106話 『還元』
テンテンと青いコアが俺の方へ転がってくる。
雷魔法に乗せた麻痺の効果により、痺れたゴブリンの手から滑り落ちた結果だ。
そいつを拾う。
そして、拾った瞬間に理解した。
「なるほどな。レベルシステムはこいつが維持していたのか」
『お主はその効果に大いに関係しながら、飲まれる訳でもないであろう。なので管理者としての適正がある』
コアに触れる事でコアの使い方の隅々まで刻み込まれた。
現在の稼働状態、何が変更できるか、そして変更するとどうなるかまで深いレベルで刻み込まれた。
正に管理者――システムのアドミニ権限がある状態だ。
さて、それなら何をすべきだろうか。
『グブ、グブブブ、グブルル』
コアの使い道に思案していたが、ゴブリンはまだ諦めず足掻いていた。
麻痺した身体で地面に這いつくばり懸命に何かをしていたが、何をしていたのかはゴブリンの姿で気づいた。
ゴブリンの腕が4本になり、身体が赤くなっている。
その様な急激な変化はバグだ。
他のモンスターを捕食する事によりバグる訳だが、今ここに他のモンスターは存在しない。
それならば何を捕食したか。
結論から言えば魔核だ。
暴食スライムの事を考えれば、魔核の状態での捕食ではバグる程ではない筈だが、それも程度問題だ。
一気に大量に取り込めばバグりもする。
どう考えても無謀な試みだが、ゴブリンはそこまでして何がしたいのだろうか。
そんな疑問に答える様に、赤くなったゴブリンは俺から目線を外し別の方向を向く。
その視線の先に何があるか見えた事で、ゴブリンがしようとしている事に気づいた。
いや、考えてみれば最初から何も変わっていないのかもしれない。
ゴブリンの目的はカグラだ。
ゴブリンの視線の先にカグラが横たわっている。
何故カグラを狙うのかは不明だが、システムに取り込まれた事の恨みか、もしくはこの世界に来る前――反転世界で何かがあったのかもしれない。
とにかく、自身の状態を顧みない行動は狂喜の域であり危険だ。
身体の痺れを無視し、カグラへ一撃を振るうためのエネルギーを得るために、両手に掴んだ魔核を更に口に放り込み続ける。
放っておく選択肢はない。
バグればバグる程対処しづらくなる。
まして大規模な戦闘となれば、その余波だけでも危険になる。
若干の焦りを感じるが、それが伝わったのか胸元のアミュレットから溜め息の様な声が生じた。
『のう、ハヤトよ。何を焦っておる。管理者になったのだ。お主の言葉であるが、既に詰んでおるのを自覚せよ』
なんのことかと一瞬考えたが、要するに青のコアの管理者であれば、今の事態は脅威でもなんでもないという意味だろう。
そして、言われてみれば事実その通りであり、今まで何を焦っていたのか笑えてくる。
「あぁ……確かに簡単な事だったな。さて、――――レベルアップシステムを初期化する!」
その宣言の通りに青のコアを制御する。
するのは設定の変更だ。
恐らくカグラが設計した世界を実現するためにAIが青のコアで造りだしたレベルアップシステム――その際に散らばったエネルギーを初期化して回収する。
『グブブ?』
ゴブリンは魔核を貪り続け、それに伴い身体がボコボコと変化し続けていたが、その変化が止まる。
そして止まるだけではなく、逆再生するかの様に変化が戻っていく。
それに伴い、ゴブリンの身体から青い光が生じ、その光は俺の手元の青のコアへと集まってくる。
それだけではない。
辺りに散らばる魔核からも青い光は生じ、それらも全て青のコアへと吸収されていく。
そして、この現象はこの方舟だけに止まらない。
方舟の外――市内に居るモンスター達やデバッガー達、更には全世界にまで広がったレベルやらバグやらによる成長エネルギーの全てを解除し、青い光への還元と回収が始まっていることだろう。
「これでそいつ、そしてモンスター全体の脅威は収まるだろう」
未だ青い光を吸収し続けているが、青のコアで出来るのはレベルシステムの回収までだ。
青のコアの管理者とはいっても、いきなりモンスターを反転世界に押し返す様な事はできない。
それを行うには、カグラやアルとの相談やと
、他のコアも必要になってくるだろう。
そのため、これからも世界にモンスターは現れ続ける事には違いない。
だが、そいつらのレベルは1だ。
モンスターが著しく脅威なのは、人間よりもモンスターが桁違いにレベルが高かった事が大きい。
レベル1であれば、通常兵器でもあればなんとかできるだろうし、『修正パッチ』を持っていれば対処する事もできるだろう。
とにかく、世界に対して今俺にできることは終わった。
後は、目の前のちょっとした問題を排除するだけだ。
「さて、覚悟はいいな?」
『グブ……』
ゴブリンはなんとか、青い光の流出を止めようとしているが、既にその身体は元のゴブリンの姿に戻っている。
辛うじて色だけは赤だが、それもすぐに緑色に戻るだろう。
だが、そこまで待つ必要もない。
これまで何度も苦労させられたそいつへ、最後の一撃を放つ。




