23話:決闘
「アレックス殿と決闘するだと? レナード、アレックス殿はグランフォード家が正式に招いた客人だ。おまえは自分が何を言っているか解っているのか?」
翌朝、朝食の席でレナードが決闘の話をすると、グランフォード公爵が不機嫌な顔になる。
「そうよ、レナードお兄様。決闘なんて意味が解らないわ」
「エレノア、おまえは黙っていろ! 父上、アレックス・ベルナルドは私を侮辱しました。グランフォード家の嫡男として、見過ごす訳にはいきません!」
僕がレナードを侮辱? そっちが勝手に絡んで来たんだろう。グランフォード公爵は訝しげな顔で、視線を僕に向ける。
「僕には覚えがありませんが、レナード閣下が決闘したいなら受けて立ちますよ」
肩を竦める僕に、公爵は大よそのことを察したみたいだけど、止めようとはしなかった。
「貴方……」
ロザリア公爵夫人が心配そうな顔をするけど、グランフォード家では公爵の判断が絶対らしい。
決闘は城の中庭にある修練場で行うことになった。立会人はグランフォード家の人々と、公爵家に仕える騎士たちだ。
「アレックス、レナードお兄様が何かしたと思うけど……」
修練場に向かう途中、エレノアが小声で囁く。
「解っているよ。怪我をさせるつもりはないから」
修練場で対峙する僕とレナード。この場にいる人間で、僕の実力を知らないのはレナードだけだ。公爵は毅然とした顔でレナードを見据えて、公爵夫人とエレノアは心配そうだ。
三男のマクシミリアンは僕のことが気に入らないみたいだから、レナードが勝つことに期待している。次女のローラはまだ幼いから、決闘を見せないために、この場にはいない。
「お互い、魔法も武器も自由に使う。アレックス殿、それで構わぬか?」
「はい、僕は構いません」
「父上、私もその条件で結構です!」
レナードが剣を抜くと、僕も剣を抜く。
「それでは、始めよ!」
公爵の合図と同時に、レナードが魔法の詠唱を始める。魔法はイメージで発動するから、必ずしも詠唱は必要じゃない。呪文を詠唱するのはイメージを固めるためだ。
レナードの魔法が発動するのを、僕は剣を構えて待つ。
「貴様……私を舐めているのか! 『火炎嵐』!」
レナードが放ったのは火属性の上級魔法だ。直径五メートルの渦巻く灼熱の業火が、熱風を撒き散らす轟音と共に僕に迫る。
「アレックス!」
悲痛な叫び声を上げるエレノアの目の前で、『火炎嵐』が僕を飲み込む。レナードは勝利を確信してほくそ笑む。
そして炎が消えると――服すら無傷の僕が立っていた。
「ば、馬鹿な……」
「レナード閣下、これでも僕は赤竜を倒したんですよ。上級魔法に対抗できなければ、竜に勝てる筈がありません」
ネタを明かせば、家庭教師のイザベラから学んだ結界魔法の術式を、僕は身体強化に組み込んでいる。魔力を全身に纏うことで、レナードの魔法を完全に防いだ。
辺境の魔物との戦いで何度も実験したから、レナードの魔法を見た瞬間、どれくらいの魔力を使えば防げるかも解っていた。
同じ上級魔法でも、使い手によって威力に雲泥の差がある。相手がデュランやアイリスなら、わざと魔法を受けるなんて馬鹿な真似はしない。
だけど今回は防げることが解っていたし、実力の差を示すには最適解だろう。
「今度は僕の番ですね」
加速して一瞬で距離を詰めると、レナードが反応するよりも早く剣を弾き飛ばし、魔力を纏わせた僕の剣を喉元に突きつける。
「レナート閣下、まだ続けますか?」
「ア、アレックス殿……私の完敗だ……」
魔法も剣も僕の方が明らかに上。圧倒的な実力の差を見せつけて、精神をへし折る。
それでも権力をかさに掛けて、意趣返しをする奴もいる。一周目の僕は、そんな奴をたくさん見た。レナードは素直に負けを認めたからまだマシな方だ。
「レナード、おまえが決闘を挑んだ理由は想像がつくが、決着がついたのだから今さら理由は問わぬ。だが次はないと思え」
「父上……承知しました……」
親であるグランフォード公爵は、レナードの性格が解っているんだろう。もし公爵がレナードをもっと評価していたら、爵位など与えずに手元に置いていた筈だ。
「アレックス殿、下らぬことに巻き込んで済まなかった」
「別に構いません。これも必要なことですから」
公爵が僕を養子にしようとしたことが、レナードの耳に届いているか解らない。だけどエレノアと婚約したことは知っているだろう。
これまでグランフォード家の嫡男として、次の公爵は自分だと自負していたところに、いきなり僕が現れた。しかも公然の場で父親に叱責されて、晒しモノにされたのだから、逆恨みされても仕方ない。
そんなことをしたら、余計に自分の立場が危うくなると、僕なら思うけどね。
公爵は僕がしたことに文句はないようだし、これでレナードの件は一応解決しただろう。
「アレックス。約束通り、お兄様に怪我をさせなかったことにはお礼を言うわ。だけど……あんな無茶な真似はもう二度としないで!」
エレノアの目が赤い。僕のことを本気で心配してくれたんだろう。
「エレノア、心配させてごめん。ああするのが正解だと思ったけど、見ている方は気が気じゃないよね」
「そうよ! アレックスが死んじゃったら、どうしようと思っていたんだから……」
袖を掴むエレノアの手が震えている。僕はそっと手を重ねる。
「本当にごめん。もう二度としないよ」
これが実戦なら、油断して相手を舐めるような真似は絶対にしない。だけど油断しなくても、相手の実力が高ければ、攻撃を受けることはあるだろう。
少なくともエレノアが見ている前では、そんなヘマはしないように気をつけるよ。




