063 いたい人登場?!
不思議なことに、子供について歩いている間、一度も魔物に出くわさない。
それに、案内されている間に何度かドアをくぐった。
今まで塔の中でドアなんて一度も見たことなかったんだけどなぁ。
本当、どこに連れて行かれるのやら。
まぁ帰還符の発動ができないような場所に連れて行かれない限り、脱出だけはできるだろう。
そんな事を考えつつ結構長い間歩かされた後、それまでとは少し雰囲気の違うドアをくぐる。
すると、そこは……応接室だった。
毛足の長い絨毯のひかれた上に、布張りのソファセットとテーブル。
壁には大きな暖炉がしつらえられて、室内を暖めている。
そして、テーブルの上には湯気を立てるカップとケーキののったお皿が二人分。
「案内してきたよー」
子供の間延びした声に視線の先をたどると、暖炉の反対側に置かれている本棚の前に一人の男……じゃな……くもない、のかな?
身長的には男っぽいけど、うぅん……?
パーマっぽく緩くウェーブのかかった金髪は背中の中程まであるし、長袖だけど胸元がかなり大きくV字に開いたタイトなロングドレスは深紅。
靴は同色の十センチはありそうなピンヒールで、首にはつや消ししたゴールドとピンクゴールドを組み合わせた幅広のネックレス。
決して濃い訳じゃないけどしっかり化粧をした顔立ちはお世辞抜きでもとっても美人にみえるんだけど……。
シルエット――骨格――が、どう見ても男なんですが。
それも結構しっかり筋肉ついてるの…………。
「あら、お帰りなさい。丁度お茶の支度が調ったところ。
あなたは奥でおやつにしてらっしゃいな」
……ええと。なんか、昔海外映画に侍役で出てたしっぶい俳優さんばりの格好いい低音ボイスでございます……。
「わーい。ありがとうー。お父さん大好きー」
やっぱおまえが主犯かーーっ?!
目眩がする気がして額を抑えている間に、子供の足音がぱたぱたと遠ざかる。
「さあ、あなたもどうぞ。
折角のお茶が冷めてしまうわよ?」
「……はぁ……」
なんだかもう、どこから突っ込んでいいのかわからなくて間の抜けた返事を返すと、うながされるままにソファに座る。
「ごめんなさいねぇ、こんな遠くまで。疲れたでしょう?」
「……いえ……。なんか精神的にかなりくるんですが……。
それ、地ですか? それとも捨て身の嫌がらせです?」
「ん~? 別に捨て身ではないけど?」
……お願い。唇に人差し指当てて可愛い子ぶらないで……。
「――カエッテイイデスカ?」
なんか、この人と長時間話してたら何かがすり減っていく気がして、思わずそう言うと、目の前に居る人物は慌てて頭を振る。
「別にあなたをからかうためじゃないのよ?
色々制約があって、本来の姿じゃこの世界には関われないの。
だからこうして色々枷を付けているだけなの。
悪気じゃないから誤解しないで~」
「だったら動物の姿にするとか、石像がしゃべるとかの方がまだ良かったです……」
「ごめんなさいねぇ。私、本性が本性だからそういうのはできないのよ」
「じゃあせめて! もう少し厚着できないんですか?!
もしくは体のラインが出ないドレスにするとか!
てか、ライン丸出しドレスのごつい男ってなんの嫌がらせ?!」
「あのね、だから……」
「つか、形見えてんの! もろ丸わかりなの!! この露出狂ーっ!!」
なだめに側に来ようとする気配に、近付かれてなるものかと叫びまくると、相手が硬直した。
そして
「きゃーっ!」
可愛らしく叫んで空いているソファーの後ろに走り込んでしゃがみ込む。
「叫びたいのはこっちだーーっ!!」
私が更にテンションを上げた雄叫びを上げたのは、絶対あいつが悪い。
それから数分後。
私の前には、どこから取り出したものか、毛皮のストールを腰に巻き付けて下半身のラインを隠した痛い人が座っている。
こんな奴、痛い人で充分だ。
「――……で?」
「ほんっとう、ごめんなさいねぇ。わた」
「それ以上その話題に固執すんなら今すぐ帰る」
即座にアイテムボックスから取り出した帰還符を構える。
ディノ謹製のこれ、ぺらっぺらの紙だけど私が手にして帰ると強く思えば即時発動するんだ。
「いえっ、あのねっ?! とりあえずお茶でもどうぞ?!」
自分でもわかるくらい据わった目をしていたせいか、痛い人が慌てた様子でお茶とケーキを示す。
「……変な薬とか入ってないでしょうね?」
「ないないない。絶対ないから安心して。
お話しするために来てもらったんだから、そんなことするはずないでしょう?」
「……変態の考える事なんて理解できませんから」
「…………あぅ」
思い切り冷たく言い捨てると、痛い人ががっくり肩を落とす。
「あのね? 敬語とかいらないから素で話してくれる?
長い話になるし――あぁ、大丈夫。
ちゃんとお夕飯の時間までにはお部屋に送るから」
「その、声と合わない気色悪いしゃべり、何とかならないんですか?」
「ごめんなさい。これは枷の一つだから無理なの」
「……枷?」
そういえばさっきもそんな事を言ってたなぁ。
「ええ。本来、私はこの世界に干渉する資格がないの。
それを無理矢理、規則の隙間を縫って関わっているから、私だってわかるような干渉の仕方はできないのよ。
それで、できるだけ本性と違う姿を、と思って……」
「……つまり、あなたの本性は人の姿じゃなくて、かつ鉱物的な印象がある、と?」
「…………え? あら、そ、そんなこと、は……」
「単純に想像するとりゅ」
「駄目ーっっ」
言葉の途中で思いっきり叫ばれて口をつぐむ。
すると痛い人はちょっと涙目になっていた。
ありゃ、図星だったとか?
「はいはい、じゃあこの話題はここまで、ということで。
……とりあえず、呼び名くらいは聞いていいですか?」
さすがに直接呼びかけるのに痛い人はかわいそうすぎる、というか、自分の良識が邪魔をするんで名前を聞いてみることに。
「ありがとう。そうね……、紅、と呼んでもらえるかしら?」
「クレナイ、ですか?」
「ええ。……あなたのことは何と呼べばいいかしら?
漣葉ちゃん? ミュルカちゃん? 蓮ちゃん?」
さらりとした確認に思わず眉を寄せる。
この世界の住人はもれなく私の名前を発音できないはずなんだけど……。
しかも、ご丁寧に本名から偽名から列挙してくれてまぁ。
ちなみに漣葉はレンハと読む。
ごく親しい人は一文字取って漣――レン――と呼んでたから、そこから取った極簡単な偽名だったってわけ。
名字に関しては、父方の祖母の旧姓を拝借した。
「……まぁ、紅に関する質問は答えてもらえない、んですよね?」
「どうしてもというのなら答えられる範囲では答えるけれど……。
できれば聞かないで欲しいわ」
ふむ。言下に突っぱねてくるかと思ったら、案外と譲歩した返事が来たなぁ。
「ま、私のことは好きにどうぞ。
――それで、私を待っていたっていうのはどういう意味でしょうか?」
「あなた自身を待っていたのよ。
異世界から選ばれたマーシェル・ウィードの主である、あなたを」
「それは……」
「より正確に言うなら、二つの世界を救う可能性を持った唯一の存在である漣ちゃんを、ね」
「……あぁ、やぁなフラグきたよ」
うすうす思わないでもなかった台詞についこぼしてしまう。
そんな私を見て、紅が困った子だわ、とでも言いたげに笑った。
「とても大切な話だから、しっかり聞いてよく考えて返事をしてちょうだい。
受けるも断るも、あなた次第よ。強制するつもりはないわ」
「報酬次第では考えます」
ひとまず交渉ごとの基本、ということで言質を取られないような返事をしておく。
さて、何を要求されるのやら……。
お読みいただきありがとうございます♪




