40-6 続く講義と進む改良。
「アイテムボックスはあなたも使っているから興味もあるでしょうが、さっきの質問の答えは思いつきそうですか?」
「……えっ?」
「解析魔術が得意な属性、ですよ」
うっかりしてた問題を蒸し返されて、返事につまっていると、横から楽しそうな笑いが割り込んできた。
「折角の講義中に悪いけど、こっちの結果が出たよ」
ナイス、ザームさん!
救世主だね!
「と、いうわけで答えだけさらっといくよ。
解析魔術が得意なのは風・水・土属性。
風属性は周囲の状況を立体的に把握するのが得意、水属性は人の体みたいに水分の多い物の中を調べるのが得意、土属性は地面に接しているものや地中を相当遠距離まで認識できるのが利点だね。
それぞれ使い方によって向き不向きがあるけど、しいて一番を選ぶなら風属性だね。
もっとも汎用性が高くて、極端に苦手な解析方法がないという点で、解析系に関しては栄えある一位だよ」
「ふむぅ」
「じゃ、ミュルカちゃんは一回で覚えてくれたことにして、本題に戻ろうか」
「って、ちょっと待てーっ!」
「はいはい、心配だったらあとでディノ君に補講でもしてもらってごらん。
――それで、さっきの解析結果だけどね。
発動起点がディノ君の設定した変数の範囲を無視してたよ。
正確に言えば、ミュルカちゃんが術符に触れている部分と目標の的の間、その想定される射線上全てに設定されていたね」
「……はぃ?」
なんだ、それ?
あんまりにも予想外の内容にディノと声がハモったことに突っ込むのも忘れてしまった。
「ええと?」
「つまり、ミュルカちゃんは手元で発動させた術を投げたんじゃなく、発動と破棄をすごい早さで繰り返して投げたように見せていた、ということかな。
なんて非効率な方法だろうねぇ」
「……いや、意識してそうしてるわけじゃないし……」
「うん。意識してやってるんだったら、ちょっと嫌がらせしていいか聞くところだねぇ」
「なんでっ?!」
思わぬ台詞に思わずかみつくと、ザームさんが朗らかに笑う。
「だってそうじゃないか。
この状態であの回数だよ? 普通気絶してるから。
なのに無自覚無疲労ときたらそのぐらいはねぇ」
……あぁ、うん。
笑顔で言われるとかえって怖いです……。
「まぁ、半分本気の冗談はこのくらいにするとして」
「……半分は本気なんだ……」
「……ま、まぁあまり気にしない方が」
「ミュルカちゃん、君はまず、普通に魔術を発動させることを覚えようか」
「はぁ……」
普通に、といわれても何をどうやっていいのかわからない。
「ねぇ、ミュルカちゃん?
君、炎が飛んでいくって理解してる?」
「え? ……う~ん。
向こうではそんなこと起きないからなぁ。
火の粉が飛ぶ程度ならまだしも……」
「なるほどね。おかしな発動はそれが原因かな。
射線制御の魔術は普通に発動していたし、ミュルカちゃんにとって、火球を投げ飛ばすっていう概念がないからあんな形になったんだろうね」
「あぁ、そういう事ですか。
――それなら、核を使ってみましょうか」
「核?」
「さっき、投擲系魔術の訓練用のボールを使っただろう?
あんな感じで、何かを中心に、それを燃やして圧力をかけて投げる、という形にするんだよ。
まぁ、本当なら何もなしで発動できるように訓練するべきなんだろうけどね。
今回の目的は手っ取り早く遠距離攻撃手段を確保すること、だから」
そう言って、ザームさんは手に持っていた魔術符(元・試作魔術具)をディノに返す。
「とはいえ、何を核にするかが問題だね。
あまり高価な物を使う訳にもいかないし、かといってすぐに燃え尽きてしまっても意味がないからねぇ」
「あぁ、それは問題ないですよ。
少し魔術陣をいじって、核は燃やさないように調整しますから」
さらりと言って、ディノはまた魔術符をいじり出す。
たぶん、新しい調整をかけるんだろう。
「とりあえず今は何で試すの?」
「そうだねぇ……。ひとまずクッキーでいいんじゃないかな?」
「えぇっ?!」
ザームさんの言葉に思わず声を上げると不思議そうな視線がこっちに向く。
「食べ物を粗末にするのよくないよ。
こんなにおいしいのにもったいない」
「……うぅん。そう言われるとねぇ」
「あぁ、魔術符用の予備の白紙がありますから、とりあえずそれをちぎって丸めたのを使えばいいんじゃないですか?」
ディノがいともあっさり解決してくれた。
そして、ブレスレット(魔術具試作型)を差し出してくる。
「早いね?」
「少し動作が遅くなりますが、解析魔術を分離せずに、さっきの状態のまま繋げたんです。
こうしておけばあとでより詳細な解析ができますしね」
「ふぅん?」
「で、これが核に使う用の白紙――要するにただの紙ですね」
続いて、軽く丸めた紙くずが渡される。
まぁ、確かに射線制御があるから何でもいいんだけどさ。
絵面的にどうかと思います。
とはいっても経費全部おごってもらってるような状態だし、わがまま言うのもなんなので黙って受け取って準備をする。
「術が発動する過程で紙が燃え尽きたように見えるかも知れませんが、実際には圧縮されてわからなくなっているだけなので、気にしなくて大丈夫ですよ」
「了解」
まぁ、圧力かけるんだから小さく固まっちゃって当然か。
などと適当に納得して、魔術具を付けた右手で紙くずを弾ませてから的に向き直る。
発動させよう、と意識するとやっぱり少し右手のひらが熱くなる。
でも、今回は手に乗せた紙くずを中心に力が集まっていくのがわかった。
狙いは正面の的。
飛んでけーっと、考えたのと同時に紙?が飛んでいく。
そして、的が爆発炎上しました。
「燃えたっ?! 消えないし?!」
「落ち着いてください。
防御魔術が施されていますからすぐに消えますよ。
そうでなければ係員が消火に来ますから」
今まではすぐに消えていただけに、慌てた私をディノが苦笑混じりにたしなめる。
言われて、的を観察していると、確かに火の勢いが弱まり始めていた。
「……脅かさないでよ」
「まぁ、無事に発動できでよかったですね。
いくらか威力が強すぎたかも知れませんが」
「ん? 私、威力に関しては何も考えてないよ?」
「ということは、ディノ君が設定した威力指定が高すぎたのか、予想外に強力な魔術になっちゃったか、どちらかだね」
「威力指定は通常通り、所有者の発動限度の八割を上限として、中央値を設定してありますよ?」
「……ディノ君?
魔力無尽蔵のミュルカちゃんの、一撃発動限度が普通の人と同じだと思うかい?」
「…………普通に考えると、最大保有量の十パーセントが発動限度ですから……。
通常だと全力相当ですかね……?」
指摘されたディノがぽりぽりと頬をかく。
「威力指定の数値を見直した方がいいでしょうね……」
「先生方。発動限界って何の話?」
わからない言葉が混じってたんで、流れないうちにと思って口をはさむ。
「発動限界は、安全に魔術を使うために使っていい魔力の限度の事ですね。
決まりがある訳ではありませんが、おおよそその人の魔力保有量の七~十五パーセントと言われています」
「まぁ、本当に必要な時は保有量の九十八パーセントまでは使ってかまわないけどね。
ただし、完全に使い切ってしまうと昏倒するから、安全を考えるのなら常に十五パーセントほどは予備量と考えて使わない習慣を付けないとだね」
説明を聞いて、ちょっと考える。
つまり、発動限度を十パーセントと仮定すると、その八割が全体の八パーセント。
さらにその半分だから、さっきのは保有量の四パーセント。
予備量を十五パーセントに設定すると、大体一日二十一回使える計算か。
「もっと威力低くていいから一杯使える方がいいな」
「少し慣れれば威力は任意設定できるようになりますよ。
ただ、あまり多用しすぎるのは危険ですよ?」
「そうはいうけどさ、弾数には余裕があった方がいいと思うんだよね。
可燃物がいるの、二階だけとは限らないし」
「まぁそう心配しなくても、魔力は少しずつ回復するから、単純な計算通りの数よりは使えると思うよ?」
ザームさんはいたってのんびりとそう言って、笑う。
「なんにしても、少し練習すれば実用できそうでよかったね」
「うん。ありがとうね」
ディノに笑顔でお礼を言うと、ちょっと照れたような様子だった。
「お礼は完成品ができてからでいいですよ」
素直じゃないなぁ、と思ったけど、照れ隠しなのが見え見えですよ?
ちなみに。
この後、五日程魔術の特訓が続きました。
自分の限界をつかめ、ということなのか朝から晩まで、強弱の調整や連射を、倒れる寸前までやらされました……。
二人とも、変な方向にスイッチ入ってませんでしたか?!
お読みいただきありがとうございます♪




