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マッチングアプリで出会った彼女、実は結婚相手を自由に選べない家の娘だった~自由恋愛の行き着く先で、僕たちは結婚できない~  作者: スアップ


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第1話 マッチング

スマホが震えたのは、深夜一時を少し回った頃だった。


仕事用のノートPCを閉じた瞬間、静まり返った部屋に通知音が響く。


優作はソファに身体を預けたまま、ぼんやりと画面を開いた。


百瀬桃華さんとマッチしました。


マッチングアプリの通知。


優作は数秒、その画面を見つめる。


三十九歳。バツイチ。子供はいない。


離婚して、一年が経過しようとしていた。


帰宅しても誰もいない部屋。


食事中に流れる動画の音。


会話のない夜。


最初の頃は、その静けさがやけに堪えた。


だが人間は慣れる。


最近では、一人でいることにも違和感がなくなっていた。


むしろ誰かに気を遣わない生活の方が楽だと思う日すらある。


だからこのマッチングアプリも、本気で恋人を探して始めたわけではなかった。


ただ少し、誰かと話したかっただけだ。


優作は通知をタップする。


プロフィールが開く。


百瀬桃華、二十四歳。


柔らかく笑う写真だった。


派手ではない。


でも不思議と目を引く。


加工が少ないからか、表情が自然だった。


自己紹介欄には、


はじめまして。

お互い無理せず、自然に話せる方と出会えたら嬉しいです


と書かれている。


丁寧な文章だった。


優作は少しだけ目を細める。


十五歳差か。


普通なら、自分みたいな男は相手にされない年齢だ。


少し迷って、画面を閉じかける。


だが結局、指はメッセージ画面を開いていた。


『マッチありがとうございます。佐久間です』


送信。


数秒後、既読が付く。


早いな、と思った次の瞬間。


『こちらこそありがとうございます』


返信もすぐに来た。


『まだ起きてたんですね』


『なんか眠れなくて笑』


『分かります。自分もそんな感じです』


『お仕事ですか?』


『一応そうです』


『一応ってなんですか』


優作は思わず笑った。


テンポが自然だった。


変に気を遣いすぎない。


それから気づけば、一時間近くやり取りしていた。


好きな食べ物。


最近観た映画。


休日の過ごし方。


本当に、どうでもいい会話。


なのに不思議と心地いい。


『優作さんって、もっと怖い人かと思ってました』


『39歳のおじさんなので怖いですよ』


『そんな感じしないです笑』


『若作り頑張ってるので』


『あと、なんか話しやすいです』


優作はスマホを見つめたまま少し黙る。


その言葉が、思ったより嬉しかった。


最後に誰かと、こんな風に自然に話したのはいつだっただろう。


それから毎日、連絡が続いた。


朝。


『おはようございます』


昼。


『今日暑すぎません?』


夜。


『まだ仕事ですか?』


通知が来るたび、優作は少しだけスマホを見る回数が増えていく。


いつの間にか、返信を待つようになっていた。


ある日の夜。


『そういえば、優作さんってお酒飲みます?』


『飲みますよ』


『よかった』


『なんでです?』


『飲めない人だと緊張しちゃうので笑』


優作は少し笑う。


そして少しだけ迷ったあと、


『じゃあ今度、軽く飲みに行きます?』


と送った。


送信した瞬間、少し後悔する。


十五歳差。


相手は二十四歳。


社交辞令の可能性だってある。


だが。


『行きたいです』


返信は驚くほど早かった。


そのあと少しやり取りが続き、


『でも初対面で夜だとちょっと緊張するので、最初カフェでもいいですか?』


と桃華からメッセージが届く。


優作は思わず少し笑った。


『もちろん』


そう返すと、


『よかったです』


と、すぐにスタンプが返ってきた。


待ち合わせは、駅近くのカフェになった。


休日の午後三時。


優作は店の前でスマホを確認しながら、小さく息を吐く。


三十九にもなって、こんなに緊張するのか。


自分でも少し笑えてくる。


その時。


「……優作さん?」


後ろから声がした。


振り返る。


白いブラウスに、淡いベージュのスカート。


肩まで伸びた黒髪。


アプリの写真より、ずっと綺麗だった。


でもそれ以上に。


「初めまして。百瀬桃華です」


丁寧に頭を下げる仕草に、優作は少しだけ目を奪われる。


言葉遣いも、立ち方も、どこか品がある。


「あ、初めまして」


少し遅れて返事をする。


すると桃華は、ふっと笑った。


「なんか、ちゃんと優作さんで安心しました笑」


「なんですかそれ」


「もっと怖い人来たらどうしようかと思ってました」


その言い方が妙に自然で、優作もつられて笑う。


思っていたより話しやすい。


変に気を遣わなくていい空気も、心地よかった。


少なくとも、“もう会いたくない”と思う相手ではない。


それだけで、今の優作には十分だった。

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