033 突っ込み所が多すぎて、どこから突っ込んで良いのやら・・・。
微妙になってしまった空気をどうしようか、と思っていて不意に思い付いた。
「……って、なんでそんな大けがしてるの?!」
思わずびしぃっ、と効果音が付きそうな勢いで、ディノを指さす。
「それはね、ミュ……」
「あの、説明の前に手当てをお願いしたいのですが……」
ザームさんの声をディノがため息混じりに遮った。
「……でも、それ、治るの時間かかりそうだよね」
ディノの手のひらをのぞき込むと、まだかなり酷い。
手のひらの半分くらいがすんごい状態だし、ざっくり入った切り込みも骨は見えないけど、くらいには深さがある。
……あ、やばい。ちょっと気持ち悪くなりそうかも……。
血に弱い私が視線をそらすと、ディノが小さく笑う。
「まぁしばらくは痛むでしょうけど、魔術での治療がこれ以上できないわけではないんですよ。
別の治師の方にもやってもらうだとか、数日おきに先生に術をかけてもらうとか、方法はありますから。
魔術での治療が受けられないのに比べればはるかに早く治ります」
笑顔で言ってるけど、まだ顔色悪いし……。
確かに最初に比べれば随分ましになってるけど、まだ一目で顔色が悪いってわかる程には調子が悪そうだった。
「この部屋に救急箱はあったっけ?」
「一応簡単なものはありますよ。……確か、私の机の一番下の引き出しに」
軽く首を傾げて思い出しながらの言葉にザームさんが立ち上がる。
確かにいつまでも話し込んで手当てを遅らせてもいいことはないだろう。
「私が治療魔術使えれば良かったのにね」
「なら練習してみるかい?」
何気なく呟くと、机をあさっていたザームさんが面白がるように言い出した。
「折角そこに練習台になれる怪我人もいることだしね。
試しに教えてもらってみたらいいんじゃないかな?」
「……あれ? 基本から順番に覚えた方がいいんじゃなかったっけ?」
「まぁそうなんだけど、流石にディノ君の傷はねぇ……。
少しでも早く治せる可能性があるのなら試したいって所だね」
「……どうする?」
ザームさんの言葉を受けてディノを見上げると、こちらも小さく首を傾げた。
「ミュルカが嫌でないのであればかまいませんが……。
体調は大丈夫ですか? 火傷は?」
「私は別にどこも痛くないよ。今までだって、塔の中で怪我したことなんてないし」
あれはびっくりしただけだ。
そう主張すると、ディノはようやく頷いた。
「じゃあ、少し練習してみましょうか。
今回は実戦ありきなので、まず方法論だけお教えしますね」
「……って、ディノは調子悪いんでしょ? ザームさ~ん」
「嫌だよ、僕は。そんな面倒なこと」
…………おいおい。
思わず半眼になったのは、私悪くない。
「それに、ディノ君の方が上手なんだから彼に教わる方がいいよ」
笑顔で言い切られ、ディノが苦笑いでうなずいた。
まぁ、本人がかまわないんならいいですが……。
怪我人の扱い間違えてませんか? お医者様……。
「治療魔術の根底は相手の傷を治したいという思いです。
その思いで集めた魔力を相手の傷に送り込むことで傷を癒すんですよ」
「……うぅん……。わかるようなわからないような……?
呪文とか唱えればそれでよしってわけじゃないんだ?」
「そもそも魔術というのは、こうしたい、という願いを形にする力なんです。
確かに呪文や魔術具を使えば安定した効果を得やすくなります。
ただ、それはあくまでも補助であって、目的をはっきりさせるための手段でしかありません」
「つまり、治れ~って気合い勝負?」
「極論すればその通りです」
私の乱暴な結論をあっさり肯定するディノ。
……そんなんでいいんかぃ……。
「あぁ、でも、そういう理屈が通じちゃうから魔術なのかなぁ」
私は私で理屈になってない納得の仕方をする。
結局の所、この世界では系統だった知識と技術なんだろうけど、私には謎スキルでしかないわけだし。
この前の魔力補給も悩むの放棄した途端成功したしなぁ。
そんなわけで、見たことのある二人のやり方を真似てみることにする。
目をつぶって右手でディノの手を支えて、左手を上にかざす。
なんとなく、手甲がある分左手の方が強化されてそうだしね。
後はさっきみたザームさんのやり方を思い出しながら集中する。
体の中にあって循環しているんだから、要は血液みたいなものなんだろう。
なら、心臓の辺りに集まるのは当たり前の事。
そう考えると、少しずつ何かが集まっていく感じがあった。
さいわい、この前みたいにスライム塗りつけられてるみたいな違和感はない。
集まったものは対流することできっと純度が上がっていくんだ。
それが今度はゆっくりと左手の方に流れていく。
最後はディノの手のひらに降り積もって傷を治す力になる。
不思議と、そんな想像は簡単にできた。
やっぱり、一度実際に見たのがよかったのかも知れない。
しばらくはそうやって集中していられたんだけど、なんだか気がそれてしまったので目をあける。
「……あれ?」
なんか、ディノの手の傷が消えてるんですけども……?
「もしかして、成功?」
信じがたくてつい、目の前の手のひらをつついたりなでたりする。
うぅん……。見た感じ、怪我してたとか信じられないんだけど、これで実は表面だけしか治ってない、とかだったら困るなぁ。
ディノみたいに傷の様子を調べられればいいのに、と思いつつ左手でぺしり、とやってみた。
『異常なし(・ヮ・)b』
「うわっ?!」
ディノの手のひらから吹き出しがポップアップしてきたっ?!
思わず両手ともひいちゃったんで、取り残されたディノの手の上には相変わらず吹き出しが揺れてる。
……ええと? よく特売品に付いてるポップみたいな揺れ具合だね……?
「……ど、どうかしましたか?」
「ええと……。うん、ちょっと混乱中? この変な吹き出しどうしようね?」
「……? 吹き出し、ですか?」
きょとんとしたまま聞き返され、ディノの顔に視線を動かすと、訳がわかりませんって表情。
「これ、見えない?」
ひょんひょん揺れてる吹き出しを指さすと、ディノは首を傾げる。
私の目には、白地で黒縁取りの吹き出しにMSゴシックらしきフォント、ご丁寧に顔文字まで入った異常なしの吹き出しが見えているわけですが。
うぅん……。なんなんだろ、これ?
指先でつついてみると、なぜか揺れが収まって、二行分吹き出しが大きくなった。
『異常なし(・ヮ・)b
表示を削除しますか?
Y/N』
「……はぃぃ?」
何この既視感のあるパソコン的表示……?
ま、消せるんなら消しておこうかな。
なんかすんごく気になるし。
揺れ具合といい、手のひらから吹き出しがはえてるシュールさといい……。
「とりあえずYっと」
ボタンになってる部分を指先でちょんとつつく。
すると吹き出しがウィンドウを閉じるアニメーション付きで消えた。
……ええと……。どこの窓(複数形)でございましょうか……?
「何をしていたのか聞いてもいいですか?」
対応に困った、と顔に書いてあるディノに声をかけられ、首を傾げてしまう。
「ん~と……。私にもよくわからないんだけど……。
とりあえず、ディノの手は治ってる? 治ってない?」
懸案事項の中でも優先順位の高かったことを口にすると、いつの間に側に来たのかザームさんがひょいとディノの手を取った。
そして、術を使う。
「問題ないよ。綺麗さっぱり治ってるね。
君、意図して魔術を使うことはできないっていうの嘘じゃないのかい?」
……笑顔のまま酷い疑いをかけられたようで。
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