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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.44『生意気な爆弾魔Ⅲ』

 任務の依頼主が待っているという広場は、市場のあったメインストリートの最奥に位置していた。

 街の中心部にぽっかりと開けた広場には、町のシンボルとして巨大なモニュメントがそびえ立っており、アルトライトの探す依頼主はその下で彼らを待っていた。

 護衛と思しき屈強な肉体の男達を数人侍らせた初老の男性。約束の時間が近いこともあり、辺りを頻りに見回している様子から、アルトライトは彼が依頼主の町長だろうと判断した。

 そんな男性の元へ近付いていくと、四人の制服姿から総魔導連合(イデイン)の者だと気付いた町長は、笑みを浮かべて四人へと歩み寄ってきた。

「いやはや連合の皆さん、遠路はるばるようこそお越しくださいました。私がこの町の町長を務めております、ラチェットと申します」

 手を揉みながら恭しい態度で四人を歓迎する町長へ、アルトライトは事務的な口調で言葉を返す。

総魔導連合(イデイン)より派遣されて来ました、特務執行科のチーム『白の光明(オウル)』のリーダーを務めるセン・アルトライト・ウォーノルンです。お待たせして申し訳ありません」

「いえいえ、とんでもない。首都から遠く離れたこんな町にまでご足労いただいたのですから、謝られることなどありませんよ。いや、しかし……驚きましたな。皆さん、ずいぶんとお若いようで……」

 そう言って疑いの眼差しを向けてくる町長に、アルトライトはさも予想していたとばかりに泰然とした態度で答えた。

「我々の組織は実力主義なので、職員の年齢は問わないのです。特に我々の所属する特務執行科は、戦闘行為を職務に含んでいることからとりわけその傾向が強い。あまり見掛けでは判断されないようお願いします。──その点に関しては、そちらはよくご存知だと伺っておりますが?」

「ぐ、ぬ……」

 少年一人に手を焼いている町長に対し、痛烈な皮肉を返すアルトライト。

 そんな彼に何も言い返せない町長は、湧き上がってくる忸怩たる思いを必死に呑み込んだ。

「……な、なるほど。ではあなたがたの実力、ぜひとも拝見してみたいものですな」

「ええ、それでは早速──」

 アルトライトがおもむろに頭上へ視線を転じると、およそ地上五メートル程度の高さに、どこかからゴム製のボールが飛来していた。

 それに向けて右手を振るったアルトライトは突風を起こし、ボールを空高くへと吹き飛ばす。

 刹那、ボールは瞬時に閃光を放ち、内側から爆発するように破裂した──いや、違う。それは破裂したのではなく、実際に爆発したのだ。

 火薬が爆発したように、強烈な音が周囲へ鳴り渡り、高熱を伴った烈風が飛散していく。小さな爆弾に匹敵するその威力は、アルトライトがボールを吹き飛ばしていなければ町長達を負傷させていたことだろう。

 突然広場で起こった爆発によって周囲の人々は騒然となり、悲鳴を上げて一斉に大通りへと逃げていく。その様子を未だ状況が呑み込めていないアリエル達は唖然と眺めていたが、アルトライトは冷静に周囲を観察していた。

「で、出たな、あの小僧めッ……!」

 不意の爆発で腰を抜かしながらも、町長は襲撃犯を見知っているような口振りで叫ぶ。

 アルトライトは既に見当がついていたのだろう。彼は依然として落ち着き払ったまま、犯人の位置をすぐに発見した。

「あれが今回のターゲットですか」

 そう告げるアルトライトが見つめる先、広場の中心から少しばかり離れた建物の屋上に人影があった。遅れて犯人の姿を見つけたアリエル達も、その人影の正体が写真で目にした少年であることを確認する。

 屋上の縁に片足を乗せ、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべるその少年は、町長と対峙する『白の光明(オウル)』を見据えながら大声を張り上げる。

「おうおう、町長のオッサンよォ? 自分達じゃ相手にならねえからって、とうとうよそ者なんか連れてきたのかよー? だっせぇな、ああだっせぇ! まあ、見たところそいつらも俺の相手になりそうにもねえけどなぁ!」

 嬉々と挑発的な言葉を放つ少年に、耐えかねた町長もすぐに感情を爆発させた。

「だ、黙れ黙れ黙れッ! この方達は総魔導連合(イデイン)の執行者だぞ! 世界中の悪人を相手にしている戦闘のプロフェッショナルだ! お前のような悪ガキなんぞ、ひと捻りにしてしまうわ!」

「ほーん? でもそいつら、ぜんぜん動く気なさそうなんですけどー? さっきの爆発に驚いて、足が動かないんじゃねえのー?」

「ええい、舐めおって……! さあ執行者の皆さん、どうかお願いします! あの小僧を捕まえてください!」

 自分に縋り付いてくる町長には一瞥もくれず、アルトライトは少年をじっと見つめ続けていた。

 そんな彼の様子にアリエル達も困惑し、指示もないため迂闊には動けない。

「ハ。なんだよなんだよ、そいつらまったくやる気なさそうじゃんか。オッサンがよそ者を呼んだって聞いたから、こっちからアイサツに来てやったってのに。あーつまんねえなぁ、つまんねえ!」

 少年はそう言って踵を返すと、アルトライト達の視界から颯爽と消え去ってしまう。

 アルトライトは相変わらずそれを追おうともせず、そのままターゲットの少年を見逃すのだった。

 当然そんな彼の態度に不満を抱いたのは、依頼主である町長だ。

「ちょっと君達、どうしてあの小僧を追わないんだね!? こっちは高い金を先に支払っているんだ、ちゃんと仕事をしてもらわないと困るぞッ!」

「町長、誤解をしないでいただきたい。我々執行者は、請け負った任務は必ず遂行します。ですがああやって白昼堂々出てくるくらいだ、逃走の準備は事前にしてあるものと考えます。あなたがたから数ヶ月も逃げ延びている手練れのようですし、いま追っても捕らえられるとは思えない。

 それでもすぐに彼を追って捕まえろと言うのなら、街に多少被害を生んでしまうような強硬手段を使わざるを得ませんが。それにはどうか目をつむっていただきたい」

「ぅ、ぐ……」

 決して冗談とは思えないほど冷淡な声色で告げるアルトライト。

 町長もそう言われてしまっては彼の言い分を聞き入れざるを得ず、二の句を継げなかった。

「我々としても街に余計な被害は出したくない。安全に、そして確実に任務を遂行することが理想です。ですから先ずは、我々に情報提供をお願いしたい。ターゲットについて知っていることを、すべて我々に話してください。その後、作戦を立てて速やかに彼を捕らえさせていただきます」

「む、むむ……わ、分かりました、そう仰るのであれば。では皆さんには、私の執務室にまでご同行を願えますかな? それと君達、今の爆発で広場になにか被害が出ていないか確認しておきなさい!」

 護衛役の付き人達にそう指示を出して、町長は先に歩き始めた。そんな彼にアルトライトは静かに従い、アリエル達も互いに視線を交わしてからリーダーの後に続く。

 ──彼は一体どうしたのだろうか?

 アルトライトの真意が分からない三人の頭には、しばらくそんな疑問符が浮かび続けるのだった。

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