応戦
「暗くてよく見えませんね」
フランクは海賊船を見下ろしながら独り言をつぶやき、瞬時に術を練る。
次の瞬間、フランクから閃光が放たれた。
辺りは数秒間だけ、昼間のような明るさに包まれた。
その閃光は左舷にも届き、船壁に登る黒装束の男たちの姿が一瞬だけ顕となる。
「五人か」
カルロスは独り言ちしながら、身を屈めて気配を消した。
「さて、どう料理しましょうか……」
フランクはゆっくりと自船へ視線を落とした。
眼下では、接舷フックをかけ、こちらに飛び乗ろうとしている海賊たちと、それを阻止しようと必死に剣を振るう騎士や兵士たちが攻防戦と繰り広げていた。
雄たけびや怒号、金属が激しくぶつかり合う鋭い音、断末魔の叫び、女たちの甲高い悲鳴が夜の闇に響き渡る。
フランクはその様子をしばらく眺めていたが、「フッ」っと口元に笑みを浮かべた。
「彼らに華を持たせてあげるとしますか」
法衣の袖をなびかせながら、ゆったりと術を練る。
そして、先ほどの閃光で位置を確認した海賊船の舵へ向かって放った。
衝撃波は一直線に舵に衝突し、舵は木っ端微塵に砕け散った。
「な……」
突然の衝撃に、その船に残っていた魔術師風の男が空を見上げた。
先ほどまで月を隠していた雲が晴れた。
月明かりに浮かぶ男――にっこりと笑うフランクと目が合った気がした。
見覚えのある顔に、思わず息をのむ。
それをあざ笑うかのように、フランクが優雅に指先を動かしはじめた。
「し、師範魔術師だっ!」
慌てて警告の声をあげると同時に船が大きく傾く。流れに逆らおうとする無理な動きで船体が軋み、木々が折れる音が次々と鳴り響き、船は制御不能のまま猛スピードで川縁へと突進した。岸壁に激突する大きな衝突音が夜の闇に響き渡った。
フランクは静かなまなざしを次の標的へと向けた。
派手な光と音と対照的に静まり返った左舷。口に短剣をくわえた黒装束の一味が、音もなくひらりと甲板に降り立つ。彼らは短剣を手にすると、迷いなく側妃――ヴィオレッタの船室へ向かい、滑るように音もなく走り出した。
その瞬間、鋭い風が床を滑るように吹き抜け、足元をすくわれた黒装束たちの身体が一瞬だけ宙に浮いた。
慌てて体勢を整えようとした黒装束の首筋に、カルロスの短剣が舞う。
血しぶきを上げた黒装束の身体が仰け反るようにして、船外――暗い水の中へ落ちた。
ザバーン。
カルロスは返す刀で、もう一人の黒装束の首筋を切る。宙を舞うように、次々と電光石火の速さで賊の首筋を正確に切断していく。
体勢を整えた最後の刺客がカルロスに襲いかかってくる。
短剣の切っ先がカルロスに迫る。
しかし、剣先が届く前に、刺客の身体に魔力の綱が瞬時に巻きつき、刺客は床に転がった。
「残念だったな」
カルロスは短剣を握った刺客の手を踏みつけた。
「ぐっ」
うめき声とともに、刺客の手から短剣が離れる。刺客の目が一瞬光った。
「おっと」
カルロスはすかさず、緩んだ刺客の口の中に手ぬぐいを押し込んだ。
「悪ぃな。自害してもらっちゃ、生け捕りにした意味がねぇんだ」
呟きながら、刺客の身体を無造作に右舷へと引きずっていった。
「おい、隊長さんよ。追いかけっこは終わったか?」
海賊の残党を片付け、誇らしげに剣を拭っていた騎士隊長が、不快そうに振り向く。
「何だ、魔術師。貴様はどこで油を売って……」
言いかけた隊長の足元に、カルロスは生け捕りにした刺客を「ドサッ」と放り投げた。
「ほら、お土産だ」
カルロスはそれだけ言うと、サッと宙に舞い上がる。水面で落ちた味方を救助しているフランクの元へと飛んでいった。




