああ……気にすんな」
「気にすんなって……」
「大丈夫大丈夫。多分お前が気にしてんのは杞憂になっちまうから」
何故?そう口にしようとした新人は次の瞬間。目の前の光景に呆然とせざるを得なかった。
それも仕方がないと言えよう。何故なら。
「――久しぶりに見たなぁ。この光景」
先程まで1人だったメイドが2人、3人、4人……と、
続々と何もない空間からワープしてきたかのように現れたのだから。
テオが適当に呟く間も、新人が何もできず立ち竦む間も。
全く同じ外見のメイドは一人もいない。
共通するのは全員が全員メイド服を着た美しい女性だということ。
そして1人目と同じく全員が尖った耳をもっている。
「―――テオ様」
増えていくメイド達の姿を眺めていたテオの進路上。
メイド服の女性。それも先程眺めていたメイド達とは違い、微妙に意匠が異なるメイド服。
目が覚めるような銀髪を邪魔にならないよう丁寧に編み込み後頭部で一か所に纏めている。
右手には極彩色に光を反射し続けるマントを抱えて、左手には古めかしいマスケット銃をぶら下げていた。
それよりも目を惹くのは、彼女の顔。
両眼を覆う漆黒のレース付きリボン。幅広のそれは見る者に眼帯のような印象を受けるだろう。
「お、確か……ビリー、ビリー・ブラインドだったか?」
「Yes。覚えていただけて光栄です」
「お前が製造された時はあの野郎嬉々として説明してやがったからな」
「ご主人様ですから……」
「まあなぁ……んで?なんでお前ら此処にいんのよ?
予定だと後半しか出てこないはずだろ?」
「その前に、1発ご容赦を」
そう言うと目隠しメイド……ビリーは左手のマスケットの銃口を真上に向けて躊躇なく引き金を引く。
放たれた銃声を聞いたのか、遠くで合流予定だった団員数名が駆け寄ってくるのがわかる。
しかし銃口から放たれたのは銃弾ではなくスモーク弾。それも青色のスモークだった。
スモークは勢いよく放たれたと思いきや高く高く昇り、30mほどの高さまで登る。
テオと騎士団の面々はそれに驚き、更に周りを見渡してさらに驚く。
前線の丁度自分たちがいる横一線。その一線上で次々と同様のスモーク弾が打ち上がる。
「スモーク弾……?」
「第1フェーズ完了。続いて第2フェーズに移ります」
「……説明はしてくれるんだろうな?」
「Yes。勿論でございます。そもそもテオ様はこの後の作戦はご存知ですよね?」
「指揮官の1人なんだから当然だろ。
横陣に入る連中は各小隊に分散して土木工事、その間俺たち騎士団なんかの攻略組が前線を維持」
「その通りです。ただ大本営とご主人様の方で少々誤算があったようで……」
「誤算?」
騎士団の1人は疑問をそのまま口にする。
その疑問に対し、ビリーは再びマスケット銃を上空に向ける。
しかし引き金に手をかけることは無い。あくまで支持棒のように使っているようだ。
その銃口は最前線。煌びやかに爆発と魔法の残光が舞う空間を指していた。
「まずは魔女大隊。敵航空部隊のジェット戦闘機が思いのほか強く、
当初の予定よりレッドライン、イエローラインの拡大が遅れております」
これに関しては単純なコストの問題でもある。
如何に魔女大隊が強力でもそれを運用するのは人形狂という個人だ。
補給1つ、修理1つでも多大なコストがかかる魔女大隊を長時間運用し続けることはできない。
その為、今回の作戦では最初に出撃し敵航空部隊に大打撃を与えて前線を広げ、
その後はイエローラインの飛行船に待機、終盤にダメ押しで投入する予定だった。
「魔女大隊のリソースの消費が激しく、終盤の作戦に参加できない可能性が浮上しました。
結果魔女大隊は当初の予定通り待機。その穴埋めに竜騎士各位と駆逐級飛行船が投入されます」
航空戦力をレッドラインに注ぎ込むことで地上の前線へのフォローが足りなくなる。
それは困る。テオは思わず歯噛みしてしまう。
イーオン側の航空戦力は戦闘機のみではない。
爆撃機や戦闘ヘリも存在しているし、それは地上のプレイヤー達にとって大きな脅威だ。
当初の予定では機動性に優れた竜騎士の部隊がフォローする予定だったが、
それが手薄になるのは考えたくもない悪夢だった。
「そしてもう一つの誤算。それは敵戦車部隊の装備更新が思いの外早かった事」
こちらをご覧ください。と胸元から取り出したのは一枚の筒状に丸めた羊皮紙。
胸元から取り出したところでテオ以外の騎士団メンバー、正確には男性陣が真剣な目でこちらを見てくるが、それをガン無視してテオは羊皮紙を開く。
「これは……戦車か?それも行軍中の?」
羊皮紙に写っていたのは行軍中の戦車部隊の画像。おおよそ20台ほどだろうか。
アエラでは魔石と錬金術を組み合わせたカメラのようなアイテムも開発されている。
だからこのような画像が存在するのは不思議ではないが……
「第4中隊【Krähe(烏)】からの情報です。偵察中に偶然発見したようですね」
「これがどうしたっていうんだ?」
「事前に外部サイトで公開されていた最新式と姿形が異なります」
「んー?そう言われてもなぁ……分かる奴いるか?」
そう言って背後にいた適当な騎士団男性陣に羊皮紙を渡す。
渡されたプレイヤーは何故か少し嬉しそうな顔をした後、羊皮紙を見て眉をしかめる。
「……マジか。全然違うぞ」
「は?どういうことだ?」
「外部サイトで出ていた最新式は【M4A1 フラミーニス】でした。
モデルは1942年生産の【M4A1 シャーマン】。最大速度は38.62km/hで主砲は75mm戦車砲です」
ただこれは違う。そう言って再び画像の戦車を指さす。
「車体の大きさも、主砲の長さもまるで違う。
全長は……恐らく1.5倍はあります。見たところドイツの【Ⅴ号戦車】に似てますが……」
「そのⅤ号戦車はシャーマンと何が違うんだ?」
「団長、出身ドイツなのに知らないんですか……?」
「生憎こういうミリタリー系はサッパリでな」
羊皮紙の隅。正確には走っている戦車の足回りを指さす。
「Ⅴ号戦車、通称パンターは史実だと最高速度46キロ毎時でした。モデルそのままなら単純に1.2倍の速度でこっちに走ってきてます」
「主砲こそ同じ75mmですが射程はパンターの方が500mは長かった筈ですし、何より装甲が段違いです……一応設計上前面重視の配分になってるはずなので背面や上から奇襲すればどうにかなる、かも」
そこまで聞いて徐にビリーは右手を上げて挙手の体制をとった。
「尚、速度に関しては第4中隊の隊員から追加で報告がありまして……観測魔法で測定したところ60キロ毎時ほどだったそうですよ」
「ハァァァ!?」
「なんかおかしいのか?」
「スペック上の最高速度が平地で55キロ毎時ですよ!?緩衝地帯レベルの悪路で60キロ毎時とかふざけてるとしか言えないですよォ!」
「こうなると予想の2倍の速度でこっちに向かってることになりますね。こりゃあ確かに陣地構築間に合わんわ」
「先遣隊出してこっちから奇襲するか?団長デコイにして突っ込めばいけるんじゃね?」
「オイ」
ミリオタ団員が世の理不尽に咆哮する中、冷静に……一部冷酷に対策を考えはじめる団員一同。
しかしそれを一瞥したのち、ビリーは微笑を浮かべる。
「故に、作戦内容を補強することとなった次第です。内容としては先程そちらの団員様が仰られていた通り先遣隊を派遣して戦車部隊を奇襲、これを殲滅します」
「じゃあ騎士団の方で希望者集めておくか……?」
「やはり団長デコイ作戦か……よし、副団長に連絡入れておくわ」
「ええ……」
「新人、これがアエラに名高い大剣騎士団の日常だ。早めに慣れろよ」
「お前ら後で潰す」
積極的に上司を肉盾にしようとする騎士団一行。
戸惑う新人を放って好き勝手に動き始めるその姿は、アエラでも屈指の武装集団であることを忘れてしまうほどだ。
しかしそんなギャグ集団の中、丁度調子に乗った団員達に拳骨を食らわせたテオの目の前に一枚の仮想ウインドウが姿を現した。
ウインドウに映るのは白銀色の髪が特徴的な少女。
貴族令嬢の着るドレスを基礎にミスリル製の防具を身に着けたその姿は、
可憐な容姿に確かな力強さを感じさせていた。
そんな少女の名はリリィ。大剣騎士団の副団長にして『白銀騎士姫』の厨二…異名を持つプレイヤーの一人である。
『師匠~。聞こえてます?』
「ん?……ああ、リリィか」
「お疲れ様です!副団長様!!」
「今日も変わらずお美しくて何よりです!!」
「踏んでください!」
「この態度よ」
『あはは……』
態度を一変させてリリィの映るウインドウに迅速なお辞儀を行う団員一行。
団長への忠誠心は欠片も見当たらないその姿は逆に清々しいほどだ。
「リリィ様。こちらは現状の問題をお伝えしたのち、先遣隊派遣の旨を話していたところです」
『はい!人形師団の方ですよね。ええっと……』
「ビリー・ブラインド。【妖精部隊】所属の自動人形です」
『はいはい!アレッ……人形狂さんから話は聞いております!!』
「え?何の話?」
「なんか話ついてたんですか副団長?」
何も知らない団長と団員達にため息をつきながら渋々説明するリリィ。
『戦車部隊の件は聞いてましたよね……聞いてましたよね?』
「それは知ってる」
『例の戦車部隊ですが、イーオンが地上に展開している前線から大きく逸脱。北側からこちらに向かってきています』
「……それ、どういうことっすか?」
『恐らく例の新型戦車部隊はこちらの横陣に対し北側面から奇襲、その後は橋頭堡としての役割を果たすつもりです』
アエラのショウタイムにおける戦術は壁の円弧状に角度を付けて横陣を展開。周りを大盾を持ったウォーリアーを、その後ろにヒーラー、最後列にメイジの部隊を構成。壁の両端付近にはテイミングされた魔物に騎乗した騎兵隊及びメイジで構成された魔法騎兵隊が配置される。
図にすると古代ローマのファランクスが一番近いだろうか。但しファランクスに比べると横陣の規模が段違いに長い。緩衝地帯は中心部に行くにつれて生成されたアーティファクトによって地形の激しさが増していく。両世界の壁付近はディガー達が採掘と埋め立てを繰り返しているので比較的平坦に近い地形をしているが、アエラ側は横陣展開用に更に前面に簡易的な堀を掘ることで車両の侵入を防いでいる。
テオ達騎士団やアエラのトップ層はこの堀を掘る時間稼ぎを担う予定だった。
しかし新型戦車部隊が陣地形成前に横陣配置予定地を急襲すると酷いことになる。
「横陣の弱点である機動性を補う為に配置された騎兵隊ですが、戦車部隊に対し機動性と主砲の射程は圧倒的に不利。当然成す術も無く潰されます」
「北方向の騎兵が潰されれば端の連中は横から食い荒らされて陣形形成なんぞ追いつかないか」
「援軍とか、北側に今から送ったりできないんですか?」
『難しいですね……正直今の横陣でも構成人数はカツカツですし』
「プレイヤーだけじゃなくアルケミーのゴーレム、テイミングした魔物にNPCの傭兵までかき集めてこれだ。3匹いる召喚獣もあくまで役目は対ラインの乙女だ。他には割り振れん」
アエラの強みは統率された集団による強固な陣形の構築と維持だ。
システムの特性上プレイヤーは上位に近づけば近づくほど超人的なフィジカルを発揮し、
既存のファンタジー系RPGを思わせる安寧を思う存分謳歌できるゲーム性は所属ユーザー数増加を促した。
反してイーオンの強みは内燃機関を搭載した輸送車両による人員輸送効率の高さ。技術力に裏打ちされた高火力で長射程な武器の数々。技術力の高さは安定した火力とユーザー全体の移動速度を飛躍的に高める。それがイーオンで個人が集団を形成して動く必要性を希薄にした原因でもあるが……。
ネガティブな話になってしまうが、アエラ側がショウタイムで有利に働けるのは個人の強さと集団としての強さを両立できているからに過ぎない。序盤は受けの姿勢で敵の消耗を狙い、勢いが衰えた頃を見計らって前進し包囲殲滅を断続的に繰り返す。個人ではテオのように超人的な身体能力を武器に大立ち回りができる。更に言えば、今は試用段階だがロクスソルスを筆頭に国所属のプレイヤーに対して武器や防具の他ポーション等の物資補助を行っていた。これは戦力アップ目的もあるが一番の理由はショウタイム参加の垣根を低めてより多くの人手を集めることを目的にしている。
数は力だ。アエラの首脳陣はそれを良く理解していた。
イーオン側は攻め続けることでリソースを吐き出し続けるが、当然そのリソースもタダじゃない。
陣営からの補助も今のところ存在しない現在にそれは致命的だった。
陣営がショウタイムに勝ったとしても個人で破産していたら意味が無いのだ。
まあショウタイムにおいて両陣営で個人個人のランキングが公式運営によって作成されており、
順位に応じてロスを支給されるシステムが存在するのだが、活躍できなければそれも無いようなものである。無駄金を投じる可能性があるイーオン側のプレイヤーのモチベーションは思った以上に低いのが現状だった。
結果として地力に優れたアエラ側が持久戦に持ち込めば勝手に戦線は瓦解する。
そう思っている矢先に今回の戦車部隊だ。
今回のイーオンは明らかに強みを活かしながら組織的に動いている。
機動力を生かして陣形を崩し橋頭堡を確保。そこにまとまった数の戦力を置かれでもしたら最悪だ。
戦車部隊が無傷のまま残れば魔法の射程外から砲弾を打ち込まれ続けて陣形を組んだまま嬲り殺しになる。
「―-そこで我々【人形劇】の出番です」
『簡潔に説明します。戦車部隊の移動予測地点に【人形劇】所属の幹部級自動人形を全投入。
騎士団からも精鋭のウォーリアーを何人かテオさんに率いて貰います』
「ひゅー、全投入とはまた大胆だな」
「御父様曰く『邪魔なものは早めに潰しておくに越したことは無い』だそうです」
「ははっ。言いそう」
「それ俺たちも行くんですか?」
「マジぃ……?」
『大丈夫。皆さん優秀なウォーリアーですから!』
「丁度周りに8人ぐらいいるからこれでいくか。ハイ決定~」
「俺バリバリ新人なんですけど?」
「最悪肉盾になればいいや」
「クソ上司……!」
いろいろ不安だが方針は決まった。
早速いざ動かんとしたその時、テオ達の頭上に大きな影が入り込んだ。
驚く面々の中、ビリーは無言で最敬礼の姿勢をとる。
「――やっほ。お待たせ」
「ビリー、お疲れ様。テオ様もお久しぶりです」
上空に翻るのは10頭ものグリフォンの群れ。それぞれチャリオットを牽引しており、
その先頭のチャリオットには緑を基調としたバトルドレスを纏ったエルフ……スプライトの姿ガ見えた。
しかしそれすら霞む程目を惹きつけるのはその横にいる存在。
グリフォンが牽引するそれより一回り大きなチャリオットに乗る褐色肌の美女。
夜闇を思わせる滑らかな髪に、少し垂れ目がちな月を思わせる黄金の瞳。髪と同じく夜闇を織り込んだようなドレスとヴェールを纏った姿は夜の女神をイメージさせる。
彼女が乗るチャリオットはグリフォンの代わりに一頭の黒馬が牽引していた。
わずかに霜の張った豊かな鬣が特徴的な黒馬は全高2m以上の重種に近い姿をしている。
足元には局所的な夜空が展開されていて、まるで地面を走るように飛ぶことが可能なのだろう。
グリフォンですら翼端の長さが3mほどあるように見えるのに、それにも劣らない威容だ。
「【輸送部隊】のボスが直々にお出迎えか」
「へ?知ってるんですか団長?」
「人形劇の輸送部隊を取り仕切ってる自動人形だよ。仕事で何度か会ったことがある。
名前は確か……」
「ノートよ。よろしくね?」
そう言って蠱惑的なウインクをばら撒くノート。
美人のそういった仕草に弱い騎士団の面々はもう鼻の下が無いほどに伸びていた。
ノートは面白そうにクスクス笑い、スプライトは呆れた様子でグリフォン達を地上に下ろす。
「うーし、行くぞお前らー」
「正直時間も厳しいので早く乗って下さい……ノートも揶揄わない」
「はーい。フフッ」
「……ハッ!?い、急ぐぞ!」
「うっすうっす!!」
呆けていた男連中もスプライトの覚めた目線とテオの掛け声に我に返ったのか、
焦ったようにチャリオットに乗り込んでいく。
「―-出発。ノート、先導を頼みます」
「了解~」
『ご武運を!』
「隊長。ノート様。テオ様。行ってらっしゃいませ」
黒馬が先導し、そのすぐ後ろをグリフォンの群れが追走していく。
画して2世界の戦争はその激しさを静かに増していくこととなる。
「……では、私達は予定通りに行動させていただきます」
『はい!ビリーさんもお気を付けて!』
即席の騎兵隊を見送った後、ビリーは再び外套を羽織り、姿を消す。
後に残るのは何も動くものの無い混沌とした緩衝地帯のみであった。
読了ありがとうございます。




