回鍋肉と大吉村の穂高とエタールの共同経営
その日 万次郎茶屋には、大吉村の克海の紹介状を持った。筋肉質の大柄な体格で褐色の肌に垂れた真っ黒なウサ耳が生えた。黒エルフ族とウサギ族を両親にもつ、穂高という人物が愛満を訪ねてやって来ていた。
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「今日は忙しい所、わざわざ自分のために時間さいてもらって、本当にすまんかったね、ごめんばい。」
「いえいえ、気にしなくて大丈夫ですよ。あっ、それよりお茶やお茶菓子どうぞ、遠慮せずに食べて下さいね。」
突然の訪問に少し驚いた愛満であったが、お茶やお茶菓子でおもてなししながら克海の招待状に目をとおし、穂高から詳しい話を聞く。
すると穂高は、大吉村で家族や穂高の兄弟にあたる兄弟家族達と一緒に豚肉に良く似た肉質で、ジューシーで美味しいベイ肉が採れる。『ベイ』という生き物を養ベイ場で沢山飼育しており。
大吉村ではポピュラーに食べられている美味しいベイ肉になるのだが、あまりこの辺りの地域では、ベイ肉の調理方や食べ方等が大きく知られておらず。
なかなかその美味しさや調理法が広まらず。勿体無い事にベーコンやウィンナーしか上手く取引が出来ていないらしい。
そこで家族で話し合い、克海に相談した結果。
最近栄えてきた朝倉村で、自分達が端正込めて育てた美味しいベイ肉を使用したお店か何か営業させてもらえないかとの事だった。
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「…………と、ベイ肉の事あんま知られとらんけん、今まで朝倉村とも取引できんかったとよ。
だけん、家族を代表して自分が朝倉村へとやって来てばい。自分達家族が端正込めて育てたベイ肉の美味しさを知ってもらいたかけん。このとおり、愛満さん、頼むばい。」
大吉村独特の方言バリバリで穂高が愛満に頭を下げ、重ねて愛満にお願いする。
「そうだったんですか、それは大変でしたね。
先程、ベイ肉の味見もさせてもらいましたが臭みもなく、僕の故郷で言うところの豚肉に似ていて、スゴく美味しかったんで、こちらこそ喜んで穂高さんやベイ肉の事、村へ歓迎しますよ。
それに大切な友達の克海さんの紹介ですからね!僕の出来る範囲で、精一杯力の限り頑張らせていただきます!」
穂高の話を聞き終えた愛満は、穂高達の提案に賛成し、力を貸す事を約束する。
そして、何やら考え込んだ様子で大きく頷き。最近同じような事を相談しに来ていた、ウサギ族の七男エタールの事を思い出し。
愛之助達にエタールを万次郎茶屋へと呼んで来てもらう事をお願いすると。
何やら前々から愛満が1人考えていた。とあるお店を2人に営んでもらう事をエタールが来る間に穂高へと説明しだすのであった。
◇◇◇◇◇
「愛満~♪ただいまでござるよ!
エタールさん、呼んできたでござるよ。あぁ~~外は寒かったでござる。早く炬燵で温もりたいでこざるね。」
「タリサも帰ってきたよ。ただいま~♪
あ!そうだ。エタール兄ちゃん呼んで来たよ。けど本当に外は寒かった。こんな日は炬燵でぬくぬくに限るね!」
「マヤラもたらいま!にいたんちゅれてきちゃ~♪うぅ~ちゃむかった、ちゃむかった。こたちゅ、こたちゅ。」
畑仕事をしていたウサギ族のエタールを連れて来てくれた愛之助達3人は、あまりの寒さで呼んで来たはずのエタールをその場に放置し。
風が冷たい外を往復して来て冷えきった体を温めるため、茶屋店内にあるお気に入りの炬燵へと早々と潜り込むのであった。
そして、畑仕事の休憩中に愛之助達から訳が解らずままに茶屋へと連れてこられ。無惨にも愛之助達からほったらかしにされたエタールは、訳が解らないなか、困惑しながらも愛満に声をかけ。
「あの、こんにちわ。愛之助君達から愛満君から話があると言われてお店に来たのですが……何でしょうか?」
「エタールさん、お忙しい所すいませんでした。そして急な呼び出し本当に申し訳ないです。
あっ、どうぞどうぞ。そんな扉近くでは寒いでしょう。こっちのテーブル席に座って下さい。」
穂高と愛満が座っているテーブル席へと、畑仕事で汚れてるからと遠慮するエタールにクリーン魔法をかけ。お茶やお茶菓子で精一杯おもてなしをしながら、テーブル席へと腰を下ろしてもらう。
「それで実は話しと言うのは、この前エタールさんから相談を受けていた件なのですが………こちらの大吉村の穂高さんとの共同経営であれば、エタールさんが気にしていた。他の村の方とのかぶらない新しい料理を提供するお店が出来ると考えた訳なんです。
…………エタールさんにとってみれば、急な話で本当に申し訳ないですが、穂高さんからは承諾をもらえたので、エタールさんはどうかなと思いまして………話を持ちかけたしだいなんですが…………どうでしょう。
あっ!もちろん無理強いするつもりもありませんし。断ったからと言って、変な事するつもりもありませんから安心して下さい。
それからお店の資金や開店準備なんかは、僕の方で全面的にバックアップしますので、安心してもらって大丈夫!」
急な話に驚いているエタールに、愛満はしきりに頭を下げながら穂高にもしたお店の説明など改めて細かくし始める。
すると突然の話でビックリして驚いた様子のエタールであったが、しばらくの間考え込み。
いろいろ愛満や穂高に質問すると、何やら覚悟を決めたような顔で、愛満に穂高と一緒に共同経営をする事を承諾し。隣に座る穂高に挨拶をする。
「エタールさん、穂高さん、本当に急な話なのに承諾して下さり。ありがとございます。
そして2人とも僕の我儘に付き合わせてしまって本当に申し訳ないです。」
穂高とエタールの決断に愛満が何度目かになるお礼と謝罪の言葉をのべるなか、克海と同じ大吉村独特の方言でしゃべる穂高が
「そげなこと気にせんでよかばい。
むしろ愛満さんの話を聞いとったら、店も住居も商売道具も店で出す料理の作り方、全て愛満さんがタダで用意してくれて教えてくれるちゃろう。
なら逆に俺の方が頭を下げないかんくらいばい。やけん、そげん何回も頭を下げるのも、お礼を言うのも、もうよかばい。気にせんどきない。」
話し、穂高は真っ白な歯を見せながら豪快に口を開け、裏表のない笑顔で笑いだす。
そして穂高の隣で話を聞いているエタールも、穏やかな笑みを浮かべたまま優しい声で愛満へと
「そうですよ、愛満君。頭を上げて下さい。
そもそも僕が村の人達と争いたくないから、他の方のライバル店にならない新しい料理店を開きたいと相談したのが始まりですし。
穂高さんの言う通り、逆に僕達の方がお礼を言わなくちゃいけないくらいなんですから」
「………穂高さんもエタールさんも、ありがとうございます~~!!僕、二人のあまりの優しさに涙が出ちゃいそうです。」
2人の優しい言葉や対応に愛満は目頭を熱くし。目を潤ませながら心の底から2人に感謝し。改めて感謝の言葉を伝える愛満なのであった。
そうして、穂高が魔法の箱に入れて持って来た大量のベイ肉や朝倉村で収穫した新鮮野菜を使い。
2人のお店で売り出す事になる、新商品のレシピを伝授するため愛満達3人は茶屋奥の台所場へと移動する。
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「では、最初に回鍋肉の合わせ調味料を作りますね。
器に味噌と砂糖、醤油、酒、豆板醤、片栗粉を混ぜ合わせておきます。次に穂高さんが持ってきてくれたベイ肉のバラ肉を気持ち厚めに切って使いますね。」
いくらクリーン魔法をかけたとはいえ、日本生まれで温泉大好きな愛満の強い希望により。
畑仕事の途中だったエタールや長旅で汚れた穂高の2人に愛満家の自慢の露天風呂や桧風呂を堪能してもらい。
疲れや汚れを洗い流しサッパリしてから、愛満の力を使って用意した。
真新しくカッコいい、黒地に黄金の刺繍がされたコック服を着た穂高とエタールの2人に、自身のお店で提供する事になる料理の数々を伝授しいく。
「で、村で収穫した新鮮な野菜の春キャベツを四方にざく切り、彩りの人参は細目の千切り、にんにくは1かけを4等分に切り分けます。
どうですか?ここまでで解らない所ありますか?……て、あれ?穂高さんもエタールさんも、もう出来たんですか?
うわ!ベイ肉も野菜の下準備もバッチリですよ!しかも包丁さばきが上手い!」
テキパキとベイ肉や野菜の下準備を分担して終らせる穂高とエタールの2人の包丁さばきの上手さに愛満が驚く。
「そうね?ベイ肉の扱い方なら俺とってはこんくらい日常茶飯事ばい!
逆に俺は野菜が上手く切れんかったけん、エタールが上手に俺の分まで切ってくれ本当に助かったばい。ありがとうな、エタール!」
「いえいえ、僕の方こそベイ肉を上手く切れなかったんですが、穂高が上手に切り分け、下ごしらえをしてくれたので、危うく大切なベイ肉を無駄にせずに助かりました。穂高、ありがとうございます。」
いつの間にか名前を呼ぶすてで呼ぶ合うまでに打ち解けた様子の穂高とエタールの2人は、お互いに感謝の言葉を言い合い。着々と回鍋肉作りが進んでいく。
「では次に、業務用ガス台に中華鍋をおき。サラダ油を入れ、熱したら、にんにくを香りたつまで炒めます。
そこに豚肉を加え、色が変わるくらいまで炒めたら人参と春キャベツの芯に近い部分から順に加え、炒め合わせて下さい。
春キャベツが少ししんなりとしたら、合わせ調味料を加え、手早く全体に絡めたら完成です。
どうですか?解りましたか?
中華は手早くチャッチャッとテンポ良く作っていくのが上手に作るコツですから、慌ただしい教え方ですいません。
あっ!あと、今日はベイ肉のバラ肉と春キャベツを使って作りましたが、コレを生鮭の切り身と白ネギに変えても美味しいですよ。それじゃあ、次はエビチリの作り方に移りますね。」
元から料理好きな穂高とエタールの2人は、たいした失敗やアクシデントも無く。愛満が教えるポピュラーな中華料理をどんどんマスターしていき。
その後、テーブルいっぱいに並んだ中華料理の数々のおこぼれを狙っていた腹ペコ愛之助達も交え。お楽しみの試食会が始まった。
◇◇◇◇◇
「なにこれ美味しい!!『回鍋肉』の春キャベツが柔らかくてね!ベイ肉も食べこたえあるジューシーさで美味しいね!
それにこっちの『エビチリ』も海老がプリプリしてて、大きくて甘辛いソースがとっても合ってて僕大好き♪
う~ん♪このエビチリのソースだけでも白ご飯が進むよ!」
「本当に美味しいでござるね!
『回鍋肉』はベイバラ肉から出た脂が味噌味のタレにからんでおって、香ばしさと甘味が良い味出しているでござるよ!
それにこっちの『麻婆豆腐』も辛味の中に旨味があり、実に良いでござる!」
タリサや愛之助が『美味しい、美味しい』と感動した様子で回鍋肉やエビチリ、麻婆豆腐を食べ進めていき。
そんなタリサ達と同じように出来立ての熱々の中華料理の数々を試食しているエタールも
「この『回鍋肉』と言う料理、初めて食べましたけど、大きく切ったにんにくがほっくりとして、ベイバラ肉や春キャベツと良く合って良いですねぇ。
それにこちらの『八宝菜』も海老やイカなどの魚介類の旨味や白菜の優しい甘味が合わさって美味しいです。
後、なにげに入っている、このうずらの卵と言う小さな卵も八宝菜の中から見つけると何やら心がワクワクして、何故か嬉しくなりますね。」
初めて食べた中華料理の感想をのべていたエタールであっだが、突然何やら考え込みだし。
「……………う~ん、しかしこの料理ならば兄さんが作っているお米を使った日本人より、妹のハニーナが趣味で漬けてる果実酒が合うかもしれませんね。
…………そうです!やっぱりここはハニーナから果実酒を仕入れてきて、私達の店で提供した方が料理とも合い良いでしょう。
それにどちらかと言うと濃い味付けの料理が多いみたいですから、料理に合うお酒が無いと文句を言ってこられるお客さんが出ないとも限りませんし。
………うんうん。そうしたら料理だけでは無く、お酒の方でも他の店と差別化がはかれますもんね。私にしては良いアイデアです!」
考えがまとまった様子のエタールは、隣の席で一心不乱に自身が育てたベイ肉を使った美味しい中華料理の数々を食べている穂高へと果実酒を含めた、これからのお店の事などを相談し始めた。
ちなみにエタールがお店の事を考えている間、穂高はマヤラと2人でベイ肉を使った『回鍋肉』や『酢豚』等を夢中で食べ。
「ほちゃかにいたん、ベイにくおちくて、くちゃみもにゃくておいちいねぇ♪」
「おっ、良く解とうたいね、マヤラ!
俺ん家のベイ肉はたい、下処理からキッチリ手抜きをせんけん。ベイ独特の臭みも無く、旨味が凝縮されてジューシーで旨かったい!
それにしてもベイ肉も旨かばってんが、エタールん所の春キャベツや野菜達も全部旨かねぇ~!
うちんとこん村の野菜も旨かばってんが、海から吹く潮風がどうしてもあたるけん、やっぱ味がちょっと違うとよ。」
「しょうにゃの?」
「そうたい、タリサ。
あっ!けど一番バリ驚いたんは、俺達が飼育してるベイ肉がこげん旨なって、調理法の種類の多さこったい!
こげん調理法もあって旨かなら、きっと人気が出るばいね!あーぁ!今から店出すんがバリ楽しみばい!」
「マヤラも、バリたのちみばい!」
穂高達は熱く吠えていたのであった。
そして、皆が初めて食べたこってりした味付けになる中華料理を美味しく食べ進めながら、穂高とエタールの共同経営になる中華料理店の場所やお店の事などを話し合い。試食会は愛之助達がお腹一杯になるなか無事終わった。
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こうして、朝倉村に愛満のちょっとしたワガママで開店する事になった。
大吉村のベイ肉を使った。愛満指導の辛さ抑えめの日本風の味付けになった中華料理店は、新たな村人になった穂高を迎え。朝倉村へと仲間入りし、歓迎されるのであった。




