第34話 クズ魔石と、印象阻害のブレスレットと、転職条件達成
チェスガンへ来て数日。
今日の自分は朝食を食べ終えると、誰にも気付かれないようにそっと男子寮を抜け出していた。
目的地は露店広場。
ちなみに周囲への警戒は完璧である。特にエレナには絶対に見つかりたくなかった。
(今日は絶対に一人で行動する……!)
理由は単純だ。昨日、一日中服屋巡りに付き合わされたからである。思い出しただけで足が重くなる。
(もう二度とエレナと服の買い物には行かない……)
あれは買い物ではない。戦いだ。しかも勝ち目のない戦いだった。ブラットと二人で荷物持ちにされ、何軒も何軒も店を巡らされる。服を見て。試着して。また服を見て。さらに試着して。途中から何軒目なのか数えることすら諦めた。
最後には自分まで服を買わされている。
(……いや、確かに似合ってたけど)
否定できないのが悔しい。ブラットも「似合うな」と言っていたし、自分で見ても悪くなかった。だから余計に反論できなかったのである。
とにかく。今日は自由だ。静かに。平和に。誰にも振り回されずに過ごしたい。
★
露店広場へ向かいながら、自分は今日の目的を整理する。
クズ魔石探しだ。
魔石とは魔獣の体内に生成される特殊な結晶だ。魔獣が大気中の魔素を吸収し続けることで形成されるらしい。長く生きた魔獣ほど大きく、高品質な魔石を持つ。そして魔石は、この世界における重要なエネルギー源だった。
照明。コンロ。冷蔵庫。魔道具。多くの場所で魔石が使われている。前世で言えば電池やバッテリーのような存在だろう。もちろん魔力を補充することも出来る。だが何度も繰り返せば劣化し、最終的には壊れてしまうし、冷蔵庫に使われている氷属性の魔石などレア度が高いとそれだけ高価になる。
そんな魔石の中でも、小さい、容量が少ない、用途が少ない、価値が低い。そういったものはまとめてクズ魔石と呼ばれていた。今回のお目当てはそれである。
試作品を作るだけなら安い素材で十分だ。最初から高品質な魔石を使うのはリスクが高い。前世の現場でも、初めて施工する工法はまず試験施工から始める。考え方は同じだった。
★
露店広場へ到着すると、自分は早速【鑑定の魔眼】を発動した。視界の端に次々と情報が流れていく。食品。雑貨。布。木材。安物の装飾品。しばらく歩き回る。
そして――。
(あった)
目的の店を発見した。山積みになったクズ魔石。しかも値段が安い。間違いなく当たりだった。
自分は店主のおじさんへ声を掛ける。
「おじさん、そのクズ魔石って安く売ってもらえませんか?」
おじさんは自分の顔を見るなり少し困った顔になった。
「坊主がクズ魔石なんか何に使うんだ?」
「え?」
「いやなぁ」
おじさんは頭を掻く。
「子供が買っても仕方ないだろ? 俺も子供にクズ魔石を売るのはな……」
怪しまれている訳ではないらしい。本気で心配してくれているようだった。良い人だ。ここは適当に理由を作ろう。
「実は父さんのお使いなんです」
「ほう?」
「安かったら買って来いって言われてて」
「なるほどな」
おじさんは納得したように頷いた。
「それなら全部持ってくか?」
「全部ですか?」
「処分に困ってるんだよ」
提示された金額を見て驚いた。
(安っ!?)
ほぼ投げ売りだった。迷う理由など無い。
「買います!」
「毎度あり」
おじさんは苦笑する。
「欲しい魔石を仕入れると、こういうのが大量に付いてくるんだ」
「あー……」
「捨てるのも無料じゃないからな。かと言って無料というのもな」
なるほど。業者には業者の苦労があるらしい。前世でも、建材を大量仕入れすると端材が大量に出た。その処分に困った記憶がある。どの世界でも同じ悩みがあるものだ。
大量のクズ魔石を抱え、自分はそのまま寮へ戻った。
★
部屋へ入るなり作業開始である。
今回作るのはアクセサリー。本当なら金属加工も試したい。だが工具が無い。だからまずは簡単な物から始めることにした。
色付きのワイヤーを編み込む。小さな魔石を固定する。前世でいうミサンガに近いだろうか。慎重に。丁寧に。魔石が外れないよう組み上げていく。
そして完成。早速鑑定してみた。
【印象阻害の銀ブレスレット】
装備者の印象を薄れさせる。記憶に残りにくくなる。鑑定阻害効果あり。効果時間一時間。
「おお……」
思わず声が漏れた。想像以上だった。かなり便利そうである。
今回使ったのは闇属性系のクズ魔石。本来なら弱い幻覚を見せる程度の代物だ。だが【素材の極み】によって性質が変化したらしい。
(これ良いな)
露店でアクセサリー販売をする予定だからだ。素材の極みで作った物は大抵おかしな性能になる。目立ちすぎると後で面倒になる。だから自分の存在感を薄く出来るのはありがたかった。
しかも鑑定阻害まである。これをつけた状態で露店を出せば、誰が作ったか追跡されにくくなる。思わぬ副産物だった。
★
さらに試作品を作る。一つ。二つ。三つ。だが作業しているうちに気付いた。
(あれ?)
素材の極みが強く反応する物と、そうでない物がある。これまでの経験を思い返す。
木材 ◎
金属 ◎
料理 ◎
魔石 △
そんな感じだ。魔石だけ明らかに反応が弱い。
(知識不足かな)
料理も最初は微妙だった。勉強して、経験を積んで、色々試した結果、今の性能になった。なら魔石も同じかもしれない。図書館で魔石の性質を調べる価値はありそうだ。
前世でも道具の性能を最大限に引き出すには、まず素材の特性を知ることが必要だった。知識が技術を底上げする。それはこの世界でも変わらないらしい。
そんなことを考えながら次の作品を作っていると――。
突然。視界に文字が浮かんだ。
【魔力操作が魔導操作に進化しました】
【転職が可能になりました】
「……え?」
思わず手が止まる。文字を二度見した。
★
慌ててステータスを開く。
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名前・レイ(6歳)
状態・良好 属性・雷 職種・魔導剣士3.1 →転職可能 種族・人族
成長スピード 力3 器用8 速さ3 知力8 魔力8
パッシブ 人見知り/建築/土木/料理/素材の極み
アクティブ 魔導操作/魔力感知/鑑定/クリーン/ボックス/ボール/シールド/ハンド/ストレージ/ウィップ/ブレード/武器強化/サンダーブレード/雷属性付与/サンダーボール/サンダーシールド
固有スキル ジョブホッパー/鑑定の魔眼
武器 神木の小太刀/印象阻害の銀ブレスレット
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「魔導操作……?」
魔力操作が進化している。それだけでも十分驚きだった。スキルが上位互換に変化する。そんな仕様があるとは思っていなかった。
だが本当に重要なのはそこではない。
職種練度。魔導剣士3.1。
ついに。ついに練度が三を超えた。
つまり――ジョブホッパーによる初めての転職条件を満たしたのだ。
(来た……!)
心臓が高鳴る。この世界へ転生して六年。ずっと気になっていた。ジョブホッパーとは何なのか。どんな職業へ転職できるのか。どんな能力が手に入るのか。
ようやくその一端が見られる。
アクセサリーどころではない。今夜は徹夜でも構わない。転職候補を確認する。絶対に確認する。
手元のブレスレットを机に置いて、自分は真剣にステータス画面と向き合った。
六年分の好奇心が、一気に動き出した瞬間だった。
――ジョブホッパーの本領が、ついに明らかになろうとしていた。




