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狭間の唄  作者: 秋口峻砂
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九、血、乾涸びて

髑髏逸話、其の壱

 身体から血が抜けていく。もはや指先すら動かすことも叶わぬ。それも仕方がなかろうて。斬り合いの果てに油断から深い傷を負い、路傍に転がっているのだから。

 私を斬った相手が友だということが唯一の救いだろうか。例え私の裏切りから憎しみ合っていたとしても、何も知らぬ相手に殺されるよりは何倍もよかろう。

 霞み始めた眼に不意に飛び込んでくるそれは、あまりにも不思議な光景だった。私を憎み斬り殺したはずの友が、膝をつきながら慟哭を上げていた。それはまるで私を斬ったことを後悔しているかのように映る。

 例えそうだとしても、私と君とはこうするより他なかったのだ。だからこそ、私を斬ったことを後悔などすべきではない。どちらが正しくどちらが間違いなのかなど、私と君との間では無意味であっただろう。それすら君は忘れてしまったのか。

「すまぬ、すまぬ、俺を赦してくれ」

 懺悔などするな、この馬鹿者めが。私は君に斬られたことに何の後悔もしてはいないのだ。それなのに君が後悔していては私の死が無意味になってしまうではないか。私の屍など踏み付けよ。唾を吐き蹴り飛ばし貶し吐け切り刻むがいい。それでこそ、君はこれから先を生きて行けるのだ。

 君はきっと、これから先、永遠にそれを背負おうとするだろう。だがそんなくだらぬことはするな。例え腐り果て髑髏のようになったとしても、それでも生きよ。生きて生きて生き抜いて何かを悟り、そして死ぬがよい。

 私はここで血、乾涸びて死ぬ。だがそれでよいのだ。きっと私の屍も蟲に食い荒らされ、土に還り、そして花が咲こう。それでいい、私などそれでよいのだ。

 不意にてのひらが熱くなる。君は私の手を握りながら涙を流している。それだけで何かを得た気になる。

 そうか、そうなのか、これが命を遂げるということなのか。どんな生き方をして行こうとも、必ず訪れる死という名の終焉。意識が薄れていく。それは漆黒の闇に融けていく感覚だった。

 もういい、もういいのだ。君はもう泣かなくともいい。生きてくれ、ただ生きていてくれ。私の屍を踏み越えて、生きていけ。

 赦す赦されるではない。

 私はゆっくりとその眼を閉じた。

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