冷たい冷やし『桃の汁粉』と、ワーウルフ族のお巡りさん
「キャー。」
「熱いよ~!お母さん 助けて~!」
「逃げろー!こっちにも火の手が迫ってるぞー!」
その日も普段のように仲間と狩りを終え。いつもより多く狩れた獲物に喜びながら村に帰ると、慣れ親しんだ村が真っ赤な炎に包まれていた。
「助けくれ~!」
「誰か助けて!家の中に!家の中にまだ子供がいるの!」
普段はのどかな雰囲気に包まれていた村の中で、あちらコチラから怒号や悲鳴が飛び交い。
ただ夢中で両親や兄妹達の無事を祈りながら、幼い子供や高齢のおじじやおばば、身重の者達を燃え盛る炎の中、必死で仲間達と共に一生懸命助けた。
そうして逃げ遅れた者が居ないかと最後の確認をしている時、事故は起こってしまった。
燃え盛る家の木材が彼の上に焼け落ちてきたのだ。
近くに居た仲間の迅速な救助のおかげで一命はとりとめたのだが、彼の背中は大きく焼けただれ。とっさに落ちてくる木材から顔を庇った右手も大火傷をおってしまい。
怪我や火傷をおったりと多数の怪我人が村人達の中に出るなか、ある意味、幸運な事に一人の村人も欠ける事も無く。
何とか燃え盛る村から逃げおおせた村人達は、今だ勢い良く燃え続ける村を横目にしながら簡単にではあるものの。怪我人達へと今できる最低限の治療を終え。
様々な感情を心に秘め。生まれ育った村を捨て、新たな新天地へと歩み始めたのであった。
◇◇◇◇◇
その日万次郎茶屋には、朝倉村で櫛や簪等を手作りして販売する店を営んでいる。彫刻師を生業にしてるドワーフの凱希丸が、自身の長年の友人になるらしい。
ワーウルフ族なるトイと言う男性と共にトイに良く似た青年、中年男性、腰の曲がった高齢のお爺さん達になる。ワーウルフ族の男性衆を数人連れて、愛満の元へ、とある相談をしに来ていた。
「と言う訳なんだっぺ、愛満。
だからこのトイ達ワーウルフ族の村の皆を朝倉村に受け入れ、住ませてもらえないだっぺか?」
世間では、ワーウルフ族の体の姿形が人族や獣人族に似ているものの。何故か顔だけ獣の狼に良く似た姿形になり。
まさに半人半狼のワーウルフ族の姿に自分達と少しでも違うモノを気味悪がり。排除したがる人族や、一部の獣人族達から魔獣と同じだと言われ続け。意味無く嫌われ、差別され。
獣人族の狼族からの突然変異で誕生したとされている。数少ないワーウルフ族に属するトイ達の現状に嘆いた凱希丸が愛満へと切々に訴え。
「トイもトイのおじさん、おばさん、兄弟達だって、みん~な本当に心優しい人達ばっかりなんだっぺよ。
………少し姿形が違うだけで、なんで、……なんで、こんな酷い事ができるだっぺ!…………本当になんで、……なんで、………
ワシにはワーウルフ族を差別する人族や!一部の獣人族の考えは全く理解できないっぺよ。
そもそも種族が違えば、姿形が違うのは当たり前だっぺ。
それにいくら姿形が違えども、ちゃんとお互いに意志疎通ができ。十分に話し合う事が出来れば、相手を一方的に迫害する事はおかしな事だっぺ!間違ってるだっぺ!
………………みんな、…みんな同じ生きてる、……同じ生きている人ではないだっぺか、…………それなのになんで何だっぺか、………。」
時折言葉を詰まらせながら、悲しさや悔しさを言葉の端々に滲ませながら訴え。
そんな普段とは全く違う雰囲気を醸し出している凱希丸の話に耳を傾けつつ。
愛満はトイ達が万次郎茶屋へと来店した時から、ずっと気になっていた。
少々衛生的にはどうかと思われる。だいぶ薄汚れた様子の布のような物が、トイの右手に包帯代わりに巻かれていて、………。
更にはトイの右手に巻かれた包帯のような物には、火事のさい火の粉が飛んで来て焦げたのか?、焼いたのか、大小様々な穴が空いており。
そんな焦げ跡の包帯下のトイの右手には、今だ生々しい焼けただれ火傷が確認でき。
時折背中を庇いながら顔を歪めては、苦しそうに体を動かし。
アレはきっと背中にも何かしらの大怪我を負っているのだろうと愛満には思え。
そんな大怪我を負ったトイを気遣う。他のワーウルフ族の面々も大小様々な怪我やら火傷を負っている様子で、………。
先程、凱希丸が涙ながらに教えてくれた。
ワーウルフ族の者達が普段いつものように狩りをしていた時等、まるで嫌がらせのように度々人族から無差別に襲われ。
それを何とか掻い潜りながら命からがら逃げ延びる時に負った傷跡らしく。
後にワーウルフ族の者達を愛満が自身の力を使い治療をしたさいに、その傷痕達を目にしたのだが、
それはそれは、まさに目を覆いたくなるような惨たらしい傷跡ばかりで、…………。
ある者は背中。ある者は肩から腰にかけて、またある者は胸や腹、足や腕等。
何の迷いや躊躇いも感じられない剣筋で、一直線に剣で切られた生々しい傷痕が残っており。
他にも鋭く尖った弓矢や小剣等が刺さった刺し傷跡に加え。中には刃の先に毒を塗られていた為に肌がどす黒色へと変色してしまった刺し傷跡もあり。
無惨にも村が焼け落ち。新天地を求め移動していた、ここ最近の間に負ったと思われる大小様々な青アザも確認でき。
中でも愛満が一番心を痛めたのが、無惨にも切り落とされた耳や不自然に尻尾の長さが半分になっている者、根本から尻尾が切り落とされた者も居て、…………獣人族の者達には大切な器官になる耳や尻尾は勿論の事。
片腕や片足が無い者、少し変な方向へと腕や足が曲がっている者達が居て、………………。
本当に酷い、……本当に残酷としか言い表せない傷跡を体のあちらこちらに負っているワーウルフ族の者達の姿に愛満は目頭が熱くなっていき。
すっかり変わり果て、痛々しい姿になってしまった友人トイの姿を見て、凱希丸が悔しそうに涙を流し。
涙ながらに愛満に何度も頭を下げ。トイ達ワーウルフ族の事を必死に頼み込む姿に
「大丈夫、大丈夫ですよ!凱希丸さんもトイさん達も、もう大丈夫です。
勿論。朝倉村はトイさん達ワーウルフ族の皆さんを歓迎させて頂きますし。
トイさん達ワーウルフ族の皆さんが現在負われてる。その火傷や怪我、昔負った怪我等々。
その全ての治療を僕が責任持って無償で治療する事をこの場でお約束させて頂き。
現在うちの村のリサ先生の病院に入院してもらっている。怪我や火傷を負ったワーウルフ族の皆さんの治療にしても僕やリサ先生達で責任もって治療させて頂きますから安心して下さい。」
終始、緊張した様子で体を強張らせ。酷く警戒した様子のワーウルフ族の者達を労るように優しく言葉をかけていき。
手始めにトイや、この場に来ているワーウルフ族の男衆の面々の火傷や怪我、昔の傷跡等をテキパキと治療し始めた。
◇◇◇◇◇
そう、あの日トイ達ワーウルフ族が隠れ住んでいた山深くの村には、トイ達ワーウルフ族の者を魔獣と意味なく決めつけ。
戦争の影響等で普段自分達が狩りをしている狩り場の獲物が捕れなくなった事もあり。トイ達が普段狩りをしている。
今現在、比較的獲物がまだ捕れやすそうな山奥の狩り場に目をつけて、その場を奪うため理不尽にもトイ達ワーウルフ族を魔獣退治と銘打ち。人族の手で残酷にも村に火を放たれ。
幾度となく人族の者達に教われようとも、たった一度の反撃から、その昔それを理由にワーウルフ族の村へと領主軍が攻め入り。
力がなく、幼い子供達が一番最初に見せしめのように殺され。次に年寄りや女性の順に敵から狙われ。
結果、大勢の人族と共にワーウルフ族の者達が命を落とす事になり。
そんな悲しい出来事があってからワーウルフ族の者達は、何度腰抜け野郎と言われようとも逃げの一手に徹底してきたのに、…………きたのに、……何もしてないワーウルフ族の者達はまた人族の勝手な考えや主張によって、残酷にも皆殺しされそうになったのだった。
そうして大なり小なり様々な傷を負いながらも命からがら旅していたワーウルフ族のトイ達は、たまたま昔馴染みの客から孫娘の誕生祝いにと自身が作った髪飾りの注文が入り。
普段はしてないのだが、注文客が昔馴染みな事もあり。
更には、古くからの凱希丸の友人の1人でもある事から凱希丸自身が現地まで品物を引き渡しに行き。友人との久しぶりの再会を喜び合い。
友人の孫娘への髪飾りも無事に引き渡し終え。孫娘も凱希丸が手作りした髪飾りを大変気に入ってくれ。
その後、友人夫婦や孫娘からの誘いで友人宅に何泊か楽しく過ごさせてもらい。
上機嫌な凱希丸が朝倉村へと相棒のバタイが引く荷馬車で帰っていた所。途中、急な尿意をもよおし。
たまたま入った山道脇の森の中で、村を捨て新たな新天地へと旅をしていたトイ達と運命的に出会い、再会し巡り会ったのであった。
◇◇◇◇◇
そうして愛満がテキパキと自身が使える力の1つをフルに使い。トイ達の怪我や火傷等を手早く治療し終えた所。
凱希丸達の話を静かに聞いてた愛之助や山背達が輪の中に加わり。
凱希丸やトイ、ワーウルフ族の村長達を交えた。これからの朝倉村でのワーウルフ族の住居や仕事、生活面の事等を話し合う事になり。
住居等はわりとスムーズに決まったのだが、村でのワーウルフ族の仕事面な事がなかなか決まらず。
皆で、あーでもない、こーでもないと頭を悩ませていて、…………
「………う~ん、……………………改めて聞きますけど、長老やトイさん、ワーウルフ族の皆さん達は、どういった仕事をこれからやっていきたいですか?
何か希望とかってあります?」
ワーウルフ族達がこれから朝倉村に新しく仲間入りするにしても食べていく為、何かしら働かなければならず。
また生きていく為、家族を養う為にも銭を稼ぐなり、自給自足するなりで働かなければならず。
そんなワーウルフ族達が、これから村で生きていく為の仕事面等が、自身達の姿形等を気にしたりして、なかなか決まらず。どうしたものかと愛満が頭を抱え。
本日何度目かになる。自身の目の前に座るワーウルフ族の面々に問いかけてみた所。
凱希丸曰く、ワーウルフ族の者が集中し過ぎてしまうと普段より眼力が倍増して、それはそれは目付きが凶ぼ、…………いや、少し悪くなり。
更には真剣になればなるほど口が緩まっていき。いつしか口から舌が飛び出てしまうらしく。
まさに現在、少々眼力共にワイルド感マックスの顔になってしまっている。今にも頭から湯気が出そうなほど考えこんでくれているワーウルフ族の長老が
「う~~~~~~~ん、……そうですな、……………。
こう言ってしまっては何ですが、私達はワーウルフ族は、今まで迫害する者達に見つからないように種族の者達だけでひっそり暮らしてきました。
なのでコレと言って、何かやりたい仕事があるかと聞かれましても年老いた私などでは、なかなかコレと言って思いつかず、………。
これ、お前達はどうじゃあ?何か各々でやりたい事等ないのかのう?」
ワーウルフ族な長老が若者衆へと話をふると比較的若いワーウルフ族の若者がおずおずと手を上げ。
「じ、自分は!皆の生活を守れるような、そんな仕事に就いてみたいスッ、………あっ、じゃなくて就きたいです!
種族や見た目が違っいても小さい子供から年老いたおじじやおばば達が、いつ来るか分からない者達に怯えず。
笑って安心して過ごせような。そんな心から安心して笑顔が溢れる生活がおくれるようにしてやりたいッス、……です!」
普段なかなか接する機会がない長老を前にして、かなり緊張した様子で自分の意見を必死に話してくれ。
「お、俺も!俺達男衆が狩りや仕事で、家や村を空けていても家族が安心して生活出来るようにしてやりたいんだ!」
「お、俺もだ!」
「俺もそんな仕事があるなら、是非やってみたいっス!」
と口々に話して、話を聞いていた凱希丸や愛之助、山背達も
「おっ!それはナイスアイデアだっぺよ!
トイ達ワーウルフ族は元々勇敢でいて、今までやってきた狩りの経験もあるだっぺから、そこに狩りのさいに鍛えられた度胸を始めだっぺね。
少々の事なら戦い慣れもしてるであろうだっぺから、たまに力業を使わなくてはいけない場面もあるかと思うだっぺが、トイ達ワーウルフの皆が村を守る仕事に就いてくれれば、安心できるだっぺ。
それに人の痛みや、どんなに良い事だけを口にしていても人の善悪がワーウルフ族の者には解るだっぺから、本当トイ達が村を守ってくれるならば、これほど心強い事はないっぺよ!」
「そうじゃのう~。ワシも昔、何度か旅の途中にワーウルフ族と出会った事があるのじゃが、みんな心根優しく。家族や仲間を大切にする良い奴ばかりじゃったのじゃ。
じゃから、そんなワーウルフ族だからこそ、この村を守る仕事に就くのは大賛成じゃぞ!」
「拙者も!拙者も大賛成でござるよ!
それに愛満。ワーウルフ族の皆になら、愛満がここ最近悩んでおったあの事を任せられるのではないでござるか?」
大きく頷きながら、それぞれが納得した様子で自分達の意見を教えてくれ。
何やら愛之助が愛満へと、ここ最近のとある悩みの解決策になるのではないかと問い掛け。
「…………………そうだね、愛之助!」
愛之助の問い掛けに何やら決意した様子の愛満が
「あの~、……ワーウルフ族の皆さんには関係無い事かも知れないんですが、……………現在、ここ朝倉村を訪れてくれる冒険者の人達や観光客の人達が沢山居まして、…………。
皆さん、村のルールと言いますか、僕や村人達で決めたルールを守って下さる優しい良い人ばっかりなんですけど、この先もっと村が発展したさい、どうなるかちょっと解らなくて、…………。」
村が発展すると共に村の人達の生活面等が安定していき。
それはそれで村長の立場として嬉しいのだが、人の出入りが増えると共に、今度は村の治安面が気になっている現状で、
「それに初めて朝倉村を訪れた人達が道に迷い。村の中で迷子になってしまったりしていて、
他にも目当ての店がどの建物になるか解らないとか言われてて、……………。
まぁ、それは店の看板を大きくしたり。字が読めない人用に絵看板も足してみたりしたんですけど。
この前なんか村を訪れた観光客の人が道に迷ってしまって、何処をどおしてそうなったのか、何故か住宅街の方へと迷い混んでしまったみたいで、………。
たまたまソコに通りかかった村の奥さんが、その観光客の方を本来の目的地まで案内して差し上げて、何とか事なきを得たのですが、一歩間違えたらどうなっていた事か、…………はぁ~~、…………。
更に更に、………こんな事本当は考えたくないんですけど、その観光客のお客さん、本当に観光目的の人だったのかとも不安を覚えてしまい。」
人を疑い慣れしてない愛満は、そんな事を考えてしまう自分自身に自己嫌悪しつつ。
「また少しずつですけど、村の中を行き来する荷馬車や馬車の往来が増えてきてですね。
村の中を歩く時、たまに荷馬車や馬車とすれ違う時にドッキとする事があったとも村の人達から聞いて。
そんな話を何度か耳にするうちに、これはどうかしなきゃと考えていたんですよ。」
朝倉村に住む村人達から聞いた。ちょっとしたお困り事等の話をして
「だからですね!ワーウルフ族の皆さんさえ良ければなんですが!
ワーウルフ族の希望者の人達には、僕がこの後建てる予定の。
村の何ヵ所かに建つ事になる交番で村の道案内、落とし物なんかの管理、ちょっとした揉め事等の仲裁、村のパトロール等が主な仕事になる。朝倉村のお巡りさんになってもらってもらいたいんですよ!
あっ、勿論!ちゃんと詰所と言うか、数在る交番の本拠地になる。朝倉警察署もちゃんと建てる予定ですし。
福利厚生と言いますか、待遇面も色々バッチリ考えていますから、そこらへんは安心して下さい!
はい、絶対!僕の目が黒いうちには、ここ朝倉村ではブラック企業を絶対許しません!そう!絶対に!
……………………って、ワーウルフ族の皆さん、どうですか?朝倉村の平和を守るお巡りさんになってもらえます?」
最後の方は何やらブラック企業に苦い思い出でもあるのか、元役場職員になる愛満が力説して話。
長々とではあったのだが自分の考えを述べ。ワーウルフ族の長老達に問い掛ける。
すると愛満の話を聞いたワーウルフ族の長老達は酷く驚いた様子で
「そ、そんな大役!始めて会ったワシらワーウルフ族の者達に勤めさせてもらえるんですか?」
「えぇ、もちろんですよ。ワーウルフ族の皆さんは、凱希丸さん達の話を聞いていて嘘が嫌いで真面目な実直な方が多いのが解りましたし。
狩りが得意と聞いて、狩りが得意なら道を覚えるのも得意かなぁと思いまして、…………。
いやね、僕の故郷に住んでいる近所の猟師のおじちゃん達も道を覚えるのが得意で、同じような風景に見える山の中でも道を間違えたりせずにバッチリ覚えていたんですよ。
なので改めてになりますが、この朝倉村の平和を守る大変な仕事になるのですが、是非ワーウルフ族の皆さんに、この朝倉村を守る『村のお巡りさん』になってもらえないかと思っているのですが、どうでしょう?
あっ、勿論!無理にとは言いませんし。ワーウルフ族の方に合った他の仕事も準備しますので、少し考えてみてもらえないでしょうか?」
と愛満がワーウルフ族の長老を含め。ワーウルフ族の面々に問い掛けた所。
愛満の力のおかげで火傷や怪我が治り。栄養不足等で少し顔色が悪いものの。活力を取り戻した様子のトイが
「いえいえ、そんな考えるまでもありません!
もちろん!我らワーウルフ族、その大役を引き受けさせて頂きますし!
それより何より愛満さんには、感謝の言葉しかありません。
ありがとうございます、本当にありがとうございます!
私達ワーウルフ族を村に受け入れてくれるばかりか、そんな重要な仕事を任せて頂き。本当に、……本当に何と言ったら良いものか、………感謝の言葉しかないです。」
「お、俺も!俺達嫌われ者のワーウルフ族に優しくしてくれた愛満さんや凱希丸さん達の為!死ぬ気で頑張るッス!」
「俺もだ!あの火事のせいで、顔半分に火傷を負った娘のこの先の事を夫婦で心配しては、毎日泣き暮らしていた嫁さんや娘達に笑顔を返してくれた。そんな愛満さんの為なら俺も死ぬ気で頑張るぜ!
本当ありがとう、愛満さん。あんたが火傷を負った娘の顔を元に治してくれたから娘を始め。嫁さん達の顔に笑顔が戻ってこれたんだ!本当にありがとうございました。」
「ぼ、僕も!愛満さんや村(ワーウルフ族)の皆の為に頑張ります!」
「ワシもじゃあ!」
「自分もです!」
トイ達ワーウルフ族の皆が涙を流し感謝する中、無事朝倉村でのワーウルフ族の仕事が決まる。
◇◇◇◇◇
「皆さん、お待たせしました。話し合いで疲れたと思ったので、甘い物でもどうですか?」
長い長い話し合いが終わり。何やら台所で作業していた愛満が、ガラスの器に盛り付けられた涼しげな見た目の茶菓子と共に緑茶等を持ち。戻って来て、
「はい、どうぞどうぞ。朝倉村名物の1つ。桃を使った冷たい『桃のお汁粉』になりますよ。
お代わりも沢山ありますので、皆さん遠慮せずにモリモリ食べて下さいね!」
それぞれの前に『桃のお汁粉』や緑茶、おしぼり等を置いて上げながら凱希丸を含めたワーウルフ族の面々へ。いつものように茶菓子を振る舞い。心ばかりのおもてなしをする。
すると甘い物好きの凱希丸や山背達が真っ先に桃のお汁粉へと飛び付き。
「おぉ~!冷たい桃のお汁粉とは、また始めての出会いになるだっぺね!
それに小豆を使った甘いお汁粉は、何度か食べた事があるだっぺが、アレはアレで凄く美味しかったっぺよ♪
だからこの冷たく冷えた『桃のお汁粉』、今から食べるのが楽しみだっぺよぉ~♪」
友人でもあるワーウルフ族のトイ達の今後が無事決まり。更にはトイ達ワーウルフ族の酷い怪我や火傷も治り。
一安心した様子の凱希丸は、普段の甘い物好きなのただのちっこいドワーフのおじさんへと戻り。
自身の前に置かれた『桃のお汁粉』を見つめながら、頬を緩ませ話。
酒も好きだが甘い物も好きな山背が
「……………な、何!?『桃のお汁粉』じゃと!?ほぉ~~~~~~、それはそれは珍しいのう~!
それに、……う~~~~~~ん♪…ワシの好きな桃独特の甘く、フルーティーな良い香りがするのじゃ!
こりゃあ、たまらん!!」
桃の香りや桃を使った『桃のお汁粉』に興味津々な様子で、早速いつものように優雅にモグモグと…………いや、じゃなく。まさにガツガツとした様子で『桃のお汁粉』を食べ始め。
「な、なんだっぺ、これは!
まず見た目からして普段食べてる小豆色のお汁粉と違い。優しい肌色と言うか、桃色に染まったお汁粉の見た目に興味が湧いてきてだっぺ!
そこに一口食べれば、お汁粉の具になる『桃の果肉』や白玉のモチモチとした食感が口の中で楽しめるだっべよ♪
更には、桃の果肉を使われたと思われる。そんな桃の汁粉が滑らかな舌触りと共に桃の風味が口の中で合わさり、ものスゴく美味しいだっぺよ!
ほらほら、トイやワーウルフ族の皆も遠慮せずに『桃のお汁粉』食べるだっぺ!これを食べなきゃ損だっぺよ!
ハァ~~~~~~~~~♪本当に美味しいだっぺ♪」
桃のお汁粉に感激した様子の凱希丸がトイ達へと桃のお汁粉を食べらように進めたのだが、ワーウルフ族達は自分達が初めて目にした美しく高価そうな食器と共に、森に自生している果物等の甘味以外、口にした経験がなく。
ひどく緊張した様子で、ただ己の前に置かれた『桃のお汁粉』や緑茶が入ったカップを見つめる事しかできなく。
カチカチのまま椅子に座っていて、……………。
そんなトイ達の緊張を少しでも解すように凱希丸は、いつもより少しオーバーリアクションで『桃のお汁粉』を食べ。味の感想等を話していたのだが、それがいまいちトイ達には伝わっていない様子で、………………。
照れくさそうに照れ笑いを浮かべた凱希マルチは、改めてトイ達へと『桃のお汁粉』を食べるよう進め。
早々と一杯目の『桃のお汁粉』を完食し。2杯目のお代わりを貰いに行っていた山背が
「そうそう!この桃のお汁粉、本当に旨いのじゃぞ!
ワシなんて、まだまた後3杯は軽く食べるつもりじゃし。お主ら遠慮などしておったら、ワシが食い付くしてしまうかもしれんぞ!」
トイ達を急かして、何やら今度はドヤ顔で愛満へと話し掛け。
「しかし愛満、この『桃のお汁粉』の甘み。ワシの読みじゃと桃の甘みだけでは、ないのではないかのう?
ふふふっ♪、ワシのこの繊細な舌は誤魔化されんのじゃ!」
『桃のお汁粉』に使われている汁の甘味が桃だけではないだろうと聞き。
「へぇ~、山背スゴいね!それに良く解ったね。そうそう、今日の『桃のお汁粉』はね。
この前、神社前の並木道で沢山収穫した桃を使って『桃のコンポート』を愛之助やタリサ達みんなで作ったでしょう。
その桃のコンポートを使って、コンポートをミキサーでピューレ状にしてね。
『桃のコンポートのピューレ』と『桃のコンポートのシロップ』、家のお店の『白餡』を合わせて、冷たく冷やして桃のお汁粉の汁に見立ててあるんだ。
他にも凱希丸さんが言ってたけど、桃のお汁粉の具材には普通の小豆と言うか、つぶ餡やこし餡のお汁粉と違ってね。
つぶ餡?つぶ餡の小豆の皮?、…………そんな感じの変わりで、食感や味のアクセントに『桃のコンポート』の桃の身を一口大に切って、白玉と一緒にお汁粉の具として入れてあるんだ。」
簡単にではあるのだが『桃のお汁粉』の作り方などを山背へと教えて上げ。
そもそもトイ達ワーウルフ族へのおもてなしの茶菓子が『桃のお汁粉』になった訳を話始め。
「それにね、ココだけの話。僕の故郷では『桃』は長寿の象微になってるんだよ。
だからいろいろと苦労したワーウルフ族の皆に、これからは少しでも長生きしてもらって、笑顔溢れる毎日を朝倉村で過ごしてほしいと思ってさぁ。
後、少しでも朝倉村を好きになってもらえるようにと、村の名産の1つでもある桃を使って、僕が得意な和のお菓子を作ってみた訳なんだ。」
愛満がどこか照れくさそうにして、思い思いに桃のお汁粉を味わっているトイ達に聞こえないよう細心の注意を払いながらコッソリと山背に内緒話をし。
そこら辺は良く解っているらしい。自称人生経験豊かでいて、酸いも甘いも噛み締めたらしい山背は愛満へとカッコつけてウィンクし。先程の内緒話には触れぬよう。
「ほうほう!あの時の桃を使った『桃のコンポート』と、愛満お手製の『白餡』が使われておるのじゃな。
だから何処と無く、普段食べ慣れた愛満手作りの和菓子のような。そんな優しい甘味が口の中で感じられたのじゃのう~。
うんうん、よう分かったわ!」
普段、万次郎茶屋で働く山背には見慣れている。小豆(つぶ餡、こし餡)を使った『お汁粉』と少し違い。
何処と無く洋風の菓子にも見えた『桃のお汁粉』が和の菓子に見えないながらも、何故か口の中では和菓子独特の優しい甘味と言うか、今ではすっかり食べ慣れた。山背が好きな愛満手作りの餡子の優しい甘味が感じられ。
それが気になり。愛満へと質問したのだと後で教えてくれ。
あの後、何度も凱希丸から強く進められ。『桃のお汁粉』の美味しさに感激した様子のワーウルフ族の面々は、すっかり『桃のお汁粉』が気に入った様子で、本日何杯目かになるお代わりを繰り返し。
大人達の難しい話だからと遠慮をして、愛満宅2階で遊んでいたタリサやマヤラ、光貴達3人を呼びに行ってくれた愛之助達が茶屋へと戻り。皆で『桃のお汁粉』を堪能した。
◇◇◇◇◇
その後、愛満の力で元気になったワーウルフ族の者達は、朝倉村の一角に建てて貰った。立派で美しい造りの和風な家々に移り住む事になり。
ワーウルフ族の子供達は、勉強や給食を楽しみに毎日元気に朝倉学園へと通う事になり。今まで出来なかった勉強を始め。遊びや新しい友達作りを心の底から楽しんでいた。
ワーウルフ族の婦人達もまた家事や育児の合間の井戸端会議、珍しい食材や料理、お菓子等に日々驚きながらも心をトキメかせ。
ワーウルフ族の年寄りのおじじやおばば達も幼い孫や子供達の面倒をみては『大変だ、大変だ』と口にするものの。その顔は皆幸せそうに笑みを浮かべ。
何やら少し若返ったような見た目で、日々散歩やゲートボール、毎朝『朝倉公園』で開催されているラジオ体操等々に励み。
皆それぞれのワーウルフ族の者達が、実に充実した日々を送っており。
愛満が提案した『村のお巡りさん』の職業等は、愛満達の予想を上回り。ほとんどのワーウルフ族の若者、働き盛りの者達が働きたいと強く希望して、誰を『お巡りさん』に抜擢するかと愛満達の頭を悩ます。ちょっとしたハプニングがあったりしたのだが、………。
今日もまた、愛満から支給された青い制服をビシッと着こなしたワーウルフ族の面々は、朝倉村の平和を守る為。
ひいては大切な家族、友人、村の皆を助ける為にと毎日元気に朝倉村のパトロールに精を出すのであった。
こうして朝倉村の村人達、村を訪れる人達から暖かく迎え入れられたワーウルフ族の者達の顔には1日1日と笑顔が満ち溢れていき。
心配されていたワーウルフ族への差別や迫害も、何故か朝倉村では起きず。
新たに朝倉村へと仲間入りしたワーウルフ族と共に、新たに朝倉村の平和を守ってくれる『村のお巡りさん』が誕生する。
冷たい冷やし『桃のお汁粉』と、ワーウルフ族のお巡りさん の登場人物
・トイ
ワーウルフ族、ワーウルフ族の村で一番狩りが得意
凱希丸の古くからの友人、記憶力が良く、人の嘘が見抜ける
【ワーウルフ族とは体は人族に良く似ているものの、頭が狼になり、獣人族の狼族からの突然変異になると言われている
その為、人族や一部の獣人族から魔獣だと意味嫌われ、差別や迫害を受けていた】
その後、見事難関の抽選を突破して、村のお巡りさんからの主任へと就任する
・長老
ワーウルフ族の長老、最近産まれた孫にデレデレのご様子
可愛い孫とずっーと一緒に居たいのだが、気が付けば初代朝倉村警察署の署長に就任していた
・凱希丸
ドワーフ族、酒嫌いの大の甘味
今回、いろいろと男泣きしながら頑張るチッコイおじさん
・愛満
今回、自身の力をガンガン使って頑張っている、ちまっ子な青年
・山背
見た目は二足歩行のチッコイ陸亀
自称、酸いも甘いも噛み締めた渋目のちょいワル親父らしい
・愛之助
今回も大好きな兄者のお手伝い頑張る、見た目ファンシーな若侍
・タリサ、マヤラ、光貴
今回、大人達の邪魔をしないようにと幼いながら気を使ってくれて、愛満宅2階で大人しく遊んでくれていたチビッ子3人組
その後、愛満お手製の『桃のお汁粉』を各自3杯から5杯も欲張り食べ過ぎた為、お腹が苦しくなり
またまた大人しく横になっていなくてはいけなくなるご様子




