四、くろかみさらさら
華と楔、其の四
女のくろかみがさらさらと揺れる。
いつからだろうかは覚えていないが、私はこの女のくろかみが好きだった。艶がありしなやかで、それなのに繊細な印象を与える。漆黒とも取れるその色は、私の表情すら映しそうだ。
「ほんとうに私の髪がお好きなのですね」
手に触れてさらさらと均していると、女は私の手に触れて嬉しそうに微笑んだ。視線が重なると、今度はころころと喉を鳴らした。
「何がおかしい」
「いいえ、嬉しいのですわ」
そう問うと、その細い指で私の輪郭を愛しそうに撫ぜた。私は不意に悔しくなる。これでは女に惚れていると丸分かりだ。男として多少の威厳は保ちたい。
「厳めしい顔をしても同じですよ。愛しそうに指を、私のくろかみに絡めていらっしゃいますから」
女という奴はどこまで賢しげなのか。馬鹿な女は腹立たしい、阿呆な女は救えない、狡猾な女は銭勘定、だが賢しげな女は多少抜けている分、可愛いものだ。女の価値なんぞ、それを愛する男が決めればよい。
「少しお待ち下さいな、結い上げますので」
「ならぬ、まだ月明かりで楽しんでおらぬ」
「何を仰られていますの、初詣にご一緒して下さるのでしょう」
「何を言うか、私にとっては神よりも髪だ」
ぽかんとした表情をし、女は呆気に取られている。元々から逢引の理由を初詣としていただけで、私は初詣なんぞどうでもよい。むしろここからどう女を口説くのか、それが目下の悩みだ。
「あらあらあら、そんな露骨に誘われても困りますわ」
「だいたいそんな綺麗なくろかみを結うなんぞ、許せるものか」
「勝手な言い分ですわね、それ」
抱き寄せてくろかみに指を通すと、さらさらさらさら、くろかみは揺れる。
さてはてどう口説いて、茂みの奥の観音様を初詣しようか。
悩みどころだ。




