帰宅後
側妃ヴィオレッタの護衛を無事に終えたカルロスは、帰ってくるなり、大の字に寝転んだ。
「先輩、邪魔です。ここ、廊下です。また師匠に踏まれますよ」
通りかかったロジーナが眉根を寄せ、カルロスの足元を跨ぐ。
「くぅ~。おめぇのその冷たさが、今の俺には心地いいぜ」
カルロスは満足そうに目をつぶる。
「……キモっ」
「お〜、ロジーナ。また新しい単語を覚えたのか?」
「先輩、めちゃくちゃキモいです」
「そうか、キモいか。うん、それでいい」
ロジーナはまるでキワモノをみるかのような冷ややかな視線を浴びせた後、そそくさと奥へと行ってしまった。
辺りはしんと静まり返っている。
その静けさは、今のカルロスにとっては、なににも代えがたい癒しだ。
魔獣の咆哮や血飛沫も、あの令嬢たちの黄色い声とチカチカする極彩色より、百倍もマシだった。
「……ぐふっ」
突然、腹部に鈍い痛みが走った。
カルロスは反射的に目を開けた。
クレメンスが容赦なくカルロスの腹を踏み越えていく。
「し、師匠……」
苦痛に身体を縮め、身もだえるカルロスの元に、綺麗に磨かれた靴先が戻ってきた。
カルロスは顔を上げた。
「カルロス。王宮では廊下に寝転ぶという作法でもあるのか?」
クレメンスの真顔の問いかけてくる。どこまでも静かで、全てを見通しているような紫の瞳に射すくめられ、カルロスは引きつった笑みを浮かべた。
「い、いや……」
「お前は師範魔術師だ。自覚を持ちなさい」
突然、空間が歪んだ。
やべぇ、油断した。
カルロスは冷や汗をかいたが、後の祭りだった。
次の瞬間、やわらかい感触とともに、見慣れた壁が目に飛び込んできた。
そこは慣れ親しんだ自室のベッドの上だった。
カルロスは悔しげに「チッ」っと舌打ちをした。
そのままベッドに寝転がる。
「……相変わらずよく分かんねぇな、あの人」
天井を見上げながら、ポツリと呟く。その声はどこか寂しそうだった。




