056 まわりは勝手に評価を下す。
「じゃあ、私が成果出したらディノに押し付けて逃げた人たちは悔しいだろうねぇ」
「そりゃあ悔しがるだろうね。
たぶん、伯爵は成果のにおいを感じ取ったんだと思うよ。
あの人は政争に関してはかなりの猛者だから」
くすくすと笑いながらの言葉に、ちらっと、影で奥さんが暗躍してるんだろうな、とか思った。
ま、言わぬが花だろうけど。
「でも、確かに今後成果は出るだろうね。
ただその裏にあるのがディノ君の魔術具だとなると、君も充分注意してないと危なくなるよ」
「あぁ、それは大丈夫ですよ。
たぶん、伯爵は私の後ろ盾も含めて引き受けて下さるつもりのようでしてから」
「保護者付での訪問の方が好都合とか言ってたしね」
「ならそれもひとまずは向こう任せでいいね。
本当、手間が省けてありがたいよ」
案外本気で言っているらしい言葉に私だけでなくディノも笑った。
「そんなに心配していただかなくても、私はもう小さい子供ではありませんよ?」
「最初に会った時子供だったから心配するのが楽しくてね。
人の趣味に口出しするなんて無粋なことをするもんじゃないよ」
さらりと返されて、今度は苦笑するしかなかったらしい。
でも、こういう人が側にいてくれるって幸せなことなんだろうな。
そんなことを考えていると、ザームさんがくすくすと笑う。
「ミュルカちゃんはそういうところが可愛いねぇ」
「……はい?」
突然の台詞に首をかしげると、ザームさんは一層楽しそうに笑う。
「君はもう少しそういうところを安売りするべきだと思うよ?
まぁ、無理だろうけどね」
「……なんだかよくわからないんけど」
「こっちの話だから気にしなくていいよ。
そろそろ話を戻そうか」
「ええと……、なんの話だったっけ?」
聞いたところで答えてはくれないだろうからおとなしく話題転換にのる。
「私の世界から召喚し過ぎて塔の発生原因になったんじゃないかって話だっけ?」
「そうですね」
「でもそうなると、私は完璧に被害者だよね」
元から被害者でしかないとは思っていたけど、うやむやのうちに原因扱いされかけていたから主張しておこう。
「まぁ、ミュルカちゃんに責任があるとは誰も思ってないから大丈夫だよ」
のんびりとした返事にひとつうなずくと、ザームさんはにんまりと笑う。
「だけど、なんらかの関係はあると思うけどね」
「……なんでまた?」
「二つの世界が不安定になったとかはさておき、最初に立ち返って召喚条件だよ」
「この手甲と相性でしょ?」
確かこの前似た話題になった時はそう言ってたはず。
「うん、そうだね。
じゃあ、マーシェル・ヴィードとの相性はどこで判断されているんだと思う?」
「……え?」
そういえば、そこまでは聞いたことがない。
「魔力の有無?」
「それだったら、ディノ君が使えないのは不思議だと思わないかい?」
「……だよねぇ?」
思い付きで言ったものの自分でもおかしいと思っていたんで、否定されても気にならない。
でも確かに、魔力が必須項目なら最初私の魔力がないと判断したのが妙に早かった気がするし。
「……いいんですか?」
「話しておいた方がいいと思うよ。
ミュルカちゃんは頭がいいし情報は惜しまず提供しておかないと、僕たちに対する信頼が目減りしそうだからね」
いくらか咎めるようなディノの言葉にザームさんはあっさりと応じる。
「それはそうですが……。
知ればその分彼女が巻き込まれることになりませんか?」
「それこそ今更だよ。
彼女を状況の中心から遠ざけたところで安全度に対した差はないからね」
「それはそうなんですけど……」
なんとも歯切れの悪いディノの言いようにザームさんは苦笑いだ。
「心配なのはわかるよ?
でも、彼女に情況を理解しておいてもらった方がいざという時に迷わないですむんじゃないかな」
「話が見えないっ」
いっこうに進まない会話に割り込むと、今度はディノが苦笑いになった。
「そうですね……。
確かにミュルカにはきちんと話しておかないとかえってややこしいかもしれませんね」
「だから、何の話?」
「マーシェル・ヴィードとの相性に関して、です。
それは元々はとある王族のために作られたものなんですよ」
「うん?」
「つまり、王族としての資質があれな人には使えない、という制限がかかってるんだよ」
「……はいぃ?」
思わぬ言葉に声をあげてから、その意味を追う。
国宝クラスの魔術具だって話だし、ザームさんの言うようにそんな選別機能があるとしたら、これを扱えるっていうのはちょっとやばい意味にならないか……?
確実に手柄を立てるだろう実力と権力者としての資質を持った人間なんて、危険以外のなにものでもない。
「ええと……。
もしかして、私ってばかなり危うい立場?」
「さすがミュルカちゃん、状況把握が早いねぇ。
これまではいい感じに無能で無害に見えていたから放置気味に見逃してくれてたんだけど、これからはそうもいかなそうでね。
こと、ここのところで何件か成果の報告もしてるし、加えて一気に攻略が進む目処が立ってしまったからね」
「それで、伯爵に後見してもらう話になったわけかぁ」
確かに権力を持ってる連中が本気で排除にかかってきたら何が起こるかわかったものじゃない。
それなりの防波堤は必須だ。
それにしても……。
「塔の攻略のために召喚されたのに、攻略したら命狙われるとかどんだけ身勝手なの」
呆れて物も言えないとはこのことだね。
「ま、権力争いに必死な連中が考えられるのは、自分の権力か脅かされるかどうかだけだからねぇ。
君がこの国での権力になんてまったく興味がないっていうのは理解できないんじゃないかな?」
「あなたがこの国での定住を視野にいれているというのが、権力を欲しがっている、としか思えないんでしょうね」
苦笑混じりの言葉に、私も苦笑いになるしかない。
まさか、こんなところに影響してきてるとは考えもしなかった。
「そういうつもりじゃなかったんだけどな」
「君の場合、単に帰る理由がなくなる――というか、帰れない理由ができることを考えた上での保険、でしかなかったんだろうけどね」
どこがおかしそうなザームさんの言葉に、曖昧なうなずきを返す。
多少、まわりに対する嫌がらせでもあったのは内緒、ということで。
「まぁ、要するに、だよ。
マーシェル・ヴィードはある意味でその時この国にもっもと必要な人間を守る、とも言えるわけだね」
「……ふむ」
確かに権力者の素質がある人間を選ぶ魔術具となればそんな風に考えてられても不思議はないだろう。
「だから、そのマーシェル・ヴィードが選んだミュルカちゃんは、塔の攻略に最適な人材なんだってことだし、場合によってはそれ以上の何かを秘めていると思いたくなるわけだ」
「いや、それは勘ぐりすぎだから」
「そうかな?
君のおかげで凶悪無比な魔術具が開発されたし、これからもあれこれ出てきそうだからねぇ」
「それは私のせいと違うし」
「ま、違うことにしてもいいけど、ミュルカちゃんがいろんな事態を動かしているのは確かだからね。
警戒されてもしかたがないとは思うよ?」
……なんだか、丁寧に少しずつ逃げ道を塞がれた思いですが、気のせいでしょうか?
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