獣人の里のウサギ巫女と、至高のふかふかベッド
「おぉ……本当に山の中に真っ直ぐな道が通っている……!」
「これで隣の山まで半日で行けるなんて、信じられん!」
エルフと獣人の混成開拓団を乗せた白虎の馬車は、俺が作った『神の街道』を快適に進んでいた。
御者席で手綱を握るガルアは、見たこともないほど上機嫌で尻尾をブンブンと振っている。
「タクト、見えてきたぞ! あそこが我が故郷、百獣の里だ!」
山を抜けた先に見えてきたのは、切り立った崖に囲まれた大きな集落だった。
しかし、大豊作に湧くエルフの里に比べると、どことなく活気がなく、行き交う獣人たちの表情も心なしか暗い。やはり慢性的な食糧不足のダメージが残っているようだ。
馬車が里の中央広場に到着すると、すぐに一人の少女がトコトコと駆け寄ってきた。
「ガルアお姉ちゃん、おかえりなさい! ……って、そちらの人間とエルフの方々は?」
長いウサギ耳をピコピコと動かしながら小首を傾げるのは、ふんわりとした白い髪のウサギ獣人の美少女だ。
全体的に華奢だが、胸元は獣人らしくしっかりと主張している。
「よくぞ出迎えてくれた、ミント! 聞いて驚け、この御方はエルフの地を一瞬で大農園に変え、さらにこの山脈を割って街道を作った偉大な生産術師、タクト様だ! そして私の夫(予定)でもある!」
「はぇっ!? ガルアお姉ちゃんが、人間の、お嫁さん……!?」
ミントと呼ばれたウサギ耳の少女は、驚きのあまり耳をピンと垂直に立たせて固まってしまった。
「はじめまして、タクトです。よろしくね、ミントちゃん」
「あ、は、はじめましてですっ! 里の巫女見習いをしております、ミントと言います!」
俺が微笑みながら手を差し伸べると、ミントは顔を真っ赤にして、おずおずとその小さな手で握手を返してきた。その瞬間――。
『ピコーン。対象の極度の疲労、および里の深刻な環境劣悪(睡眠不足)を確認。スキル【至高の生産】が派生します。建築・インテリア技術が最高難度に達しました――固有能力【神の安眠空間】が解放されます』
また脳内アナウンスだ。どうやらミントちゃんだけでなく、この里の獣人たちはみんな、魔物の襲撃を警戒するあまり、夜もまともに眠れず慢性的な睡眠不足に陥っているらしい。
「よし、挨拶代わりに、みんながぐっすり眠れる場所を作ろうか」
「え? 眠れる場所、ですか?」
ミントが不思議そうに首を傾げる中、俺は広場の空き地に手をかざした。
ゴゴゴゴゴ……!
一瞬にして、大理石と最高級の木材でできた、ホテルのような巨大な宿舎が組み上がっていく。
さらにその内部には、俺の生産スキルによって生み出された『神のふかふかシルクベッド』がズラリと並んでいた。
それは、触るだけで一瞬で意識がトぶほどの至高の寝心地を約束する、魔力入りの特製ベッドだ。
「な、なんですかこれぇぇぇー! 屋根と壁が、一瞬で生えてきました!?」
ミントがウサギ耳をめちゃくちゃに振り乱して大パニックになる。
「まぁ見てなよ。ほら、ミントちゃん、ちょっとここにゴロンって横になってみて」
「ひゃいっ!? は、初めての殿方とベッドなんて、そんな不純な……うにゅぅぅ……」
照れながらも、疲れ果てていたミントがベッドにそっと腰掛け、そのままコテッと横になった瞬間。
「……ふにゃぁ……しあわせぇ……」
一秒で寝落ちした。
それも、これまで見たこともないような、とろけた幸せそうな寝顔である。
「お、おいミント!? 起きろ! ……って、完全に熟睡しているな。あの警戒心の塊のようなウサギ族が、ここまで無防備に眠るなど、あり得んぞ……!」
ガルアが驚愕してベッドを触ると、「うわ、何だこの柔らかさは! 雲の上か!?」と自分も吸い込まれそうになっていた。
集まってきた里の獣人たちも、次々とベッドに吸い込まれ、一瞬で幸せな寝息を立て始める。
「タクト様、また一人、可愛い女の子を骨抜きにしてしまいましたね?」
リリィが呆れたように、でも嬉しそうに微笑む。
「いや、ただみんなにゆっくり休んでほしかっただけなんだけど……」
数時間後、極上の睡眠からスッキリと目を覚ましたミントは、涙目で俺の服の裾をギュッと掴んできた。
「タ、タクト様ぁ……! あんなにぐっすり眠れたの、生まれて初めてです……っ! 素晴らしいお礼(食料)まで持ってきてくださって……。あの、もし迷惑でなければ、私もガルアお姉ちゃんと一緒に、タクト様のお嫁さんにしてくれませんか……!?」
ウサギ族の超絶可愛い巫女ちゃんから、まさかのストレートな逆プロポーズ。
「む! ミント、お前ずるいぞ! 先を越されてたまるか! タクト、今夜こそ私と――」
「ガルアさんもミントさんも、順番です!」
リリィの嬉しい悲鳴が響き渡る中、俺の異世界大家族は、ついにウサギ耳の美少女まで巻き込んで、さらに賑やかになっていくのだった。




