瑕疵物件(10)
次の日、店長にバイトを辞めると伝えました。
[店長]
「急に辞めるといわれても困るけどさ、あのアパートは何かヤバい感じがするから早く出て行くのは正解だと思うよ。短い間だったけどありがとうね。そうだ、最後に飯食っていく?」
その時に食べたハンバーグ定食がとても美味しかったそうです。
[店長]
「またここに来れる機会があれば来てね。何か悩みとかあれば相談にのってあげるから。」
しかしMはもう2度とここには戻ってこれないことを悔しそうに話していました。
夜逃げ日当日
Mは準備を完全に済ませて、残りの待ち時間に上の祈る部屋に向かいます。鍵がかかっていたので前日のホームセンターで買ったピッキングセットで鍵をあけました。扉を開けると自分の部屋と同様に重い空気を感じ、玄関で合掌をしてから部屋にあがり、Mは祭壇の前に立ちました。祭壇には四角の銀箱がありました。
Mはその銀箱の蓋を開けて中身を見ました。中身は10枚ほどの供物となった人の写真。写真の裏には供物となった年月日が書いてあります。最後にMは写真を並べて手を合わせ供養をしました。
時間になり、迎えに来たSの知人が手配した人の軽トラックに乗って夜逃げを遂行しました。しばらくしてMの住んでいたアパートは無くなったそうです。
その後Mは専門学校を卒業するまでの1年ちょっとをSの知人の知り合いの家で過ごしました。
以上がMの体験談です。私がこの体験談を始めて聞いたのは入社2年目の飲み会の時でした。それから3年目になってもMは飲みで酔っ払うたびその話をしてくれました。私にとってとても興味深い内容でしたので。しかしMは1つ嘘をついていました。あのアパートは火事で全焼、大家とM以外の住人の全員が死亡しているのです。
それではなぜこの話をMではなく私がしているのか、
Mはついこの間死亡しました。
私の携帯電話が鳴る
「もしもし、はい、Mの処置は完了しました。MからSの知人の情報を聞き出したかったのですけど名前を覚えていないそうなので調査が難航しそうです。なのでSからその知人の情報を聞き出すために協力を願いたいです。私の祖父を殺しに加担した罪を持った者たちは全員始末しなければなりませんので。はい、お願いします。私はしばらく祈りを捧げるために休暇をいただきます。それでは失礼いたします。」
私は電話を切った。