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「雷こんにゃく」と雷様と大雨



その日朝倉村では、梅雨のせいもあるのだが、今日の夜から大粒の雨が降り注ぎ。空はどんよりした雲に覆われ。

いっこうに止む気配のない大雨と共に稲光する雷が我が物顔で鳴り響き、朝倉村の空を占領していた。



◇◇◇◇◇



ピカッ!!ゴロゴロ~~~~


「キャー!光貴、見たござるか?ピカッと光ったでござるよ!」


「本当へけっ!ピカッと光ってゴロゴロいってるへけっよ!怖いへけっ!」


窓がキッチリ閉められた家の中に居ても聞こえる。

打ち付けるような強い雨音や稲光する雷に怖い怖いと思いながらも、何故かついつい好奇心にかられ。

恐る恐るではあるのだが愛之助と光貴の2人は、愛満宅1階廊下窓から外の様子を見つめていた。


「ハァ~~~!今日の雨音や雷の音は、また一段と大きく、恐ろしいでござるね!」


「へけっ~!本当に恐ろしいへけっね、愛之助。

それにこんなに恐ろしい雨音や雷の音を聞いてるだけで、体がブルブルしてくるへけっよ!

だから外を見ないようにとも思うへけっが、何故か雷の稲光が光ると、ついつい空を見ちゃうへけっ!」


「あっ!解るでござる。拙者も光貴と一緒で、ついつい稲光が光ると外を見てしまうでござるよ!」


「愛之助もへけっ?何故へけっかね?不思議へけっねぇ~~~!」


「本当に不思議でござるねぇ~~~!」


目だけはしっかり外の様子を捕らえたままの愛之助と光貴の2人が、何やらのんきに雷や雨音を気になってしまう訳を『何故へけっだろう、何故でござるか』と話していると

次の瞬間、朝倉村内ではないのだが。かなり近い場所で、重く、体にズシンとくるような低音の雷が地面に落ちる音が村全体に鳴り響き。


ゴロゴロ~~~~~~、ドーーーーーーーン!!!!!


「「キャ~~~~~~~!!!!!」」


「ド、ドーーーーーンって言ったでござるよ!光貴、聞いたでござるか!?ドーーーーーンでござる!あ~~~ぁ、恐ろしいでござるよ!

光貴、愛満の所に行こうでござる、ココは危険でござるよ!拙者の兄者、愛満の近くなら安心安全でござるよ!」


「ほ、本当へけっね、愛満の近くなら安心するへけっ!

しかし愛之助、さっきのドーーーンは、本当に怖かったへけっね!あ~~~~ぁ、思い出しただけで怖いへけっ!愛之助、早く愛満の所へ行こうへけっ!」


今までの雷と違う。体を持ち上げられるな、突き抜けるような雷の恐ろしさに愛之助と光貴の2人が縮み上がり。

お互いにギュッと抱き締め合いながら2人が一番安心できる。台所で作業している愛満の所に移動しょうとしていると

また、どんよりとした曇り空に稲光が走り。


ピカッ!!ゴロゴロ~~~


「「キャーーー!!」」


「またピカッと光ったでござるよ。光貴、次はまた、あのドーーンがくるでござるよ!早く早く!愛満の所に逃げるでござるよ!」


「早く逃げなきゃへけっ!」


酷く慌てた様子の愛之助と光貴の2人がワーキャーと悲鳴を上げ。愛満が居る台所へと大騒ぎして逃げ出すなか。


その近くでは美樹と黛藍の2人も外の様子を眺めていて


「ウヮ~~!この大雨と雷じゃ、今日はお客さん来ないかもなぁ………………ハァ~~、どうすっかなぁ。そもそも、この天気じゃ店開けられそうにないしな………」


「本当アルね。雨もスゴいアルが雷も頻繁に鳴っていて酷い空模様アルよ!う~~ん…………美樹、どうするアルか?

美樹がお店を休むなら黛藍も今日はお店をお休みにするアルよ。」


「そうだなぁー……………しゃない、こんな天気だ。今日は臨時休業にするしかないな。」


「そうアルね。こんな天気じゃ、お客さんも安心して買い物出来ないアルしね。………うんうん、本当にしょうがないアルよ」


残念そうに自身が営むお店を臨時休業する事を話し合い決めていると、山背が朝ご飯が出来たと呼びに来てくれる。



◇◇◇◇◇



一方、愛之助達が逃げ込んだ台所では、愛之助と光貴の2人が朝ご飯を作っている愛満の回りをウロチョロし。

何やら身ぶり手振り付きで、先程自分達が見た雷の事を興奮した様子で一生懸命説明していた。


「と、ビカビカっと光ってスゴかったでござるよ!ね、光貴。」


「そうへけっそうへけっ!ビカビカと光った後は、ゴロゴロ~~って鳴って、ドーーーーーン!!て大きな音で鳴ったへけっ!

スゴかったへけっよ。今思い出しても本当に怖かったへけっ。」


「拙者も驚きと共に恐ろしかったでござるよ。

ビカビカと稲光が走り。ゴロゴロ~と鳴ったかと思うと、少し遅れてドーーーーーン!!と凄まじい音が轟いたでござるから!」


「へぇ~、そんなにスゴかったんだ。

僕も台所の窓から外が光ったのは解ったけど、朝ご飯作りに気をとられてて、雷の音までは気付かなかったなぁ。」


少々天然が混じる愛満が、呑気にワカメ、豆腐、白ネギが具材の味噌汁をかき混ぜながら愛之助達の話に相づちをうつ。


「そうでござったか、それは逆に良かったでござるよ。

愛満もあんな恐ろしい雷の音を聞いたら、腰を抜かさんばかりに驚いていたでござるから

それに料理中なら尚更、雷の音に驚いたりして怪我や火傷でもしていたら危なかったでござるよ。」


「そうへけっ。逆に愛満が怪我とかしなくて良かったへけっ!

けど、……………………悔しいへけっが僕、今でもあの雷の音が耳に残って恐ろしいへけっ…………」


「落ち込まなくていいでござるよ、光貴。

実は拙者もでござる。隣で見ていた美樹と黛藍は平気そうであったでござるのに、………本当に情けないでござるよ。………………拙者、雷に負けてしまったでござる。」


雷のせいで愛満に怪我が無くて良かったと安心していたはずが、いつしか雷に負けてしまったと光貴と愛之助の2人が元気をなくし。

愛満から少し離れ、台所の床にチョコンと座り込み。ションボリと落ち込み始めてしまう。


するとそんな愛之助と光貴の様子に気づいた愛満が


「愛之助も光貴も落ち込まない。大人の僕でもたまに雷の稲光や音にはビックリしちゃうんだから、ね。」


落ち込んだ2人を慰めるのだが、愛之助も光貴も


「僕、男なのに情けないへけっ。美樹のようにカッコいい男になれないへけっ。」


「拙者も雷一つで悲鳴をあげるとは………武士の端くれながら、誠に情けないでござる。」


『情けないへけっ、情けないでござる』と口々に話。

愛之助がいつの間に武士になったのかと聞きたくもあるが、2人はますます落ち込みだした。


そうして、しばらくの間。愛満は朝ご飯作りで自身も忙しいながらも

朝ご飯を作る合間、合間に愛之助達を誉めたり、励ましたり、慰めたりと様々な言葉を2人にかけ。

出来る限りの事をして慰めていたのであったが、いっこうに立ち直る様子をみせない愛之助達の様子に、少々頭を悩ませていた所。

何やら閃いた様子で愛之助と光貴の2人に声をかけ。


「そうだ!ねぇ、愛之助も光貴も雷に負けたようで悔しいんでしょう?」


「そうへけっ。美樹も黛藍も悲鳴一つあげてなかったへけっ。

なのに僕達はキャーキャー叫んでしまったへけっ。…………ねぇ、愛之助。」


「そうでござる。拙者と光貴はあまりの雷の恐ろしさに悲鳴をキャーキャー上げてしまったでござるよ。

が!美樹達は悲鳴一つ上げず、平気な顔をして外の様子を見ていたでござるよ。

だから、……何やらそう考えてみると、……拙者達は雷にも美樹達にも負けたような気がして悔しいのでござるよ…………。」


「そうへけっ……………そう考えたら同じ男として何か悔しいへけっ」


2人は頬をふくらませ。何やらいろいろ混ざったらしい悔しい感情を教えてくれる。


「そっか。美樹達の件は僕は何とも言えないけど、そんなに悔しいなら雷を食べて、愛之助と光貴をビックリさせた雷を成敗しちゃわない?」


「えっ?雷を成敗へけっか?」


「あの雷を成敗出来るでござるか?」


「そう。食べて成敗しちゃうの!」


「でも雷は食べれないでござるよ。それに雷の見た目は、食べたらビリビリしそうで美味しそうに見えないでござるよ。

ビリビリ食べたら何やら身体中がビリビリして、せっかくお手入れした髪が爆発しそうで嫌でござる。」


「そうへけっ!愛満、雷は食べれないへけっよ。

まぁ、少しべっこう飴に見えない事はないへけっが

それに食べるならどうやって食べるへけっか?あっ!それとも愛満は雷を捕まえられるへけっか?」


愛満の話を聞き。半信半疑の愛之助達2人は自分の考え事を思い思いに話す。

すると愛之助と光貴の少々珍回答を聞いた愛満は、ついつい笑いそうになるのを堪えながら


「ううん。いくら僕でも雷は捕まえられそうもないし。

愛之助の言う通り雷を食べたら体中がビリビリして大変そうだから、今日はこの『板蒟蒻』を使って『雷こんにゃく』を作り。

2人のライバル雷を成敗(食べて)する事にするんだよ。」


取り出した板蒟蒻を2人に見せながら愛之助達に説明すると、愛之助が愛満が持つ見慣れた普通の板蒟蒻を不思議そうに見詰め。


「板蒟蒻が雷に変身するでござるか?」


「うん。まぁ、正確に言うと『雷》と『雷こんにゃく』の雷をかけてるだけのこじつけなんだけどね。………まぁそれはおいといて

この『雷こんにゃく』と言う料理名はね。

蒟蒻を調理する際に、熱したフライパンで蒟蒻を炒めると雷と似たような音が出るから『雷こんにゃく』と言われているんだよ。

だから、この『雷こんにゃく』を食べたら愛之助も光貴も雷に勝った事にならないかなと思ったんだけど…………………。

えっと……どう?2人とも『雷こんにゃく』を食べて雷に勝ってみる?」


素晴らしいアイデアだとばかりに話していた愛満であったが、最後の方はだんだん自信を無し。尻窄み(しりつぼみ)になっていき。

少々子供ぽい発想だったかと、少し恥ずかしくなりながらも愛之助達に問いかける。


「良いでござるね!本物の雷は、まだ少し怖いでござるが蒟蒻を使用した『雷こんにゃく』になら拙者でも勝てそうでござるよ!」


「本当へけっ!僕も蒟蒻好きだから『雷こんにゃく』食べて雷に打ち勝つへけっよ!愛満、ナイスアイデアへけっ!」


愛満の心配をよそに愛之助も光貴も大賛成してくれ。『雷』ならぬ『雷こんにゃく』の成敗が決まる。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、大雨のなかズブ濡れ&飛ばされそうになりながら、愛満宅に何とか……………必死に訪れ(やって来て)

そのままでいると風邪を引いてはいけないと、心優しき愛満に心配され。

優雅に朝風呂に入浴していた。朝風呂上がりのガウン姿の山背が呼んできてくれた美樹と黛藍も加わり。

いつものように6人での朝ごはんが始まるのであった。



「みなさん、手を合わせて下さいへけっ。それでは、」


「いただきますへけっ♪」


「いただきますでござるよ!」


「いただきますなのじゃ~。」


「いただきます。」


「いただきますアルよ。」


「いただきます。」




◇◇おまけ◇◇




「うんうん。『雷こんにゃく』とは、初めて食べる料理じゃが

蒟蒻にしてある切り込みのおかげで、蒟蒻の中まで甘辛い味が染み込んでおって、コレはご飯がすすむのじゃ。

それにほのかに香る胡麻油の風味や、蒟蒻の上にかかっておる鰹節が食欲をそそり。実に旨いのう~♪

あっ、愛満 すまん!またご飯のお代わりを頼むのじゃ!」


朝早くから滝修行のような大雨に打たれ、朝風呂に入り。

普段よりも何やら元気良い様子のガウン姿の山背が、この日も大盛り3杯目のご飯を愛満に頼み。

モリモリと朝ご飯を食べ進めながら、実に幸せそうな様子で初めて食べた『雷こんにゃく』の感想を愛満に教えてくれる。






《「雷こんにゃく」と雷様と大雨、の登場人物》


・愛之助、光貴=今回、何やら雷様などと一悶着あった様子


・美樹、黛藍=今回、梅雨ながら突然の雷雨(大雨)に困惑の様子


・山背=今回、何やら滝行にあった様子


・愛満=今回、ただでさえ忙しい朝の時間に一苦労した様子





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