至高の生産スキル
「――というわけで、君には【至高の生産・創造】のスキルを授けます! 異世界でたくさんのものを生み出して、豊かな人生を送ってね!」
真っ白な神の空間で、お調子者っぽい女神はそう言って親指を立てた。
元・社畜サラリーマンの俺、佐藤拓人は、トラックに撥ねられた哀れな犠牲者として、異世界への転生特典をもらったわけだ。
生産スキル。地味だが素晴らしい。
ブラック企業でボロボロになるまで消費される側だった俺が、今度は何かを生み出す側になる。
異世界の辺境で、自分で作ったログハウスに住み、自分で作った道具で畑を耕す。そんな穏やかなスローライフが俺を待っているはずだった。
――そう、あの時は確信していたんだ。
◇ ◇ ◇
「……おかしい」
気が付くと、俺は緑豊かな大森林の中に立っていた。
さっそく念願のスローライフの第一歩として、身を守るための武器や、生活のための道具を作ろうとスキルを発動したのだが。
『ピコーン。対象が不適切です。本スキルは【無機物】の生産には対応していません』
脳内に響いた無機質なアナウンスに、俺は首を傾げた。
無機物がダメ? じゃあ、木を加工して家を建てるとか、鉄を叩いて剣を作るとかは全滅ってことか?
「じゃあ、植物とか、生命系ならいいのか? 【生産】発動、薬草!」
『ピコーン。対象が不適切です。本スキルは【植物・菌類】の生産には対応していません』
「は? じゃあ何が作れるんだよ!?」
焦った俺は、自分のステータス画面を開き、【至高の生産・創造LV.99】の詳細を確認した。そこには、女神の悪質極まりない悪ふざけ……いや、驚愕の仕様がバカ丁寧に記載されていた。
【至高の生産・創造LV.99】
※本スキルは、術者の遺伝子情報と魔力を掛け合わせ、最高品質の『次世代』を誕生させることに特化した、究極の生命生産スキルです。
※期待される効果:【超・安産】【母体完全保護】【神童確定】【子孫繁栄の加護】
「……これ、子作り専用スキルじゃねぇかァァァァァァッッ!?」
俺の絶叫が、静かな森に木霊した。
生産ってそういう意味かよあの駄女神! 確かに生命を生産してるけども!
道具一つ作れない。家も建てられない。一人ぼっちの森の中で、俺にどうしろと言うんだ。相手がいなきゃただの死にスキルではないか。
「う、うあぁぁぁあッ!」
その時、近くの茂みから、か細い悲鳴が聞こえた。
ビクッとして駆けつけると、そこは小さな開けた場所になっていた。
そこにいたのは、背中に小さな羽を生やした、大きなイノシシのような魔物。そして、それに追い詰められ、地面にへたり込んでいる一人の少女。
(……耳が、長い?)
金髪の美しい髪に、鋭く尖った長い耳。おとぎ話に出てくるエルフの美少女だった。
衣服は少し破れ、白い肌が見えている。恐怖に震える彼女に、魔物が今にも飛びかかろうとしていた。
「おい、こっちを向け!」
俺は気が付けば、落ちていた太い木の枝を拾って叫んでいた。
戦うスキルなんてない。だけど、見殺しにはできなかった。
魔物がギロリと俺を睨み、標的を俺に変えて突進してくる。
「うおぉぉぉ!」とヤケクソで枝を振り回した瞬間――俺の体から、凄まじい量の黄金の魔力が、文字通り『溢れ出た』。
ドゴォォォン!!
「ぶひゃんっ!?」
ただの木の枝を振っただけなのに、俺から放たれた規格外の魔力の奔流が、魔物を遥か彼方へと消し飛ばした。
「え……?」
呆然とする俺。どうやら、子供を作るために溜め込まれた『生命魔力(LV.99分)』が、規格外すぎて戦闘に流出したらしい。
呆気にとられていると、背後から「あ、あの……」と声がした。
振り返ると、助けたエルフの美少女が、頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳で俺をじっと見つめていた。その呼吸はなぜか荒い。
「すごいです……なんて圧倒的な生命力。こんな、近くにいるだけでお腹の奥が熱くなるほどの濃密な魔力、初めてです……!」
「あ、いや、大丈夫だったかい?」
俺が手を差し伸べると、彼女はその手を両手でぎゅっと握り締め、信じられないことを口にした。
「お願いです、見ず知らずの人間の方! 私と……私と、子供を作ってください!」
「……はい?」
彼女は涙目で、必死に訴えかけてくる。
「私の部族は、原因不明の深刻な少子化に悩まされています。このままだと、数十年で滅びてしまうんです! だけど、あなたほどの生命力を持った方なら、きっと……! 側室でも、奴隷でも構いません! だから、どうか我が里をお救いください!」
出会って数分。魔王を倒してくれでもなく、村を助けてくれでもなく。
まさかの「子作り」の要請。
俺は自分の手のひらを見た。
モノは作れない。だけど、目の前の泣いている美少女を、そして彼女の家族を救うことはできる。
「……まぁ、俺のスキル、それしか使い道ないしな」
ブラック企業で擦り切れた俺の人生。
異世界では、一風変わった、だけど最高に賑やかで温かい『家族計画』が始まろうとしていた。




