Act.81『妖精猫の王国Ⅳ』
聖王アテナ・ルナ・セレスティアルより依頼を受けた翌々日。
依頼されたケット・シーの王の捜索に向かうべく、特務執行科“管理者”ユウヒ・ウォーノルンによって選抜された二つのチームがその日、ターミナルの一画で顔を合わせていた。
初任務を終えてからおよそ二週間。舞い込んで来た新たな任務に気合いを入れ、チーム『白の光明』は約束の時間の前には集合を終えていた。
チームを率いるセン・アルトライト・ウォーノルンはチームメイトが全員揃ったことを確認すると、今回の任務において合同で行うもう一つのチーム──『雪花の冠』のリーダー、カイエン・ハセクラへと声を掛けた。
「カイエンさん、こちらは全員揃いました」
「分かった。……すまんがもう少し待ってくれるか、セン君。こちらがあと二人、まだ来てないんだ」
申し訳なさそうに頭を下げる壮年の男、カイエン。
そんな彼の傍らには同じく謝罪の意を込めて黙礼する、チームメイトの女性が二人。
彼ら三人はセレスティアル出身の魔術師であり、今回の任務では不在となる調査員に代わって案内人を兼ねて選出されたのだそうだ。
さらに選出理由はそれだけではないようで──
「遅れているのが、最近入って来たばかりの新人で。言い訳になってしまうけど、彼らにとって今回が初めての任務なので、少し大目に見てもらえると……」
アルトライトより少し年上と思しきサブリーダーの女性、ソニカ・ギュンターがそう言って再び頭を下げる。
そんな彼女にアルトライトは頭を横に振るいつつも、心配事を口にした。
「我々は気にしませんが……先方がどう思われるか不安ですね」
「よりによって聖王猊下が依頼者とあってはな」
溜め息交じりに答えるカイエンに同調して、もう一人のメシエと同年代の小柄な少女、シルビア・グレイが苛立ちを見せながら文句をこぼす。
「あの新参者達、執行者としての自覚が足りないんじゃないですかねリーダーっ! 初日から遅刻とかあり得ませんよ!?」
「まあそう言うな。お前だって初日は緊張して遅れて来ただろう」
「……む、昔の話ですっ」
「いやまだ半年しか経ってないが」
すげなく言うカイエンにシルビアが拗ねてしまい、そんな彼女をソニカが慰める。
今日初めて出会う他チームの執行者達の様子を興味深く眺めていたアリエルは、つい安堵の息をこぼしていた。
(よかった……今日は早めに着いて)
「自分は遅れなくてよかったとか思ってるでしょう、アリエル」
「そ、そんなことありませんけど!?」
隣のメシエから図星を突かれたアリエルは、彼女の気を逸らすついでに、任務の内容を聞かされた昨晩から気になっていた疑問を投げ掛けてみることにした。
「あの、ケット・シーのことについてなんですけど。メシエさん、見たことあります?」
「見たことないわねえ、いるってことは聞いたことあったんだけど。ところで、さん付けなんていらないって打ち上げの時に言わなかったっけ? 歳なんて一つしか違わないんだし、気を遣う必要なんてないわよ」
「ご、ごめんなさい。むこうにいた時の癖で、つい」
「ねえ、ツバサもそう思わない?」
「ん。ああ、そうだな」
「ああ、じゃないわよ。名前は、名前。減点するわよ?」
「今の流れのどこに名前を呼ぶ必要があったんだ……?」
「ほら、アリエルに名前を呼ぶお手本を見せてあげてよ。ちゃんと親しみを込めて」
「はぁ……メシエ、出発まで少し黙っていようか」
「全然親しみこもってないじゃないのー!」
翼の肩を掴んで遠慮なく彼の身体を揺さぶるメシエの様子を眺めて、アリエルは自分の肩に飛び移って来たハクへとつい問い掛ける。
「あの二人、いつの間に仲良くなったの?」
覚えていないのか、小首を傾げるハク。
そんなチームメイト達の様子を見守っていたアルトライトは、ふと人混みの中で自分達の方へ急速に近付いて来る気配を察知した。
カイエンも確認したようで、二人が同時にそちらへ視線を投げると──見覚えのある少年が集合場所に全速力で駆け寄って来る様子が見えた。
「あれは……」
思わず声を漏らしたアルトライトがその目に捉えたのは、前回の任務で一時的に敵対し、最終的には自らが総魔導連合へスカウトした少年、大空阿貴の姿だった。
真新しい制服に袖を通した彼は、自分達の元へ駆け付けるや否や、息を整えながら大声で告げた。
「よし、セーフ!!」
「アウトに決まってるでしょうがっ!」
遅刻して来た少年へ容赦なく平手打ちを放つものの、難なく彼に躱されたシルビアが悔しげに舌を打つ。
「あぶねえな!? なにすんだよ、お前!」
「初日から遅刻して来たバカに罰を執行しようとしたのよっ。なのに避けるんじゃないわよ、バカ!」
「うるせえ! バカって言った方がバカなんだよ、チビ!」
「なにをぉー!?」
「……おい、そこまでにしておけ。ふたりとも」
あわや取っ組み合いのケンカを始めそうな勢いの二人の間に冷静に割って入るカイエン。
阿貴とシルビアは彼の身体越しに睨み合いをしているが、傍から見れば犬とネコが縄張り争いでもしているかのようだ。
アリエル達は思わぬ人物の登場に驚いていたが、カイエンはもう一人の遅刻者……と言うより、寝坊した阿貴を呼びに行ってくれていた人物の所在を彼に訊ねる。
「涼はどうした?」
「ここにいます」
阿貴の足許にある影の中から現れ、一息こぼす少年。阿貴と同じくアルトライトにスカウトされて執行者になった、円山涼である。
彼も執行者の制服を着ているため以前とは雰囲気が違って見えたが、阿貴との関係は相変わらずのようだ。
二人が揃って同じチームに配属されることは分かっていたアルトライトだったが、まさか今回の任務で早速仕事を共にすることになるとは思わなかったのか、驚きで目を丸くしていた。
そんな彼に、カイエンが騒ぎ立ててしまったことを謝りつつも、自分だけが知る今回の経緯を話してくれる。
「彼らの初任務に関して、“管理者”が気を遣ってくれたようでな。どうせなら君達と一緒に任務をさせようと考えていたらしい。今回の任務はいろいろと好条件が重なり、都合が良かったようだ」
「……そうですか」
母親の口からはそんな事情を聞かされていなかっただけに、息子としては面白くない気分だったが、ともあれ協力する他のチームに見知った者がいるというのはこちらや彼らにとってもプラスに働くことだろう。
すると早速、阿貴と涼がアリエル達の元へやって来て軽く挨拶をしていく。
「よう、お前ら。久しぶりだな!」
「今回は世話になる。よろしく頼む」
「びっくりしました。まさかあなた達と一緒に任務に就くことになるなんて……こちらこそよろしくお願いします」
「頼りにしてるわよ?」
「……よろしく」
それぞれ挨拶を交わしたところで、腕時計で時刻を確認したアルトライトはカイエンに視線を送った。
受けたカイエンは頷き、メンバーへと指示を出す。
「全員ようやく揃ったところで、これからセレスティアルへ出発する。今回は特別に王家の転移門を使わせていただけるそうだ。着いた先は王城の中だからな、くれぐれも失礼のないように」
先頭を行くのはカイエン達『雪花の冠』だ。続いて『白の光明』も転移門に向かい、彼らは聖王が待つ王城セレーネを目指す。
魔界で最も長い歴史を持つ王家の居城。その聖域に足を踏み入れることに緊張を感じながら、二つのチームは転移の光に包まれていった。




