穏便に
ちょっと煮詰まっちゃいまして、このままだと筆が止まってしまうので勢いだけで書きました。
改稿と編集は忙しくなった時に行いたいと思います。
次話はこの話を改稿しても辻褄が合うように作ります。
「ご、ご主人様、申し訳、ありませんでした。」
俺はエルシアの首を掴んでいた。
柔らかい肌に食い込ませていた爪から彼女の赤が流れ出てくる。
「ごめん!エルシア!」
俺はすぐに手を離した。
「【痛分】!」
そして、彼女の首を締め付けられていた痛みと傷を俺が全て肩代わりする。
「エルシア、痛いところはあるか?」
「ありません。それよりご主人様…。私は失敗してしまいました。申し訳ありません。」
「いいよ。気にするな。俺も首をしめて悪かった。」
「…奴隷に謝らないでください。私は失敗したのです。ご主人様に捨てられるより首をしめられる方が本望です。」
エルシアがひどく落ち込んで、俺がエルシアを捨てるのが確定しているように言う。
「ゲスな魔王め!今すぐエルシアのことを解放してやる!」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、王と男は攻撃体勢に入っていて今にもこちらに飛びかかってきそうだった。
俺はエルシアに向き直る。
「【首輪解除】」
ーガチャ
「ご主人様?」
「エルシア、もう俺のことご主人様って呼ばなくて良いぞ。」
俺はエルシアの首から落ちた首輪を拾い後ろに投げる。
「首輪は外したぞ。」
投げた首輪は王と男の真ん前に落ちる。
「魔王のくせに命乞いをするというのだな。まぁ、よい。エルシアこっちに来い。」
「嫌!」
「なっ!?」
「ご主人様と一緒が良い!」
俺はこれがしたかった。
今のエルシアの状態をわからせてやることが一番効果的だと判断したのだ。
リンダ、これならどうにかなりそうだよ。
「エルフリーデ王国の王様。ちょっと話をしないか。」
「魔王め!よくもエルシアを!!守護者よ、魔王を殺せ!」
「御意。」
リンダ、まずい王様が話を聞いてくれない。
ものすごい勢いで男がこちらに向かってきてる。
武器を持っていないことから素手で殺しにくるようだ。
「【身体強化】【数値操作:魔力】!」
エルシアから授けてもらったスキルで1200だった全てのステータスの数値を20だけ残して魔力にうつす。
魔力:7100
「【結界】!」
ーガィィン
俺とエルシアの周りには超硬度の結界を作る。
魔力:100
結界の作り方なんて空気を押し固めてることしかわからないから、魔力はごっそりなくなる。
魔国に結界を張るときもごっそりなくなった。
だが、これで男の猪突猛進な攻撃を食い止めることができる。
「小僧、それじゃあ甘い。」
ーパリィィン
割られた!?
男の拳が俺の方に飛んでくる。
まずい、魔力以外20しかない。
「ご主人様は殺させません。」
俺の前にバッとエルシアが出てくる。
このまま、拳が進んだらエルシアに当たる。
それに気づいた王が直ちに攻撃をやめさせた。
「やめろ!」
ーピタ
エルシアの顔、数cmのところで男の拳が止まった。
「魔王、エルシアを自分の盾に使うなんて…。」
「だから、話を聞けって。エルシアが今どういう状態なのか。」
「…どういうことだ。」
リンダ、やっと穏便に済ませることができそうだ。
「エルシア、ありがとな。」
「いえ、ご主人様が死んだら私も死ぬしかありませんから。」
待て、その言い方だとまた…。
「魔王!やはり貴様は!それに守護者よ!お前の考え間違っているではないか!」
「しかし、王よ。もう奴隷の首輪は外れています。」
「確かに…。」
また話を聞いてくれない。
「エルシア、お父さんのこと呼んでくれないか?」
「お父さん!」
王がこちらを向く。
「ありがとう、エルシア。王様。そろそろ話をしないか。エルシアの状態についてと、俺が宝玉を奪おうとしたことについて。」
「……。」
「エルシア。」
「お父さん!」
「っ!」
「ありがとう。で、話をするか?」
「あぁ。」
こんなことなら最初から娘さんを助けたので宝玉くださいとか言えばよかった。
俺はポーションを飲んで魔力を回復させ、【数値操作】で元のステータスに戻す。
「じゃあ、自己紹介からするか。俺はツカサだ。魔王をやっている。」
「……。」
あぁ、って言った王様は魔王って聞いた途端に怒りでプルプルしている。
「エルシア。」
「お父さん!」
なんかさっきから娘に諭されてから話すのがとても情けない。
俺もエルシアに守られて情けないが。
「私はエガルド・エルフリーデ。この国の王をやっている。」
「そっちは?」
俺は俺を散々に叩きのめした男の方を向く。
「私は守護者だ。名前はない。」
まぁ、こいつのことは今は良いか。
レベルが上がったらちゃんと倒してやる。
「まず、宝玉を奪おうとしたことは謝罪する。」
「魔王が謝るだと…。」
魔王だって謝るよ。
それで話が丸く収まるなら。
「なぜ、宝玉を奪おうとした?」
「宝玉を奪おうとしたのは、ある人を生き還すためだ。」
俺は歩きながら赤いヘアピンを拾い、前髪につける。
エルシアも後ろからついてくる。
「これはエルシアのじゃない。これはその人からもらったものだ。」
「誰なんだ…、そいつは。」
「嫁だよ。」
俺は勇者に殺されたリンダのこと、赤いヘアピンに彼女を見ていたことを話す。
王様もエルシアも話を聞いてくれている。
よし、これで完全に話に興味を持ってもらえた。
守護者は目を閉じてるけど。
「ご主人様がいつも喋っていたのは、リンダさんだったのですね。」
「そうだよ。それとエルシア。もう、ご主人様って言わなくて良いよ。俺の名前はツカサだ。」
「いえ、私はご主人様と呼ばせていただきます。」
「そうか。」
「はい!」
エルシアは綺麗な笑顔を向けてくるがまだすがっているはずだ。
「次にエルシアのことを話そうか。」
俺は王様に向き直る。
「エルシアはなぜ貴様をご主人様と呼ぶんだ、首輪もしていないのに。」
王様は俺を憎悪の目で見ている。
俺はまず王様にエルシアが政略結婚させられそうになったことを話した。
「政略結婚なんてさせようとしていない!私はエルシアにより良い生活をさせようと。」
「けど、エルシアはそう感じて、出て行ったんだろ。」
「……。」
俺の言葉で王様は口を閉ざしてしまう。
閉ざしてしまうということは自覚はあるようだ。
やがて、王様は口を開く。
「エルシア、すまなかった。」
「いいよ、お父さん。今はご主人様がいるから大丈夫。」
やはり、王様は俺をご主人様と呼ぶのが不快なようで睨みつけてくる。
「なぜ、貴様をご主人様と…。」
「そのことは…、エルシア、話していいか?」
「良いです。」
俺は王様にエルシアに聞いた、奴隷にされた時の事、そして、オークに襲われそうになった事を話した。
「そんなことがっ!」
俺の話に王様は目を見開きエルシアに近寄ろうとする。
だが、エルシアは俺の後ろに隠れた。
「エルシアは今までの恐怖で俺にすがっているんだ。」
「エルシア…。」
王様は心配そうに俺の後ろにいるエルシアを見つめる。
そして、俺を見る。
「魔王、娘を救ってくれて感謝する。」
「魔王に感謝するのか?」
「娘を救ってくれたことには変わりないからな。だが、宝玉を渡すわけにはいかないぞ。」
その通りだ。
俺は完全に選択を間違えた。
このままじゃ、絶対宝玉を渡してくれるわけない。
どうするべきか…。
戦闘をしてもあの守護者には勝てない。
「彼が宝玉を欲っしているならあげれば良いじゃない。」
突然、女の人の声が響いた。
見ると、似ているが、エルシアよりも大人びた綺麗な女の人がこちらに歩いてきていた。
「娘を助けてくれた恩人が宝玉が欲しいと言うならあげれば良いじゃない。」
「お母さん…。」
「エルア…。」
お母さんということは王妃か。
「ツカサさん、初めまして。私はエルアと申します。この度は娘を救っていただきありがとうございます。」
「いえ。こちらこそ初めまして、エルアさん。」
感じも人当たりも良さそうだ。
エルシアはお父さんのことは拒絶したが、お母さんのことは大丈夫だろうか。
「エルシア、お母さんのところに一人で行けるか?」
「嫌です。ご主人様と離れたくありません。」
「すっかり懐いているのね。」
そう言ったエルアさんが寂しそうな顔で何かを言いたそうにしてエルシアを見ているのに気づいた。
俺はエルアさんにさらに近づきエルシアをエルアさんの横に立たせる。
エルアさんは俺を見てきたので、頷いてみせた。
するとエルアさんはさらに距離を詰める。
「エルシア、ごめんなさいね。お母さん、何もお父さんに言えなかったわ。」
「お母さん…。」
母と子の二人の目に涙が浮かぶ。
エルシアの手が俺から離れる。
「お母さん!」
「エルシア!」
二人が抱きしめあう。
エルシアもなんだかんだで家族に会いたかったんだな。
これをきっかけに依存が徐々になくなっていけばいい。
二人が離れる。
「エルシア、家族を騙すことをさせて、ごめんな。」
「ご主人様、奴隷に謝らないでください。」
「もう、奴隷じゃないだろ。」
「あっ…。しかし、本当に謝らないでください。リンダさんのためなら当たり前の行動です。」
エルシアは笑顔で俺を許してくれる。
俺は心が軽くなった気がした。
リンダ、俺を止めてくれて本当にありがとう。
彼女の姿はもう見えないが俺の心は穏やかだ。
「ツカサさん。」
エルアさんがこちらに近づいてくる。
「ツカサさん、宝玉でお嫁さんを生き還したいのですよね?」
「はい。」
エルアさんは話を聞いていたのだろう。
俺は返事をする。
それを聞いたエルアさんは王様のところに行く。
「さっきも言いましたけど、ツカサさんに宝玉をあげましょう。」
「何を言っているんだ、エルア。魔王だぞ、宝玉なんてやるわけがないだろう!お前は口を出すな!」
「いいえ!口を出します!」
「っ!」
王様の体がビクッとなった。
「もう、エルシアみたいに間違った選択はしたくありません。いつもいつも自分一人で勝手に決めて…。これからは王妃としてしっかりあなたを支えていきます!」
あ、これ、支えるのが王様になるな。
「あなた、早く守護者に宝玉を渡させて。」
「しかし、…。」
「あなた!」
またビクッと王様の体がはねる。
「わかった。守護者よ、魔王に宝玉を渡せ。」
「御意。」
俺は男から宝玉を渡される。
「エルアさん、俺は盗もうとしたんですよ?」
「でも、あなたはエルシアをここに連れてきてくれた。盗もうとしたのはそれでチャラにします。」
「ありがとうございます。」
俺は宝玉を受け取った。
「割った窓はきちんと弁償してくださいね。」
「…わかりました。」
もう、そんなことまで把握されているのか。
この人の前で悪さはしないほうがいいな、と俺はささやかな誓いをしながらお金をエルアさんに渡す。
そして、彼女から受け取った宝玉を見る。
これで、リンダを生き還す一歩目だ。
赤いヘアピンに触れてもリンダの姿はもう見えない。
だが、俺の心臓は静かな鼓動を刻み続けている。
「ご主人様、良かったですね。」
エルシアが近づいてくる。
ご主人様と呼ぶのはやめる気はないようだ。
「ご主人様、900万ガロ払います。」
あぁ、そういえばそんなこと言ってたな。
「いいよ、エルシア。宝玉はもらえたから。お金のことは気にするな。」
「しかし…。」
「気にするな。」
「わかりました。」
エルシアにちょっと強めの口調で俺は言った。
エルシアは少し納得していないような表情をしたが無理やり納得させる。
俺はこのままじゃ別れのタイミングを失いそうになったので早々に別れを告げることにした。
エルシアにはついてきてもらいたいがここにいた方が依存性も解消されると思うので連れて行く気はない。
それにせっかく家族の元に戻れたのに引き裂くのも悪い。
「それじゃあ、俺は次の宝玉を探しに行きます。今回はありがとうございました。」
俺は王様とエルアさんに頭を下げる。
守護者は俺に宝玉を渡してから目を閉じたままだが、一応頭を下げる。
そして、エルシアの方を向く。
「エルシア、色々ありがとな。エルシアのおかげでここまで来れたよ。元気でな。」
「えっ、まっ…。」
「ツカサさん!」
エルアさんに名前を呼ばれた。
「今日はここに泊まっていってください。」
「なっ、エルア!?」
「えっ?」
「もう夜になってますよ。」
俺は【世界時計】を見る。
【世界時計】19:30
「良いんですか?」
「いや、良くない!」
「あなた!」
「むっ…。」
王様は完全に主導権を握られたようだ。
「ツカサさん泊まっていってください。エルシアもまだ言いたいことがあるようなので。」
エルシアを見ると首を縦にふり頷いている。
「じゃあ、お言葉に甘えて泊まらせていただきます。」
俺は泊まらせてもらうことにした。




