036 塔であったことと一般常識のおさらい。
「で、そのこんがり焼け焦げの原因はなんだったんだい?」
笑顔で繰り返されて、小さくため息をつく。
「ん~……。あんまり話したくないからざっとでいい?」
「ざっとの程度にもよるけどね。
ひとまず話せる範囲で教えてくれるかい?
足りない分に関してはこちらから聞くから」
確かにその辺が落としどころかな、という提案にうなずく。
だけど、さて、どこから話したものかな?
「塔の二階にいる魔物って、どんなのか知ってる?」
「なんだか変な形状の魔物ばかりが出るとは聞いているね」
「……確か、毒々しく真っ赤で、異様な臭気を放つ魔物でしたか?
確かこのくらいの大きさで……」
言いながらディノが一抱えくらいの大きさを示す。
「このくらいの大きさの白い部品が二つ付いていて……」
うん、確かにポリタンク(仮)のキャップはそのくらいの大きさだった。
「全体に凹凸で何かの模様が描かれていると聞いていますが」
「……おおむねあってるんだけど、実際以上にまがまがしく聞こえるね……?」
正体を知らない人の説明から想像しているだけの人から聞くと、あんなものでも結構恐ろしげな物になっているから驚きだ。
私には突っ込みどころでしかなかったのに。
「実際はそれ程でもないってことかな?」
「なんというか……。私の世界では極一般的な道具にそっくりなんだよね。
だから、怖いっていうよりは、何でこんなところで歩き回ってんのよ?!って、突っ込みどころになっちゃってる感じかな」
「それは歩きまわる道具があるってことかな?
それとも生き物を敢えて道具って表現しているのかい?」
ザームさんの不可解そうな呟きに、慌てて首を振る。
「いや、私の世界でも歩いたり動いたりはしないんだけど。
材質とかがもう露骨にこの世界じゃあり得なそうなのに、どこをどう見ても同じ物にしか見えないのが突っ込みどころって感じ?
初めてポリバケツ(仮)見た時は、とうとう大量生産品まで付喪神になったかと思ってぽかんとしたもんなぁ」
あの時の衝撃を思い返して苦笑いになっていると、二人は首を傾げる。
「今、なんと言ったんですか?」
「あぁ、ツクモガミだよ。
……なんて説明したらいいのかな?
私の国には昔っから、長く年を経たものに神が宿るっていう考えがあってね。
そういうのになったのかと思ったの」
「面白い現象だね。実際に見たことはあるのかい?」
「あいにくと私はないね。でも、古くからある民間信仰みたいなものだよ」
「民間信仰、ですか……。ミュルカの世界では宗教が一つではないのですか?」
「うぅん……。大きいのが三つあって、あとは色々各地に土着の信仰がある感じだね。
同じ国でも色んな宗教を信じてる人達が混在してたりするし。
いいとこ取りで色んな要素を取り入れまくってる節操ない宗教もあるくらいの感じ」
「それは興味深いですね。
この世界では宗教は神殿で教えている教義以外には聞きません。
もう少し詳しく……」
「ディノ君、本筋からそれるから、その講義は今度お願いすることにしようか」
思わぬ所でかなり食いついてきたディノを、ザームさんが苦笑いでたしなめる。
「……そうでした。すみません」
ちょっと赤くなって謝るのが可愛い、とか思ったり思わなかったりして。
というのは余談。
「いや、私は別にかまわないよ。
――で、まぁ、そんな話を小さい頃からわりと聞くから違和感なくそう思っちゃったっていう感じなんだよね」
「年を経た物に神――つまりは魂が宿る。それがツクモガミなんだね?
そして、塔の魔物を見てミュルカちゃんはツクモガミだと思った」
あれ? 今回はちょっと発音しにくそうだけど、名前の時程じゃないみたいだな。
この辺の法則もちょっと気になる所だけど、今回は本筋からそれるから黙っておこう。
「うん。まぁ、付喪神になるのは物だけじゃなくて、植物とか動物も……って、ごめん。
話がそれるね。やめとこう」
つい、微妙な訂正を入れてしまってから我に返る。
私まで話をそらせてどうするの……。
「ごめんごめん、話戻そう。……どこまで話したっけ?」
「その赤い魔物がポリ……? ええと……?」
「あぁ、そうだった。
一階にいたのが青っぽい桶みたいなのが私の世界ではポリバケツ、二階にいる赤いのがポリタンクっていうものにそっくりなの。
だから(仮)って付けて呼んでたんだ」
ディノが発音しにくそうに首を傾げているのを見て、何を話していたか思い出したんで、ざっくりまとめる。
「(仮)とはまた面白いことを考えつくね」
ザームさんがおかしそうに笑う。
そこはちゃんと聞こえるのか。
「ええと、何かこっちで決まってる名称があるなら教えて欲しいんだけど」
「いや、特に決まった名称はなかったはずだよ」
「そうですね、これといったものはなかったはずです」
「不便だなぁ……。ポリバケツ(仮)だとわからないんだよね?」
「聞き取れないねぇ」
八年も経ってるのに名前で魔物を定義することすらしてないなんて、どれだけゆるゆるなんだろう、と思ったのはとりあえず脇に置く。
この二人に言ってもどうしようもないだろう。
「じゃあ、青バケツと赤タンクだと?」
「それは聞き取れますよ」
「どうせ僕達がわかればいいんだし、それでいこうか」
二人の同意がもらえたんで、とりあえずこれで決定、と。
……ちょっと、(仮)が気に入ってたから残念っていうのは秘密。
「そういえば、タンクって事はミュルカちゃんの世界では何かを保存するために使っていた容器なのかな?」
「うん。一般的によく使う物で、暖房機の液体燃料を家庭で備蓄しておくために使う物なんだ」
「……って、もしかしてその焦げ跡は……?」
「たぶん予想通りかな。
倒してる間に怪しい液体かかってるなぁ、とは思ったんだけど、火の気がないし、まさか本来の用途通り可燃性高い液体だとは思わなくってね」
眉を寄せたディノに苦笑いで応じる。
この世界、石油資源がないのか、一般的じゃないだけなのか、今までそれらしき話を聞いたことがない。
だからないものだと思ってたのもあるし、塔の中は火の気がなかったから安心していたのもある。
「そういえば、この世界って化石燃料って使ってるの?」
「……ええと?」
「オッケ、聞き取れないって事はたぶんないんだね」
言葉が通じない=こちらにはない概念・物体=存在しない、と判別が簡単なのはありがたい。
「ちなみに、どんな燃料のことなんですか?」
ええと……。ディノは何でこういう細かい所に食いつくんだろうなぁ……?
「私も詳しいわけじゃないからざっくりとだけど、地下奥深くに埋蔵されている可燃性の高い物質のことかな。
確か、元は動植物の死骸で、それが地圧・地熱で変成したものだって話だけど」
「……そんな物から燃料が作れるのですか」
「まぁ、確か数万年数十万年単位の時間がかかってできた物らしいしそう簡単に真似できる物でもないだろうけど、確か石炭もその一種だったはず」
「「石炭が?!」」
あ、はもった。
「だってあれは鉱物の一種だろう?」
「生き物がどうやったらあんな風になるんですか?」
すごい勢いで二人が食いついたんで、思わず少し体を引く。
「ええと……。だから詳しくないんだって……。
ん~……。理系はあんまり興味なかったからなぁ……」
ぶつぶつ言いながら記憶をひっくり返す。
「確か、石油が動物性プランクトンで石炭が植物だったかな?
ん~と……? 要は化石みたいなものだって考えて良かったはずだけど……?
植物が完全に腐敗分解される前に土中に埋まって、それが地熱と地圧がかかることによって変質した物体、だった、はず。
……これ以上は覚えてないや」
結局たいしたことを思い出せずにあきらめて二人に視線を戻す。
すると、なんだかすごく驚いたようにこっちを見てた。
「どうしたの?」
居心地悪いなぁ、と思いつつ尋ねるけど返事はなかった。
……なにをそろって放心してるんですか……?
お読みいただきありがとうございます♪
化石燃料に関する部分はウィキペディアを参考にさせていただきました。




