064 誰だ、こんな話になりそうなフラグ立てた奴?!
「報酬……。そうね、あなたにはその権利があるわ。
ただし、世界の理に触れるような願いは叶えられないけれど」
「まぁ、ひとまず先にそちらの話をどうぞ。
働き以上の報酬を要求するのもなんなので、先に聞いてからに判断します」
「わかったわ。
……そうねぇ。最初から説明していい? それとも結論だけにする?」
「ある程度要点をまとめてかいつまんだ感じで最初からお願いします」
結論だけ言われても理由に納得がいかなければ引き受けられない。
「最初から、ね。
ならばちょっとおとぎ話みたいになるけど、一番最初っからざっくりいきましょうか」
そう言って、紅は一口お茶を飲んでから話し始めた。
「あなたの住む世界と、この世界、本来なら何のつながりもないのよ。
そうね、たぶん宇宙を想像してもらうとわかりやすいと思うわ。
並列してどこかには存在するけれど、遠く離れた星とあなたの住む地球とはつながりがないでしょう?
たとえ何か関わりがあったとしても、身近に関わるようなことはあり得ない。
それが二つの世界の本来のあり方なのよ。
でも、大昔にこの世界で大きな災害があった時に、どんなことが起こったのか、あなたの世界と一時的に繋がってしまったの。
それが記録に残る最初の召喚ってわけね」
「つまり、人為的に繋げたんじゃなく、偶然に?」
「ええ。本当に、隕石が頭に直撃するくらいの天文学的な確率なんだけど……。
その時に偶然繋がってしまった痕跡をたどって、何度かこちらからあなたの世界の住人を呼び込むなんて事が起こっているわ」
「それが、召喚?」
私の問いに紅がゆっくりとうなずく。
「でも、そのつながりは本来あってはいけないものなの。
漣ちゃんの世界は魔法は発達していないけれど、なぜか潜在魔力が高い人が多いのよ。
本来であれば使わない能力は退化していくのだけど……。
――とりあえず、その疑問は置くとして。
魔力が高い人間が呼び寄せられるから、この世界では本当に困った時には召喚を行えばいい、という空気があるのは否めないのね」
「他力本願な……」
「まったくだわ。
しかもそのせいで、繋がってはいけない二つの世界を近付けてしまった」
……なんだか、どこかで聞いた仮説のようになってきたんですけれど……?
「このままいくと、遠からず二つの世界は衝突してしまうわ」
「それってつまり、地球に月が体当たり、的な?」
「そんな感じね。
衝突してしまったら、二つの世界は粉々に砕け散ってしまうでしょう。
そしてまき散らされた破片が他の世界までも巻き込んで破壊してしまう」
「それって、二度と召喚できないように完璧につながりを絶ってしまわないと、解決にならないって事にならい?
……っと」
さすがにこの人の正体に想像がついたら敬語なしはちょっとまずいだろう、私……。
そう思ったんだけど、紅は気にした風もなく笑っていた。
「あぁ、さっきも言ったけど長くなるし敬語はいらないわ。素で話してちょうだい。
――漣ちゃんの言うとおり、それも必要な処置ね。
ただ、それは私には……私たちにはできないのよ」
「まぁ、紅がかまわないのなら遠慮なく。
――それ、なんで? 紅は要するに神様なんでしょ? どうしてできないの?」
「言ったでしょう? 本来私はこの件に干渉してはいけないの。
だから、協力してくれる人が必要なのよ。
私に二つの世界の完全な分離を願ってくれる人が、ね」
「いや、世界消滅とか困るしやって欲しいけど」
「そう簡単なお話じゃないの。
……それだけ大きな願いを叶えるためにはね、代価がいるわ」
「自分で願えっていっておいてそれかぃ……」
思わぬ切り返しについあきれ顔で呟いてしまう。
すると、紅は自嘲めいた笑みを浮かべてこちらを見つめた。
「そうね。漣ちゃんからすればそう思うでしょう。
でも、私たちだって無尽蔵に自分本位な力をふるえる訳じゃないの。
神は神という鎖に縛られる。
やれること、やっていいことは決められているのよ」
「世界の存亡に関わるような大きな願いは無償で叶えてはいけない、とか?」
「そういうこと。
あの塔もね、二つの世界が近付きすぎたのが原因なの。
影響し合う二つの世界が混じり合ってしまった部分を、塔という形で押さえ込んだ結果ね」
「でもその結果私が召喚されたって事は、余計に悪影響じゃ?」
「ええ。正直、この形で押さえ込んでおくのもそろそろ限界ね。
たぶん、結論を出すまでの猶予はひと月あるかないか」
「それが過ぎたらどうなるの?」
切られた期限は結構短い。
思わず眉を寄せると、紅は片手を上に向けて握った後、勢いよく指を開く。
「数年のうちに衝突事故でぼんっ、よ」
「うわぉ……」
予想通りだけど……。
そんなの私が背負うには重すぎないか……?
「それを避けたかったらどうすればいいの?」
「あなたに願ってもらうしかないわ。
漣ちゃんの魔力の強さならば、その願いを私たちに託すだけの術が使えるのよ」
「つまり、私以外にこの世界に可能な人間がいない、と?」
「ええ。魔力の強さだけで言えば、他にも数人候補者はいるのだけど……。
術の反動の大きさを考えると、半分こちらの住人になってるくらい強力な魔術具の主であるあなたが最適」
言いながら紅が私の左腕を視線で指す。
……なるほど。確かにこれの性能を考えるとそうならざるを得ないのか……。
「それで、代償っていうのは?」
ひとまず、判断するのに必要な情報は全部集めないと、と思って先をうながす。
すると紅は何とも言いがたい表情になった。
「なに? ここまで来て黙秘とかあり得ないし」
「代償は……。
あなたから代償を支払ってもらうとしたら、一つしかないわ。
元の世界には戻れない。命を絶つことも許さない。
――彼を失って、それでも生き続けること、よ」
言われた事を理解できるまでにしばらくかかった。
…………ちょっと待て、今こいつなんて言った?!
「ふざけるなっ!」
自分の怒鳴り声と共になにやら派手な音が響いた。
一拍おいて、それが私がテーブルを思いっきり殴りつけた音だと気付く。
「冗談じゃないっ。あの人の命と引き替え?
それなら世界なんて滅べばいい。
私の知った事じゃない」
どのみちあの人が助からないなら、世界を救う意味なんて、私には存在しない。
だって、私はあの人がいなかったらとうに死んでいた。
だから私だけ生き残るなんてあり得ない。
「さよなら」
出したままだった帰還符に触れると、私の剣幕に驚いたのか硬直していた紅が慌てて立ち上がり、私の手をつかむ。
「待って! ちゃんと最後まで聞いてちょうだい。
命と引き替えだなんて言ってないわ」
「……どういうこと?」
「漣ちゃんは彼と共にあることしか望んでいない。
だから、その望みは世界の存亡と引き替えられる程強くて純粋だわ。
……だから、私たちはあなたが世界のためにその望みを手放してくれるのなら、彼を助けてあげる」
「意味がわからないんだけど?」
「あなたの望みが叶わなくなる代わりよ。
私が彼の病気を治して健康に暮らせるようにするわ。
それが、私たちが漣ちゃんに支払う代価。
どう? 考える余地はあると思うんだけど」
「……治せるの? 本当に?」
「ええ。不自然がないように、いかにも手術が成功しましたってタイミングで治すわ。
理に触れるから最初から健康だったことにはできないのが申し訳ないけど」
紅の言葉に、確かに私のこともあの人のことも詳しく知っているんだと悟る。
でなければこんな条件は出せない。
「それを私が確かめることはできるの?」
「彼が確かに治ったどうかを?」
「治って幸せに暮らしているって事を、ね」
さりげなく条件を一つ増やすと、紅は考え込むようにあごに手を当てた。
「ごめんなさい、それは即答できないわ。
さっきも私たち、と言ったでしょう?
この件に関わっている他の人達の意見も確かめないと返事ができない」
「なら、その返事はいつもらえるの?」
「……そうね。あなたの世界の時間で三日もらえるかしら?
あの子を塔に入ってすぐのところで待機させておくから、またここで話しましょう」
今はこっちも混乱してるし、そのくらいの猶予は丁度いいかもしれないな。
「わかった、それでいいよ。
今日はもう帰らせてもらっていい?」
「送るわ」
「……いい」
申し出を断って、手を外させると同時に帰還符を発動させる。
部屋についたのを確認すると、そのままベッドに倒れ込む。
一体、何がどうなってこんな話になってるんだ、本当に……。
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