六、虎の如く
男と女、其の壱
申し訳程度に隠されたその体躯は、他を圧倒するほどに大きく、そして強い。その男の風貌は正しく虎の如く。引き締まり且つ盛り上がったその太い腕、巨大で岩のように硬い拳、身体に走る無数の創は、彼が歴戦の武士であることを示していた。
「お兄さん、あたしを買わないかい」
色町を闊歩するその男に、艶やかな着物に身を包んだ女が身を寄せた。男はじっと女を見、そして無愛想にこう告げた。
「女なんぞに興味はない。俺はただ強く在りたいだけだ」
「あらあらあら、それは異なことを仰られますわね。女の真理を知らぬのに、強くなんぞなれましょうや」
「なれぬと申すか」
「ええ、なれませぬ」
男はまた女をじっと見た。なるほど、女から強い力は感じられぬが、その眼には明確な強さが宿っている。
「ふうむ、ではお前の強さとは何だ」
「お侍さんの強さは膂力でしょうが、あたしら女の強さは全てを包み込む母性さね」
「ほう、母性か」
「ええ、そうですわ」
女はにこりとひとつ微笑み、そのやわらかい乳房を男の腕に押し付けた。なるほど、女の言う母性とやらが良く分かる。ただ男が感じているそれは母性というよりも妖しさや艶やかさだ。それもまた女の武器かと納得してしまう。
「あたしをお買いなさいよ、そうしたらもっと分かるよ、女の強さが」
「それを倒さずして何が武士か、とでも言うか」
「ええ、そうですわ」
さて、と男は頭を掻いた。女の言葉はなるほど最もだ。だから女を買うのには文句もない。だが何はともあれ銭がない。銭がないのに女は買えない。だがこの女は買いたい。財布には五文銭が三枚のみ。
「よし、お前を買おう。だが今は銭がない。だから立身出世した後に小判を五枚やろう。それでどうだ」
「あらあらあら、文無しかい。こりゃとんでもない男を捕まえちまったねえ」
女は楽しげにころころと笑いながら、男の腕に身体を絡めた。そして軽く男の股間を叩いてこう言った。
「なら、今晩は楽しませておくれよ、お兄さん。立身出世をのんびり待つ代わりにね」
男も男ならば女も女。どちらが虎でどちらが獲物なのか、古今東西それは分からないものさね。




